ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

「ドライバー日誌」プロローグ/本誌客員特派員・清水直樹

軽貨物の現場から物流のあり方を考えてみる/連載

2023年4月26日 (水)

(イメージ)

話題もはや国民生活の基盤を成すインフラとして定着している宅配サービス。インターネットの普及で生まれた新たな購買方法であるEC(電子商取引)は、2020年初頭からの新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛の動きを受けた「巣ごもり消費」の広がりで一気に国民に浸透した。

店舗からネットへ。購買スタイルの急速なシフトは、国民の生活の在り方をも変えようとしている。ECによる購買は、あくまで生活をより豊かにする嗜好(しこう)品が主な対象であった。ところが、コロナ禍による巣ごもり消費スタイルは、こうした既成概念を打ち破った。

今や、生活必需品から趣味のグッズまで、あらゆる商品をECで取りそろえることができるようになった。コロナ禍を経験しなければ、これほど早く購買スタイルのシフトが進むことはなかったであろう――。それが流通・物流業界に身を置く人間の率直な感想だろう。

国土交通省がまとめた21年度の宅配便等取扱個数の調査によると、宅配便利用個数は49億5300万個で前年度実績を2.4%上回り、7年連続で増加した。大手宅配事業者を中心に、中小や個人事業者も含めた宅配荷物サービスの需要は、増加の一途をたどっている。

宅配事業者も、さまざまな思惑や曲折を経てEC関連事業を基幹ビジネスの一角に据えるようになってきている。ビジネスモデルの構築における考え方はさておき、もはや参入を見送るにはあまりにも市場に対する影響力の強い領域になっているからだ。

とりわけ、こうした傾向の顕著なのが、食品と医薬など医療関連商材だ。まず食品は、スーパーマーケットをはじめとする小売店舗が大中小さまざまな商圏を確保しながら流通システムを構築してきた代表的な領域だ。

(イメージ)

生鮮品をはじめとする食材を供給する拠点として、こうした小売店舗は機能してきたものの、コロナ禍を契機として様相が急変。スーパーがECビジネスを展開するなど、新たな事業展開に乗り出すことで消費者のニーズの多様化に対応している。

一方で、医療関連商材については、関係する規制の緩和なども追い風にして、ECビジネスの拡大に一役買っている。中でも、処方薬を自宅で受け取るサービスは、ECサービスの“成熟”度合いを示唆する事象として注目すべきだろう。10年前にそんなサービスが普及することを誰が想像したであろうか。

こうしたECビジネスを支えるのは、大手や中小の宅配事業者だけではない。軽バンを使って荷物を配達する「貨物軽自動車運送事業」、いわゆる軽貨物事業を展開する個人事業者は、ECをはじめとする宅配サービスの中でも顧客に配達する「ラストワンマイル輸送」を担う重要な役割を果たしている。街でしばしば見かける、黒ナンバーを搭載した軽バンを操りながら配送する事業者がそれだ。

軽貨物事業は、現代の社会を映し出す鏡のような存在ではないか。そこから見える風景は、国民の生活スタイルの急変する姿と将来像を浮き彫りにする。LOGISTICS TODAYの新連載「ドライバー日記」は、こうした観点からラストワンマイルを中心とした輸配送の現場を報告するとともに、見えてくる問題点に基づく提言も発信していく新コーナーである。

第1回「出発」 / 第2回「初日からの洗礼」 / 第3回「『伝承』の危機」 / 第4回「並べる方向に見る現場力」 / 第5回「悩ましいルート選択」 / 第6回「円弧状のルート」 / 第7回「事前準備」 / 第8回「記念すべき初回」 / 第9回「わずか3分の初仕事」 / 第10回「心機一転」 / 第11回「置き配の流儀」 / 第12回「仏の心境で」 / 第13回「ペース配分」 / 第14回「二者択一」 / 第15回「代引決済で学ぶ配送員の本分」 / 第16回「在宅なのに『置き配』?」 / 第17回「リスクばかりの狭い道路」 / 第18回「宅配に欠かせない路肩へ寄せる技」 / 第19回「路地に突っ込まず手前で駐車」 / 第20回「ナビ案内の落とし穴」 / 第21回「ナビの世界を超越する新興住宅地」 / 第22回「同じ地番が3軒!?」 / 第23回「置き配、それは現場の知恵の結集」 / 第24回「オートロックマンションは腕の見せどころ」 / 第25回「ドライバーの試練の場、タワマン」 / 第26回「おそるべきタワマンのエレベーター」 / 第27回「代引き顧客に教えられた配送という商取引」 / 第28回「チームワークこそプロドライバーへの近道」 / 第29回「法人向け輸送の心得」 / 第30回「衝撃に敏感な荷物を積み込む」 / 第31回「荷物を『固定』するノウハウ」 / 第32回「輸送中のよもやま話」 / 第33回「気の抜けない構内作業」 / 第34回「精密機器搬送業務、最後は伝票の手渡し」 / 第35回「缶飲料ケースを安全に荷台へ積むには」 / 第36回「的確な搬送につながる『3台の連携』」 / 第37回「箱積み作業に垣間見る物流現場の奥義」 / 第38回「倉庫フロアの流儀」 / 第39回「クーポンマガジン配布で威力を発揮する軽貨物」 / 第40回「都市部は『足』で集中的に回る」 / 第41回「冊子配布業務で実感する『使命感』」 / 第42回「スーパーのマガジン設置、成功のカギは人間関係」 / 第43回「関西で物流の最前線に迫るには?」 / 第44回「突然頭に張り付いた『大胆な着想』」 / 第45回「忘れない『黒ナンバーを手にした瞬間』」 / エピローグ「新たな挑戦の始まり」