話題呼び鈴を鳴らしたが返事がない。雨が降り続く中で、20キロを超える重さの飲料水の箱を抱えながら返事を待つ。残念ながら不在のようだ。
かつては、宅配時に訪問先が不在であれば、不在連絡票を郵便受けに入れるなどして荷物を持ち帰るのが一般的な対応だった。しかし、いわゆる「物流の2024年問題」(時間外労働の上限規制などに代表される働き方改革関連法の施行に伴い物流業界で生じる様々な問題)も視野に、EC(電子商取引)サービスの急速な普及に対応した宅配ドライバーの就業環境の確保や業務効率の向上を促す観点から、宅配事業者は訪問先の不在時における対応策を講じるようになった。その代表例が「置き配」である。
不在時さらには非対面での受け取りを希望する顧客に対して、玄関先や車庫など分かりやい場所に荷物を置くサービスだ。事業者によっては、事前に置き配の可否を尋ねておき、可能な場合は置く場所を具体的に指定してもらう場合もある。置き配サービスの最大の課題である商品の盗難や水損・汚損をできる限り減らすため、養生や包装などの対策を講じるなど、独自の工夫を凝らしているのが実情だ。
私が担当している飲料水の配送業務においては、置き配はあくまで、顧客の希望を受けての取り組みであることを明確にしている。不在時に置き配が可能である場合は、飲料水の箱を置く場所の指定を求めている。玄関先であれば扉の右側か左側か、あるいは車庫か、いずれでもない場合は具体的な指定場所を決めてもらう。ペットボトルに充填(じゅうてん)されているとはいえ、口に入れる商品である飲料水を屋外に置くのであるから、より丁寧に対応するのが当然であろう。
今回の配送の場面に戻ろう。不在であると判断した私がまず取り組むべき事柄は、荷物の置き配の可否を確認することだ。伝票には、「置き配OK」との注釈があり、さらに「玄関先(扉の左側)」と書かれてある。門扉の外から玄関の様子を探ると、なるほど玄関扉の左側に箱を置けるスペースがある。しかし、床面はすでに雨でぬれて光っていた。そこに箱を置いてしまったら、どういうことになるか。想像するまでもないことだった。(つづく).
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