ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

SBSロジコムと千葉モードビジネス専門学校、物流人材育成でタッグ

物流を学び実践する教室、物流企業の協力で進化

2023年10月31日 (火)

ロジスティクス物流業界における人材不足と、高齢化の問題は、これからますます深刻さを増していく。

「2024年問題」では、トラックドライバーの長時間労働と低賃金に焦点が当てられた事で、改めて「3K」業界イメージが喧伝されてしまい、物流事業者の人材確保においても大きな障がいとなる。物流危機が影をおとすのは、単に人材確保の難しさだけではない。定着率を上げて、次代の物流人材を育て上げることでも、新たな取り組みが必要となっている。

SBSロジコム管理本部・業務運営部長の秋葉博也氏も、「本来なら、物流学校を私たちで作ってしまいたいくらいです」と、物流人材採用と育成の難しさを痛感していたひとり。そんな秋葉氏が、千葉モードビジネス専門学校(千葉市若葉区)で物流ビジネス科を設けたことを知り、ぜひ協力できることがあればと打診したことをきっかけに、物流・3PL事業のSBSロジコムと、学校教育の千葉モードビジネス専門学校の協力関係が始まる。

▲物流ビジネス科がある千葉モードビジネス専門学校 空校舎の外観

「物流は社会に欠かすことのできないインフラ。優秀な人材を送り出すことが、私たちが物流危機において果たすべき役割だと考えています」と語ってくれたのは、学校の物流ビジネス科課長、岩下和哉氏。同校は2022年に「物流ビジネス科」を開き、ことし4月に同科の一期生となる5人の学生を迎えたばかり。広報・就職支援部統括本部長の志村雄一氏は、「物流危機への対応に資する人材輩出に向けて、物流業界の専門分野、実務面での教育サポートの必要性を感じていました。 物流をきちんと学べる学校があるのだと言うことを、まずは広く知ってもらうことからスタートしたい」と、秋葉氏の打診から始まった協力関係を、物流企業最前線のノウハウとして学校教育に取り込み、深化させていった。

▲千葉モードビジネス専門学校物流ビジネス科課長の岩下和哉氏

「SBSロジコムから、秋葉さんはじめ、優秀な講師の派遣でも協力していただき、物流現場の実務や専門知識において、格段に質の高い教育を提供することが可能となりました。物流に関する専門知識を学べる学校自体が少ない状況ですが、より実務に即した実践教育を学べるという点でも、当校は他にない魅力的な学校だと自負しています」(岩下氏)と、学校サイドはこの協力関係による成果を高く評価する。

一方、人材を求める企業サイドでも「大卒でも、高卒でも、改めて社内教育やOJTを経て、現場の戦力となるまでの過程を経なければなりません。この学校の卒業生には、物流に関する高度知識と、現場経験を積んだ即戦力となることを期待していますし、そのための教育で私たちの役に立つことがあるならば、ぜひ活用して頂きたいと考えています」(秋葉氏)と、物流人材育成へ向けての協力関係の力強さに自信を深める。

物流ビジネス科が目指す、高度物流人材の育成

現在、物流ビジネス科に籍を置く留学生は、ベトナムからの3名、スリランカからの1名、ミャンマーからの1名の計5名。日本で就職するために、日本語学校へ入学、より高度な知識を学ぶためにこの専門学校への入学を選んだ外国人たちが中心である。

「やはり、国を出て、語学の勉強をしながら、さらにはバイトで生計を立てながら学ぼうとする生徒たちは、目つきが違うと感じます」と秋葉氏は言う。自身、同校の講師として「安全衛生基礎」の授業を受け持ち、企業の最前線でのノウハウを講義する中で、学生たちの「覚悟」を実感する場面も多いのだと言う。

▲SBSロジコム管理本部・業務運営部長の秋葉博也氏

1年目に学生たちが学ぶのは、物流の歴史や、物流管理、貿易概論、物流インフラ論、物流システム論、航空物流基礎、運行管理論など多岐にわたる。運転免許教習や、フォークリフト免許取得も推奨してサポートするが、同校が育てようとしているのは、あくまでも「現場知識を持った高度物流人材」。現場作業の実情を知りながら、物流戦略に活用できる人材の育成である。「1年時は座学が中心となりますが、2年になれば、SBSロジコムの実際の現場での実習を重ねてもらうことになります。まさに、新入社員に教えるのとまったく同じようことを勉強しながら、求められる即戦力へと成長を促すことが目標です」(秋葉氏)。語学スキルや、ビジネスマナーなど社会人としての基礎も学びながら、将来は同社の戦力としても、長く実力を発揮できる人材候補となることに期待を寄せて、より実践的な指導を行う。

学校教育から変革する、物流業界のマイナスイメージ払拭

同校の卒業生たちが、物流業界において頭角を現すまでには、まだまだ時間と実績が必要だ。また、日本の高校卒業生たちにも「物流ビジネス」の魅力を知ってもらうこと、外国から日本にやってくる学生たちには「物流ビジネス」を目指して来日するような人材を増やしていくための、地道な広報活動で、人材の裾野を広げることも進めていかなければならない。

▲千葉モードビジネス専門学校広報・就職支援部統括本部長の志村雄一氏

「日本の高校生にとっての物流は、宅配の配達員のイメージを持つことが多いです。 ロジスティクスの意義はもちろん、自動化された現場や、託児所・カフェなどアメニティーの充実した労働環境など、高校の先生たちも知らない新しい物流現場を知ることで、3Kという印象を払拭してもらうことから始める必要があります。色々な現場や新しい技術を実際に体験し、高校とこの物流ビジネス科をマッチングするような機会も増やしていかなければなりません」(志村氏)。「社会の中でどれだけ重要な要素か、さらには物流危機における日本においてどれだけ必要とされていくのかもしっかりと啓蒙していきます」(岩下氏)。物流教育の社会的な啓蒙は、業界イメージを刷新する長い道のりとなるが、卒業生たちが物流現場で活躍すること自体もまた、大きなきっかけとなり得るのかも知れない。

今後の日本の物流のキーパーソン、外国人留学生たちへの期待

秋葉氏が学生たちに教えるのは、学問の基礎だけではない。日本の風習や、「日本人とはどういうものか」に至るまで、日本の会社で活躍できるビジネスパーソンとしての素養も育てる。「留学生たちに言っているのは、日本人に使われるのではなく、日本人を使うための勉強をしなさい、ということ。私たちの支店でも、たくさんの留学生が働き、そこから正社員に登用される機会も増えています。それらの現場では、それぞれの国の感覚をマネージメントに生かせる同じ国の出身者は大きな戦力になりますし、さらに経験を積むことで、国籍に関係なくより高度な立場でのマネージメントを担うことになるのは必然です」と語る。

▲秋葉氏による授業の様子

育成の段階から始まる、運送事業者の人材戦略

物流業界の入り口としての同校を全国レベルで定着させることで、物流業界へアクセスする人材の間口を広げることが可能になる。「SBSロジコムとしては、同校の卒業者の採用においては、他の専門学校の1ランク上のレベル感で想定しております。もちろん、選択するのは学生側ですが、教育を通じて物流業界を学ぶ中で、我が社を選んでもらえるようになるのが理想。それだけに、日々の講義にも熱が入ります」と、秋葉氏自身もまた高度物流人材育成に向けた指導法の研鑽を重ねる。

千葉モードビジネス専門学校では、来年度より「物流ビジネス科」の名称を、「ロジスティクスマネジメント科」に改称する予定で、学生たちが、ここで学ぶ意義をよりわかりやすく理解するためだという。「宅配だけではなく、BtoBで活躍できる領域がたくさんあることを知り、興味を持ってもらえればと考えています。物流危機に貢献できる人材を1人でも多く輩出することを目標に、教育という分野からの改革を実践していきます」(志村氏)

将来、同校の卒業生たちといっしょに物流現場を支える場面がやってくるのかも知れない。その時まで、「物流危機」に直面するこの業界をしっかりと改革するのは私たちの役割である。「将来は国に帰って、日本での経験をもとに物流会社を起業したい」と夢を語ってくれた留学生たちが、この業界に飛び込んで失望するようなことがないよう、私たちに課せられた使命も大きい。