
話題2024年問題への対応、そしてことし4月に本格施行された新物流2法──。物流業界はいま、かつてない構造変革の渦中にある。ドライバーの労働時間規制は、輸送能力の維持と担い手の確保という長年の課題を先鋭化させ、荷主企業・運送事業者双方に、サプライチェーン全体を見据えた効率化と生産性向上への取り組みを迫る。さらに、直近では改正下請法も成立し、荷主と運送会社間の取引適正化は、より一層社会的な要請となりつつある。
関連記事では、ウイングアーク1st(以下、ウイングアーク)が提供するクラウド配車業務プラットフォーム「IKZO Online」(イクゾーオンライン)や電子帳票プラットフォーム「invoiceAgent」(インボイスエージェント)といった具体的なDXソリューションが、運送契約の書面化や荷待ち・荷役時間の把握、納品プロセスの効率化にいかに貢献するかを紹介した。
では、これらのソリューションがなぜ今、そしてこれから不可欠なのか。本稿では、その背景にある物流業界の構造的課題と、法改正が荷主・運送事業者双方に求める本質的な変革について、一般社団法人運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)の代表理事である小島薫氏の提言を基に深掘りする。
待ったなしの物流危機 – 2024年問題と法改正の真意
「新物流2法の核心は、トラックドライバーの時間(労働時間短縮)とお金(適正な運賃・料金の確実な収受、価格転嫁)、この両輪をどう回していくかだ」。小島氏は、法改正の本質をこう喝破する。ドライバーの長時間労働と低賃金は、物流業界の積年の課題だ。
「1運行当たり、荷待ち1時間34分、荷役作業時間1時間29分。これらについて適正な運賃・料金が収受できていない現状がある。燃料費などの価格転嫁も30業種で最下位。さらに多重下請け構造による運賃の中抜き、そして積載率の低下は売上当たりの物流コストを上昇させ、さらなる運賃コスト圧縮指向を生んできた」(小島氏)
これらの「悪しき商慣行」こそが、ドライバーの労働環境を悪化させ、ひいては輸送能力の低下を招いていると小島氏は指摘する。2024年問題への対応として、時間外労働の上限規制が適用され、改正改善基準告示も施行された。これにより、従来のような長距離輸送や無理な運行は困難になり、輸送力不足が現実のものとなりつつある。
小島氏は、「積載率の低下を荷主はあまり意識していない。10年前と比べて運賃が上がっているのは、1.5倍の車両で同じ量を運んでいるから。これを元と同じ運賃水準にしようとするから、さらなる運賃圧縮の思考が生まれる」と、荷主側のコスト構造への理解不足にも警鐘を鳴らす。
こうした状況に対し、国は「物流革新に向けた政策パッケージ」を策定し、新物流2法を施行。荷主には荷待ち・荷役時間の把握・削減努力、物流統括管理者の選任などを、運送事業者には運送契約の書面化、実運送体制管理簿の作成などを求めた。これらは単なる個別対応ではなく、サプライチェーン全体での効率化と、公正な取引関係の構築を目指すものだ。
さらに、改正下請法の成立は、この流れを加速させる。これまで必ずしも明確でなかった荷主と運送会社の力関係において、より一層、荷主側の「発注者」としての責任と、取引の適正化への当事者意識が問われることになる。
「様子見」では済まない荷主と運送事業者に求められる“即時”行動変容
しかし、法改正が施行されてもなお、多くの企業が「様子見」の状態にあると小島氏は指摘する。「荷主も運送事業者も両方が変わらなければ、何も変わらない。TDBCの会員に対しても、『援助するのではなく、今行動すべきだ』と厳しく伝えている。まずは運送事業者自らが行動を変革し、積極的に荷主に対して行動変容を促すべき」(小島氏)
小島氏が荷主に求めるのは、まず自社が関わる物流の実態、特に荷待ち・荷役時間を正確に把握し、その改善に主体的に取り組むことだ。「ある荷主では、運送会社から待機時間料を含む請求書が来た途端に、着荷主と連携して改善し、これまでの5時間を超える長時間の待ちが、ほぼがゼロになったという事例がある。結局は、お金と意識の問題だ」(小島氏)
デジタル技術を活用し、客観的なデータを基に運送事業者と荷主が対等な立場で協議し、コスト構造を理解した上で適正な対価を支払う。そして、改正下請法が求める取引の公正性を担保する意識を持つことが、これからの荷主には不可欠となる。
一方、運送事業者にも変革が求められる。「運送事業者自身が、運送契約や実運送体制管理簿が、適正な運賃・料金収受の仕組みであるという理解がまだ不足している。これらは下請け手数料の根拠にもなるのだから、積極的に活用すべき」と小島氏は語る。運送契約においては、荷待ちや荷役作業等の役務とその対価を明確に記載し、それに基づいて毅然と請求する。
実運送体制管理簿を適切に作成・活用することで、多重下請け構造の透明化を図り、運賃・料金の中抜きではなく下請け手数料(利用運送手数料)を追加請求していく努力も必要となる。
TDBCが描く未来図 – デジタル化・標準化で拓く「繋がる物流」
こうした荷主と運送事業者の行動変容を支え、業界全体の変革を推進するのが、TDBCが掲げる「デジタル化と標準化による業界全体の効率化」というビジョンだ。小島氏は、ウイングアークのようなソリューションプロバイダーとの連携の重要性を強調する。
「車の情報(traevoによる動態管理)、契約の情報(IKZO Onlineによる契約・請求管理、車両・ドライバー情報含む)、物の情報(invoiceAgentによる伝票電子化)。この3つの情報がデジタルでつながり、標準化されることで、物流プロセス全体のDXが進み、将来的にはフィジカルインターネットの世界も見えてくる」(小島氏)

▲発着荷主と運送事業者をつなぐ新たなデータ連携基盤の構築を目指す
そのために、TDBCは「物流情報標準ガイドライン」やSIP基盤の活用を推進し、業界横断的なデータ連携基盤の構築を目指す。また、2024年12月に設立した関連団体「BODC」(一般社団法人通信型デジタル式業務・運行記録計等推進協議会)とも連携し、デジタコの普及とデータ活用の標準化を加速させる考えだ。
「単なる効率化だけでなく、トラックドライバーのモチベーション向上も含めた、真に持続可能な物流システムを構築したい。フィジカルインターネットの実現は、その延長線上にある。そのためにも、まずは荷主と運送事業者が、デジタルツールを活用して『つながり』、共通の課題認識のもとで協調していくことが第一歩だ」と小島氏は力を込める。
新物流2法、そして改正下請法の施行は、物流業界に構造改革を迫る厳しい試練であると同時に、旧来の商慣行や力関係を見直し、新たな協調関係と効率的な物流システムを構築する千載一遇の好機といえるだろう。
荷主と運送事業者が、TDBCのような業界団体やウイングアークのようなソリューションプロバイダーと連携し、デジタル化と標準化を軸とした行動変容を「今すぐ」起こすこと。それこそが、物流危機を乗り越え、持続可能な未来を築くための唯一の道なのかもしれない。