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【年頭所感】供給圧力、抗し切れるか疑問[日本郵船]

2013年1月4日 (金)

話題日本郵船は4日、東京都千代田区の本店15階ホールで商事始め式を開催した。工藤泰三社長による年頭メッセージ(要旨)は次の通り。


商事始め式で挨拶する日本郵船の工藤社長

商事始め式で挨拶する日本郵船の工藤社長

海運・航空運送事業は、依然大きな需給ギャップにあえいでいる状況にある。海運需要自体は、欧州を除き、北米がリーマン・ショック前のレベルを超え、緩やかながら成長軌道に復帰したのに加え、アジア・資源国の堅調な伸びが持続しており、世界レベルではペースは鈍化したものの着実に増加している。

従って現在直面している需給ギャップの原因が、リーマン・ショック前の急激な需要の伸びに対応した船隊整備の後遺症であることはご承知の通りで、この結果、この後遺症が解消するまで、われわれの事業環境は、極めて厳しいものとならざるを得ない。上期は何とか130億円の経常黒字を達成したが、通期200億円達成に向け、グループ一丸となって頑張る必要がある。

■コンテナ船、需給ギャップ解消に数年必要
まずコンテナ船事業関連だが、ほかの船種に比較し、需給ギャップが一番大きい部門だ。調査グループの調べでは、2013年に280隻強、180万TEUという過去最高の新造竣工が見込まれている。このうち8000TEU以上の超大型船が100隻、110万TEUを占め、仮にこれらすべてがアジア-欧州航路に投入されると、年間のスペース増加は550万TEUにも達する。

現状アジア-欧州の年間荷動きが、およそ1400万TEUなので、その凄まじい増加率に驚愕(きょうがく)させられる。来年の竣工量はことしと比較すると、かなり減少はするものの超大型船を中心に依然高水準といえ、需給ギャップ解消には少なくともあと数年を要すると考えるべき。

現在コンテナ船各社は、2011年度の巨額赤字計上から脱するべく、既にある大きな需給ギャップを余剰船の係船や減速の深度化で対応し、何とか収支均衡レベルを維持しているが、今年度の大幅な供給圧力に抗し切れるか否か、はなはだ疑問と言わざるを得ない。

幸いわれわれはリーマン・ショック後、発注済のコンテナ船を船種変更するなど、直ちにライトアセット化に舵(かじ)を切った訳だが、正しい判断だったと胸をなで下ろしている。一方で、ライトアセット化を進めたわれわれは、この船余りの時期を逆にチャンスと捉えるべきで、安い用船・スペースと、われわれの武器である物流部門のコントラクト・ロジスティクスを最大限活用しつつ、コンテナ船部門、郵船ロジスティクスとともに、顧客、取扱量拡大を急がねばならない。

われわれの業容規模を測るものは、船・スペースなどのハードではなく、取扱量の多寡(たか)であることを今一度、肝に銘じてほしい。

われわれの競争力を左右するのは、何といってもコスト競争力。そして、そのコスト競争力を左右する最大の決め手は、ムダ・ムラ・ムリ、すなわち3Mの解消だ。前述の通りわれわれにとって、船のムダすなわち不要なコンテナ船は最小限だ。後は保有するコア船隊を、さらに、ムダ・ムラ・ムリなく運航するかが重要。

同時にコンテナ船の場合、本船もさることながらコンテナ自体を、いかに、ムダ・ムラ・ムリなく回すかも極めて重要であり、むしろコスト削減効果は大きいかもしれない。復荷のない内陸地点向けに大量の往航の貨物を集荷した場合、空コンテナの回送費用を考慮して、本当に採算に乗っているのか。まさに皆の創意・熱意という人間力が問われる。

■ドライバルク、ギャップ解消の兆し
次に不定期専用船部門だが、依然需給ギャップが大きいものの、少なくともドライバルク部門に関しては、ギャップ解消の兆しが見えてきた。

例えば、2010年からまで毎年200隻以上の新造竣工のあったケープサイズ・バルカーは、ことし、来年の竣工が、おのおの100隻、40隻程度に減少する。

一方で、毎年老齢船60-70隻程度のスクラップと、新興国向けを中心に40-50隻分の新規荷動き増加が見込まれるので、今年後半以降確実に需給ギャップが解消に向かうと思われる。現在、当社のケープサイズ・バルカーの運航規模は110隻。そのうち80隻は、長期契約投入船なので、差し引き30隻が、表現は適切ではないが、ムダな状態にあるといえる。

しかしながら、2000年初めの運航規模が30-40隻程度で、長期契約船が30隻だったことを思い起こせば、このムダよりも長期契約積み上げに成功したことを評価すべきだと考える。幸い今後数年で高い用船料の船も返却できるので、それまではその船が本当のムダにならないよう、世界最大級の船隊規模を武器に長期契約積み上げ努力を重ねよう。

一方で不定期船部門でも最大のムダはバラスト航海だ。このバラスト・レグをいかに最小化するかが、コスト競争力を大きく左右するので、このバラスト・レグを最小化できる貨物獲得にも努力を重ねてほしい。またコンテナ船に比較し、不定期船部門は総じて減速運航の深度化が今一歩との印象を禁じ得ない。船余りの中、これこそムダだという意識を持ちさらなる減速運航に挑戦する必要がある。

■政府の海賊対策に期待
ことしは懸案であった日本籍船への民間武装ガードの配乗を解禁する特別立法の法案が通常国会で提出される予定で、海賊対策の面では行政からのサポートも期待できる。いずれにせよ、船舶・航空機の安全運航は、海運・航空運送事業の基本中の基本であり、同社グループのサービス品質差別化の最大のよりどころである。

その上で、同社グループが有する他社に卓越した知見や技術力を最大限活用し、さらなる燃節などを通じ二酸化炭素(CO2)やコスト削減を達成し、またそれらを営業活動での提案力にもつなげ、”More Than Shipping 2013″の実践に努める必要がある。