
話題物流業界は、ことし4月に本格施行された新物流2法(流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律、貨物自動車運送事業法)への対応という大きな変革期を迎えている。荷主企業には「荷待ち・荷役時間の把握・削減努力」や「物流統括管理者の選任」が、運送事業者には「運送契約の書面化」や「実運送体制管理簿の作成」などが新たに求められ、サプライチェーン全体の効率化と生産性向上は喫緊の課題だ。特に、これまで曖昧に処理されることもあった運送契約の内容を明確化し、それに基づいて適正な運賃・料金を収受する流れをいかに構築するかは、業界全体の健全化に向けた試金石ともいえる。
こうした状況下で、多くの企業が具体的な対応策を模索。ウイングアーク1st(以下、ウイングアーク)は、長年培ってきた帳票技術とデータ連携のノウハウを生かし、この変革を支援する具体的なソリューションを提供している。同社物流プラットフォーム事業開発部営業担当部長の大嶋誉也氏と、事業戦略本部BD事業戦略部の松本健一氏に、物流現場の課題解決に資する「IKZO Online」(イクゾーオンライン)と「invoiceAgent」(インボイスエージェント)を中心とした取り組みについて詳しく聞いた。
「契約から請求まで」の多段階取引をつなぐIKZO Online
「4月1日から新制度が始まっても、多くの企業がまだ様子見をしている状況が気になっている。特に中小の運送会社からは荷主との力関係から、いまだに適正な料金を請求をできず、外注先への支払いにも対応できない、という声も聞こえてきている」と大嶋氏は現状への懸念を示す。
このような状況を打開するため、ウイングアークが提供するのがクラウド配車業務プラットフォーム「IKZO Online」だ。このサービスは、新物流2法で求められる「運送契約の書面化」から、実際の運行実績に基づいた「請求業務」までを一気通貫でデジタル化することを目指している。「運送契約を書面化するだけでなく、そこから請求までを確実につなげ、運送事業者も荷主も納得できる形で適正な料金を徴収・支払いできる仕組みをまず作り上げることが重要。IKZO Onlineは、そのためのプラットフォームだ」と大嶋氏は語る。
IKZO Onlineでは、運行単位での運送契約締結を基本とし、荷待ち・荷役時間や附帯作業といった、これまで曖昧になりがちだった項目とその料金を契約段階で明確に定めることができる。そして、この契約内容に基づいた運行指示や荷役内容・条件、実績管理、請求発行までをオンラインで完結させる。

▲IKZO Onlineのサービス概念図。荷主からドライバーに至るまで、全ての情報がオンライン上でつながることで、物流会社は作業報告業務や実績に基づく請求作業が容易になり、荷主も荷待ち荷役時間の集計や請求内容と実績の照合作業が容易になる(クリックで拡大)
さらに、ことし6月には、IKZO Onlineを導入していない協力会社が簡易にアクセスするための新機能「協力会社専用サイト」をリリースした。
「IKZO Onlineのライセンスを持たない協力会社のドライバーさんでも、作業依頼書に印字されたQRコードをスマートフォンで読み取ることで専用画面にアクセスし、荷待ち時間や荷役作業の開始と終了を簡単に報告できるようになる。これにより、元請け企業は、自社だけでなく協力会社を含めたサプライチェーン全体の作業実績をリアルタイムで把握し、管理することが可能になる。まさに、あらゆる運送会社とつながるための仕組みとなっている」と大嶋氏はこの新機能の意義を強調する。

▲「協力会社専用サイト」のイメージ。IKZO Onlineのユーザー登録をしていなくても、QRコードから必要な情報を入力することで情報を共有できるため、デジタルとアナログの混在ということがなくなる(クリックして拡大)
納品プロセスの革新へ – invoiceAgentと「納品伝票エコシステム」
契約から請求に至るプロセスと並行して、ウイングアークが注力しているのが「納品伝票の電子化」による物流現場の抜本的な効率化だ。この取り組みの中心となるのが、電子帳票プラットフォーム「invoiceAgent」である。「紙の納品伝票は、物流現場における非効率の大きな原因の一つ」と松本氏は指摘する。
「例えば、発荷主側の物流拠点では、伝票の印刷や、トラック・納品先ごとの仕分け作業に毎日数時間を費やしているケースも少なくない。これが電子化されるだけでも、大きな業務効率化につながるだろう」(ウイングアーク・松本氏)
invoiceAgentは、既存のシステムから出力される納品伝票PDFなどを取り込み、電子データとして取引先へ自動配信する。受け取り側は、紙の伝票を扱う手間から解放されるだけでなく、データとして受け取ることで、検品作業の自動化やシステムへの入力作業の削減といったメリットを享受できる。

▲IKZO Onlineのサービス概念図。荷主からドライバーに至るまで、全ての情報がオンライン上でつながることで、物流会社は作業報告業務や実績に基づく請求作業が容易になり、荷主も荷待ち荷役時間の集計や請求内容と実績の照合作業が容易になる(クリックで拡大)
特に注目すべきは、ウイングアークが行政や業界団体と共に推進している「納品伝票エコシステム」という構想だ。これは、経済産業省などが推進する「物流情報標準ガイドライン」や、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で構築された「SIP基盤」を活用し、異なる企業やシステム間でも標準化された納品伝票データをシームレスにやり取りできるようにする仕組みである。
「従来、納品伝票のフォーマットは業界や企業ごとにバラバラで、これがデータ連携の大きな障壁となっていた。しかし、物流情報標準ガイドラインという共通の物差しが整備されつつある。我々は、この標準フォーマットに基づいて納品伝票データを電子化し、SIP基盤のような中立的なプラットフォームを介して、サービスプロバイダーの垣根を越えてデータを流通させることを目指している」と松本氏は語る。このエコシステムが実現すれば、例えば、発荷主がA社のシステムで電子化した納品データを、着荷主がB社のシステムでスムーズに受け取り、活用するといったことが可能になる。これは、まさに企業間の壁を越えた「物流の標準化」の具体的な姿だ。

▲「中立的なプラットフォーム」のイメージ。invoiceAgentのようなサービスを介して標準フォーマットに共通言語化し、あらゆるステークホルダーが共通言語をもって伝票データをやりとりできる世界を目指す
「国土交通省と加工食品物流の分野で行った実証実験では、着荷主である卸売業の方から、『紙の納品伝票は必ずしも必要ない。実際には受発注システムのデータと照合して検品している』という声が上がった。事前出荷情報(ASN)として納品データが電子的に届けば、検品作業の大幅な効率化やペーパーレス化が実現できる」と松本氏は、実証実験の成果を交えながら説明する。
「データがあるから踏み出せる一歩がある」 – ウイングアークの総合力
ウイングアークは、帳票基盤ソリューション「SVF」で国内トップシェア(※1)を誇り、企業内外の多種多様なデータをつなぎ、活用を支援することを得意としてきた。IKZO Onlineによる契約・請求プロセスのDXと、invoiceAgentによる納品プロセスの電子化・標準化は、まさに同社の強みである「企業間のデータ連携」を物流分野で具現化したものと言える。

▲IKZO OnlineとinvoiceAgentの連携イメージ。運送契約や運行指示、作業報告、請求といった運送領域のデータと事前出荷情報をはじめとする倉庫領域のデータがオンラインプラットフォーム上でつながることで、サプライチェーンに関わるステークホルダー間のデータ共有や現場業務が飛躍的に効率化する(クリックして拡大)
大嶋氏は、「我々は、invoiceAgentやIKZO Onlineに限らず、オープンにシステム連携していくことで、企業間のデータ連携を促し、お客様の物流現場の課題解決に貢献していきたいと考えている」と今後の展望を語る。
新正物流2法への対応は、多くの企業にとって大きな負担であると同時に、旧来の商慣行や業務プロセスを見直し、DXを推進する絶好の機会でもある。ウイングアーク1stが提供するソリューション群は、その変革を力強く後押しする具体的なツールとなるだろう。荷主と運送事業者が、契約から請求、そして納品に至るまでの情報をデジタルで共有し、共通の認識のもとで協調していく。その先にこそ、持続可能な物流の未来が拓けるはずだ。
※1:デロイトトーマツ、ミック経済研究所発刊 ミックITリポート2024年11月号「帳票設計・運用製品の市場動向 2024年度版」図表2-3-1 【運用】製品/サービスのベンダー別売上・シェアより