ロジスティクス環境意識の高さをアピールするために、「バイオ燃料使ってます」「廃油回収してます」という企業はあるだろう。だが、サントリーロジスティクス(サンロジ、大阪市北区)のように、従業員の家庭まで巻き込んで、バイオ燃料活用に取り組んでいる会社はないのではないだろうか。安全推進部で環境推進担当の西村和世氏は、「荷主側、製造側としてではなく、物流から考える環境への貢献活動」として、自らがけん引した「サンロジ油田スポット」の取り組みに胸を張る。
同社では、化石燃料に代わる環境にやさしい燃料の活用拡大を目指してバイオ燃料の自社トラック利用に取り組んできた。フィンランドのエネルギー企業が開発したバイオ燃料・リニューアブル燃料による輸送テストを2022年に実施、ことし2月からは神奈川県下の走行車両への実装を実現。また、23年からは燃料事業の富士興産(東京都千代田区)が提供する高純度バイオディーゼル燃料B30をトラックに使用する実証実験も展開した。
バイオ燃料活用に積極的に取り組む同社が、その運用を推進するにあたって課題としたのが、バイオ燃料の「もと」となる原料の調達であった。西村氏は、廃食油から精製・加工したバイオ燃料を、トラック燃料に活用する試みに取り組み、まずは、サンロジ社員の各家庭から出る廃食油を回収するスポット設置を各拠点に呼びかけて、廃油資源の回収推進から取り組んだと言う。
西村氏は、「廃食油の回収スポットは、貴重な油田。私たちはその回収拠点を「サンロジ油田スポット」と名付けている」と語る。資源の循環による物流を実現するサーキュラーエコノミーの取り組みが、物流事業者の、さらに社員のアクションからスタートしたのは興味深い。
家庭や食堂に眠る「油田」の有効活用からサーキュラーエコノミー構築
日本国内で使用される食用油は、事業系、家庭系合わせて年間240万トン以上だが、そのうち50万トンが廃油となる。事業系のものではリサイクルや輸出も一部進んでいるが、家庭から出た廃油10万トンはほとんどが燃えるゴミとして捨てられているのが現状だ。
同社は各家庭や店舗から出された廃食油を、新たなバイオディーゼル燃料へと精製・加工し、配送トラックの燃料として利用することで循環させる仕組みの構築を目指した。従業員の家庭から出た廃油を事業所に持ち寄る形での、地道な廃食油回収の呼びかけから始めて、社内だけではなくサントリーグループ内の各施設、ウイスキー蒸溜所やビール工場の社員食堂などへと広げ、さらには会社の枠を超えた呼びかけへと、回収スポットの設置場所を増やしていった。
西村氏自身も協力を求めて各地をまわり、「はじめて1年足らずだが、現在では飲料工場、研修センター、物流拠点の事業所、関係する学園など全国16拠点に油田スポットの輪が広がった」と、環境対策や資源の有効活用への取り組み意識の高まりを実感したと言う。
安全推進部課長で環境推進担当の山田智史氏は、「まずは、社員やその家庭など、足もとから環境への意識を高めたことが、より実効力のある資源活用の取り組み、サンロジの考えるサーキュラーエコノミーの実現にもつながっている」と語る。23年10月から稼働を開始した同社のサーキュラーエコノミーは、年間の廃食油回収量9万トンを見込む取り組みへと拡大し、富士興産がバイオディーゼル燃料B5に精製・加工した燃料を、サントリー製品輸送の自車トラック2台で運用し、外食産業などへの配送へと資源活用の輪を完成することに成功。これによるGHG(温室効果ガス)の削減効果は、年間5トンの削減の成果と見ている。
改革のための仲間づくりは、さらなる前進への布石
もちろん、まだ環境対策の規模としては小さく、課題は多いと、執行役員であり環境推進担当の田村智明安全推進部長も認める。「実証実験や、実際の運用によってバイオ燃料の信頼性を高めること。さらに、一般のディーゼル燃料と比較すれば高価なバイオ燃料だけに、海外からの輸入に頼らず、国内での原材料調達量や使用量を増やし、加工コストなどを削減できるような、バイオ燃料市場自体の成長も今後の課題」(田村氏)となる。そのためには、バイオ燃料普及にいっしょに取り組む協力会社を増やしていくことも必要だ。高い環境意識を持ち、目先だけではなく日本の経済と物流の将来的な成長に向かって協力できる仲間づくりは、難易度の高い取り組みとなるだろう。
それでも、今回の取り組みは、現場社員の自発的な取り組みによる仲間づくりが発展したものとしての1つの成功体験と言えるのではないだろうか。社員ひとりひとりが取り組むべき方向性をしっかりと共有し、次に進むべき目標を見据えていることは、さらなる改革に向けた強力な推進力になることは間違いない。
サントリーグループはGHG排出量の削減目標として、2030年までに19年比で50%の削減を目指す。日本を代表する企業であるサントリーグループだけに、環境対策で果たすべき役割も重大、その物流を預かるサンロジも、ただトップダウンだけではなく、自分たちでやれることからやってみよう、そんな社内風土に育まれた取り組みを続けていくことが重要となる。
「テレワークによる働き方改革、省エネ運転を意識した乗務員教育という第1ステップの取り組みを完遂し、現在はこのバイオ燃料活用や、LED、倉庫照明の人感センサーの導入など第2ステップに踏み込んでいる状況。さらには次のステップ、EV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)導入なども想定して対策を続ける必要がある。今回の会社一丸でのサーキュラーエコノミーの取り組みをきっかけとして、さらに物流事業ならではの改革提案、連携を模索していきたい」(田村氏)
お話をうかがったサントリーロジスティクスの皆さん。左から安全推進部環境推進担当・山田智史課長、西村和世氏、田村智明氏。
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