話題ラストワンマイルの配達ドライバーは低賃金なのに重労働を強いられている。その働き方は長らく問題視されてきた。この状況が解消されなければ、ドライバー人材の確保は今後、困難になっていく。人手が足りずに業務効率が悪化すれば、サービスの質は確実に低下する。ドライバーの待遇改善は待ったなしの状態にあると言えるだろう。
余裕がないのは荷主企業も同様だ。費用対効果を考えれば、従来のように「1台・1日いくら」といった車建てでトラック運送会社と契約するのは現実的ではない。荷量は常に変動しており、常に満載で車両を走らせられるわけではないからだ。
そんななか、ドライバーの報酬アップと荷主のコストダウンを同時に実現している会社がある。2021年に創業したBLUE BATON(ブルーバトン、大阪市北区)だ。代表取締役である足立佑介氏に、同社のビジネスモデルや経営理念を聞いた。
荷主とドライバーの双方が得をする仕組みを
BLUE BATONは、3つの配送モデルを提案する。まずは配送プロセスを可能な限りシンプルにした「新D2Cモデル」だ。従来のEC(電子商取引)では、商品の仕入れ先の出荷拠点、EC事業者(販売会社)の物流拠点、トラック運送事業者(宅配便会社など)の集荷・配達拠点などを経て、ラストワンマイル配送を担う軽ドライバーのもとに荷物が届く。しかし、このモデルには、介在するプレーヤーの数が多いため、仕入れから販売、納品までに2〜3日を要するとともに、配達を担当するドライバーに支払われる報酬が低く抑えられてしまうといった課題があった。
これに対して、新D2Cモデルは、ECの発注主である「個人(一般消費者)」、荷主である「フランチャイズ企業」、配送を担うBLUE BATONの「委託ドライバー」、そして3者をつなぐ仕組みを提供する「BLUE BATON」だけで構成される。

▲BLUE BATON代表取締役の足立佑介氏
個人から注文を受けたフランチャイズ企業は、実店舗の在庫状況を確認。店舗に在庫がある場合には、ドライバーが店舗から当該商品を集荷して個人宅に配達することで、リードタイム短縮を実現する。「早ければ注文を受けたその日のうちに商品を届けられる」(足立氏)という。
ECでありながら、物流センターなどを経由せずに、店舗の在庫を引き当てて直接商品を配送するモデルであるため、ドライバーが受け取る報酬も自ずと上がる。実際、BLUE BATONでは「1日あたり業界平均1万5000円(BLUE BATON調べ、ロイヤリティ差引前)だった報酬を、1万8000円(同)まで引き上げることに成功した」(足立氏)。
新D2Cモデルは、ドライバーの業務負担軽減にもつながる。一般にラストワンマイル配送の報酬は「荷物1個いくら」の個建てで設定されていることが多く、ドライバーは取扱量を増やして売り上げを伸ばすしかなかった。「EC配送ではドライバー1人当たりの取扱量が1日平均200-300個に達し、しかも指定された時間通りに届けるのが当たり前だとされてきた。しかし、新D2Cモデルでは荷物の数を平均20-30に抑えられている。集荷に周る店舗も1-5箇所と決して多くはない」と足立氏。ドライバーの報酬は日当制にしているため、荷物の数が少なくても減額されることはない。普段から扱う量が少ないため、日当に見合わないほどたくさんの荷物を処理することもまずないだろう。
複数の荷主で新D2Cモデルを利用するケースもある。ドライバーはフランチャイズの各店舗を巡回して集荷した後、個人宅に荷物を届ける。共同配送のラストワンマイル版といったところだ。ドライバーに支払う報酬(日当)を複数社でシェアすることで、1社あたりのコスト負担は減る。それでいてドライバーが受け取る報酬をきちんと担保できる。「従来の配送モデルでコスト削減を図るには、ドライバーの賃金を下げるしかなかった。私たちはこの構造自体を再構築し、ドライバーと荷主の両方が得をする仕組みをつくった」(足立氏)
この仕組みのなかで、BLUE BATONはドライバーと店舗をつなぐ役割を果たす。注文を集計し、専用アプリで委託ドライバーに集荷と配達を依頼する。BLUE BATONはドライバーに支払われる報酬から一定のマージンを受け取ることで売り上げを立てている。
BLUE BATONは、三菱倉庫を母体とするCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)であるMLCベンチャーズ(東京都中央区)から出資を受けている。三菱倉庫所有の物流施設を利用できる強みを生かし、同社は「マージモデル」という配送モデルも展開する。午前中は店舗向けに食材を運び、午後は個人宅にコンタクトレンズを届けている。在庫は三菱の倉庫で保管する。どちらも定期配送なので、ドライバーは同じルートを巡回すればいい。新D2Cモデルとは違い、店舗を持たない荷主でも利用できることが、このマージモデルの強みだ。
さらに、複数の卸売事業者の荷物を三菱倉庫の物流施設に集め、ドライバーがまとめて配送する「ドッキングモデル」も構築した。1つの倉庫に集約した荷物を共同配送するというビジネスモデルは倉庫を持つ企業の後ろ盾があるからこそできることだ。そういう意味でもMLCベンチャーズとBLUE BATONの親和性は非常に高い。両モデルとも、荷主のコストダウンを実現するとともに、ドライバーが適正な報酬を受け取れる仕組みになっている。
急成長を支えたのは”ドライバーファースト”の考え方
BLUE BATONは創業からわずか2年で年商5億円を達成した。その背景にはEC市場の急成長がある。しかし、単にEC化の波に乗っただけでは、ここまでの急成長は望めない。成功のカギは、“ドライバーファースト”の考え方にある。
足立氏はもともと営業職としてNTTでキャリアを積んだ。退社後は飲食店を経営、これまでの経験も生かしながら10年以上黒字経営を続けていたが、新型コロナウイルスの影響でやむなく店をたたむことになった。足立氏は、このとき仕事を失ったスタッフに「何か新しく収入を得られる機会を提供したい、と思ったことが起業のきっかけになった」と話す。いかに“社員の幸せ”を実現するか。それを考え抜いた末に、足立氏は運送業に目を向けた。「アナログな分、食い込む余地があると感じた」というのは、ITに強い足立氏ならではの意見だ。
また、事業を継続可能なものにするには、ドライバーが公正な報酬を得られる仕組みをつくる必要があると確信した。「働く人が満足できないビジネスは長続きしない。だからこそ、私たちはドライバーの待遇改善に全力を注いでいる」(足立氏)。BLUE BATONが急成長を遂げられたのは、ひとえにドライバーファーストの姿勢を貫き、彼らの満足度を上げることに注力したからだ。
利他的なビジネスで社会を変える
足立氏は単に自社のビジネスを拡大するのではなく、社会インフラとしての「配送網」構築を目標にしている。同氏は「電気やガス、水道に並んで、配送も今や生活に不可欠なインフラになっている。その物流インフラを支えて、より良い社会を築きたい」と語る。
また、スタートアップを目指す若手に向けて「利他的なビジネスを心がけることが重要だ」と説く。「ビジネスは誰かのためにやるべきであり、利己的な目標は長続きしない。スタートアップでがんばる若者の多くがEXIT(イグジット)自体を目標にしているが、それはあくまで手段に過ぎない。『イグジットした後で何をするか?どんな未来を描けるか?』といった視点を持つべきだ」(足立氏)

▲利他的なビジネスがBLUE BATONの成長を支えてきた
さらに、やってはいけないこととして「自分が苦しい時に自分のために動く」ことを挙げている。足立氏は飲食業を営みながら、東日本大震災、そしてコロナ禍を乗り越えてきた。会社を経営していくことの難しさを実感している。そんな同氏が発する「辛いとき、苦しいときこそ他者に貢献することが大切。そうすれば、いつか何かを返してもらえる」という言葉は重みが違う。“他者の幸せ”を何よりも重視する足立氏の姿勢が、BLUE BATONの成長を支えているのは間違いなさそうだ。
一問一答
Q.スタートアップとして、貴社はどのステージにあるとお考えですか?
A.プレシリーズAラウンドです。
Q. 貴社の“出口戦略”、“将来像”についてお聞かせください。
A.出口戦略としてはイグジットを想定しています。ラストワンマイル業界の社会的価値の向上を企図したIPO(新規上場)、もしくはM&Aを通じて、大企業と共に業界のさらなる発展を目指したいと考えています。