ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

ホワイト物流・価格転嫁支援・人材活用を加速

埼玉県「物流共同宣言」から1年、成果と課題

2025年9月18日 (木)

ロジスティクス埼玉県は2024年9月、国や経済団体、労働団体、大学、金融機関、そして物流業界の主要プレーヤーとともに「埼玉の持続可能な物流の確保に向けた共同宣言」を発表した。発足から1年が経過した現在、県庁関係者はこれまでの歩みを振り返りつつ、今後の意気込みを語った。

共同宣言の背景には、コロナ禍を契機に設置された産官学金労で構成される「強い経済の構築に向けた埼玉県戦略会議」がある。さまざまな取り組みを検討してきた中、2024年度は近年の社会課題である人手不足を検討することから「人手不足対策分科会」を設置。戦略会議の構成団体に加え、トラック協会や倉庫協会などの業界団体や、ヤマト運輸・佐川急便・日本郵便の宅配大手3社、消費者団体など23団体が参加することとなった。埼玉県産業労働部産業労働政策課戦略会議担当の相澤俊文主幹は「宅配大手がそろう共同宣言は全国初とされ、先進的な試みとして注目を集めた」と当時を振り返る。

▲県内で配布された「宅配を1回で受け取ろう」キャンペーンステッカー

同年度には「人手不足分科会」が新設され、「人材の確保」「生産性の向上」「労働の質の向上」の3つの切り口と、物流・建設の2分野に重点を置いた施策が始まった。再配達削減キャンペーンや宅配ボックス設置補助など、消費者向けの大規模な施策を展開。相澤氏は「一定程度の成果は上がっている」としながらも、「消費者の態度変容をさらに加速させるためにも、取り組みを続ける」と意気込みを語った。

こうした事業の一環として、県は「ホワイト物流」推進運動を強化し、事業者に自主行動宣言を呼びかけた。25年4月に施行された物流効率化法では、積載効率向上や荷待ち時間短縮が努力義務化され、県は説明会や資料配布を通じて周知を図っている。26年1月には改正下請法が施行され、荷主にも規制が広がる。相澤氏は、「物流業界の健全化のためには、委託・受託における関係の健全化は避けて通れない道」であると説明。県は国と連携し、取引適正化を浸透させる活動を続けるという。

全産業で進む人手不足だが、特に物流分野での人手不足に対応するため、県は24年度に「運送事業者環境整備補助金」を創設。女性専用トイレや更衣室、休憩室、託児スペースの整備を支援し、中小企業には最大200万円、小規模企業には最大266万円を補助する。ホワイト物流の宣言を行った企業は優先的に採択される仕組みだ。

また「埼玉県シニア人材バンク」を設立し、経験豊富な高齢人材を物流や建設分野へマッチングする取り組みをスタート。外国人労働者や若年層に向けた施策も進め、多様な人材参入を促している。

▲埼玉県が毎月出している価格交渉に活用できるデータの一例。このほか、人件費や食品素材などの価格推移データも提供している

埼玉県では人手不足の解消や物流の健全化に向けてさまざまな情報を提供しているが、特に注目されるのが「価格交渉支援ツール」だ。原材料や労務費の上昇率を可視化し、取引先に適正な価格転嫁を求めやすくする仕組みで、日銀や厚労省の統計を基に毎月更新されている。現在1422品目をカバーし、全国34都道府県で利用されるまでに広がった。相澤氏は「埼玉県で行っている情報発信だが、物流は1つの県だけで完結するものではない。ほかの都道府県でもどんどん活用し、物流業、運送業の経営健全化に活かして欲しい」と語った。

さらに埼玉県は、中小企業診断士による「伴走型支援」を無料で提供。診断士が企業を訪問し、課題分析や改善策を提示。価格交渉の準備を実践的に支援する。24年度には140社を対象に始まった支援事業だったが、利用者が多かったため25年度には170社へと対象を拡大。運賃3割アップを実現した事例など成功事例集も公開され、中小運送会社の交渉力強化に活用されているという。

▲埼玉県価格転嫁成功事例集

県は今後も人手不足分科会を開催し、議論を次年度施策へ反映させる。宅配ボックス補助や追加施策も検討され、課題提起が具体的事業に結びつきつつある。相澤氏は「周知はまだ十分ではないが、着実に成果が出始めている。持続可能な物流を次世代に引き継ぐため、引き続き関係者と連携して施策を拡充していく」と強調した。

■「より詳しい情報を知りたい」あるいは「続報を知りたい」場合、下の「もっと知りたい」ボタンを押してください。編集部にてボタンが押された数のみをカウントし、件数の多いものについてはさらに深掘り取材を実施したうえで、詳細記事の掲載を積極的に検討します。

※本記事の関連情報などをお持ちの場合、編集部直通の下記メールアドレスまでご一報いただければ幸いです。弊社では取材源の秘匿を徹底しています。

LOGISTICS TODAY編集部
メール:support@logi-today.com

LOGISTICS TODAYでは、メール会員向けに、朝刊(平日7時)・夕刊(16時)のニュースメールを配信しています。業界の最新動向に加え、物流に関わる方に役立つイベントや注目のサービス情報もお届けします。

ご登録は無料です。確かな情報を、日々の業務にぜひお役立てください。