ロジスティクス宇宙往還を可能とする輸送システムおよび次世代型宇宙港の実現を目指すスタートアップ企業、将来宇宙輸送システム(ISC、東京都中央区)は23日、勉強会(ISC Day)を開催し、米国での再使用型ロケットの打ち上げを目指してきた「ASCA 1.0ミッション」の開発進ちょくを発表した。同社社長兼CEOの畑田康二郎氏は、米国政府との調整難航や規制の壁により、当初計画していた米国での飛行試験実施を正式に断念することを明らかにした。
肝心の交渉相手が霧消
畑田氏が「米国政府との調整はことし、正直大変だった」と本音を漏らしたのも無理はない。昨年は米国の国家宇宙政策委員会から好感触を得て、米国製エンジンでの実証という青写真を描いていた。ところが政権交代の余波で、肝心の交渉相手が霧消してしまうという不測の事態に見舞われた。

▲米国での飛行試験断念について語る、将来宇宙輸送システム社長兼CEOの畑田康二郎氏
具体的にはFAA(米国航空局)への飛行許可申請が当初4月の予定が6月にずれ込み、ようやく受理されたのは8月1日。ところが10月、米国政府の予算が承認されず、FAA職員が軒並み出勤停止という事態に陥った。審査は完全にストップ。畑田氏は苦笑を浮かべながら「我々の書類はどこかで埃をかぶっているのでしょう」と、官僚機構の不条理を嘆いた。
加えて、トランプ関税という思わぬ伏兵が待ち構えていた。日本で組み上げた機体を太平洋を越えて運べば、1億円の関税が課されるという懸念だ。技術以前の問題である。畑田氏は「技術開発以外の困難が次々と顕在化した。決断するほかなかった」と、苦渋の選択に至った経緯を語った。
まずは衛星を軌道に乗せる実証を先行
米国での試験断念という逆風を受け、同社は開発の舵を切り直した。衛星打ち上げミッション「ASCA 1.2」に軸足を移し、国内での離着陸試験を復活させる。畑田氏は「技術獲得の順番を入れ替えただけ。再使用ロケットの実現という目標は変わらない」と明言した。
当初の青写真では着陸誘導制御という“最後の難関”から攻める算段だったが、まず衛星を軌道に乗せる実証を先行させ、着陸技術は後回しにする。畑田氏は「衛星打ち上げの実証でも、機体が降下する際のデータをしっかり取得できれば、再使用に向けた重要な技術課題を明らかにできる」と説明した。
米国製エンジンという構図が崩れ、同社は国内での自前開発に舵を切った。荏原製作所が9月に極低温流体を使った高速回転試験を完了させ、ロケットエンジンの心臓部とも言えるターボポンプの供給にめどが立ったのは幸いだった。滋賀県の試験場では燃焼試験を重ね、推力レベルはすでに40%に達している。年明けには荏原製ポンプを組み込んだ全開試験が控えており、畑田氏は「エンジンとして成立するかどうか、答えが見えてきた」と手応えを口にした。
2028年の衛星打ち上げ実証を目指す
同社は2028年3月までに衛星打ち上げ実証の完了を目指す。来年3月にはJAXAによるステージゲート審査が控え、現在の3社体制から2社への絞り込みが予定されている。畑田氏は「3社とも必要」と訴えた。
米国での試験断念という逆境に見舞われたが、同社はアジャイル開発の利を生かし、わずか3か月で米国製から国内製エンジンへ設計を変更した。畑田氏は「変化を前提にモジュール化し、柔軟に対応できる体制を整えている」と、開発手法の強みを語った。
日本の宇宙開発が試練に直面するなか、同社は国内開発に軸足を移す。2030年代前半の有人宇宙輸送という大目標に向けて着実に歩を進めている。
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