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エムールが東京に物流集約拠点開設、攻めと守りを両立する投資判断

“TOKYO発ブランド”確立のための家具EC物流戦略

2025年11月10日 (月)

拠点・施設健康家具ブランド「EMOOR」(エムール)を展開するエムール(東京都立川市)は、東京都昭島市に新たな物流拠点「EMOOR TOKYO BASE」を開設し、10月20日から本格稼働を開始した。

これまで関東に点在した複数拠点の物流機能を新拠点に一元化し、本社、体験ショールーム(立川・青山)、撮影スタジオに加えて、倉庫起点の物流機能のすべてを東京都内に集約したことになる。今回の物流機能の再編は、同社の事業戦略においてどのような位置付けなのか。同社の経営企画室兼販売部政策課兼広報で室長を務める沢田裕氏と、CS物流部の次長、澤田淳司氏に話を聞いた。

東京拠点集約は、“攻め”と“守り”の成長戦略

澤田氏は、「19年の会社の歴史の中では、関東エリアの複数拠点のほか、東海地方や岡山にも拠点を置く時期もあった」というから、同社の物流体制の構築はさまざまな試行を繰り返してきたようだ。店舗を持たないEC(電子商取引)事業で家具などの大物商品を扱うだけに、物流網の構築や広い保管スペースを必要とする拠点設定は常に経営課題だったとも語る。

▲「EMOOR TOKYO BASE」(出所:エムール)

郊外とはいえ東京圏への拠点集約は、地価と保管効率とのバランスや、既存枠組みの再編コストなど、思い切った戦略転換とも思えるが、「東京発の健康家具ブランドを作ることに対して、きちっと投資をしていこうというスタンス、ブランド発信の強化のための投資」と沢田氏は語る。事業成長のための“攻め”と“守り”を両立する最善策として、昭島への拠点集約を決断したという。

“攻め”においては、東京集約によって、都市生活者に向けた“東京発ブランド”としての信頼性とスピードを兼ね備え、国内外への発信力を高めることが狙いだ。同社は、毎日の眠ること・座ることに着目した“健康”を商品開発のテーマに掲げる。また、狭小化する住宅事情にもマッチした、都市生活者に寄り添った商品づくりをより強力に推し進める。「もともと、どれだけ小さく送るかは業態としての至上命題」(沢田氏)という開発思想も、都市生活のリアルな空間制約に即した商品開発にマッチする。ブランド価値を“東京から発信する”という姿勢に一切の妥協はない。

一方、運送領域の人手不足やコスト高騰などへの“守り”としての拠点編成最適化という側面も大きい。同社は、自社商品の特性や消費動向から、近年の運送費高騰で地方への分散立地のコスト優位性は薄れたと判断。まずは巨大な都市消費圏をターゲットとした輸送効率の合理化に注力するとの決断を下した。物流の変化やコスト高騰を見据えた“守り”としての最適化に加え、東京から発信することにこだわる“攻め”のブランド戦略が重なった形だ。新たな昭島拠点は圏央道・中央道に近接し、関東圏への翌日配送を軸に、365日出荷体制による広域対応を実現できる立地。展示会やPRイベントに合わせた柔軟なサンプル配送にも対応できる首都圏配送の機動性を備えた「最適な物件とタイミングよく出会えた」(沢田)ことも、大胆な戦略実行を後押ししたという。

さらに、かつては日本各地に点在していた生産地の構造変化も影響したという。東京港からの輸入品の取り扱い増や、関東エリアのメーカーが増えたことなど、商品調達の上流部分でも東京に集約することが合理的になった。サプライチェーン全体の物流最適化は、日本全国に商品を届けるという基盤を維持するためにも必要な戦略だったといえるだろう。

澤田氏は、物流業界の変化、効率化取り組みの必要性を肌で感じるという。集約拠点の運用によって、複数商品をまとめて出荷できる同梱率の向上や、梱包・輸送コストの圧縮などで成果を上げることも期待される。

一方、最新拠点と謳うだけに、庫内業務の自動化取り組みも気になるところだが、「まだまだ人の手作業に頼らざるを得ない」と澤田氏は明かす。エムールが扱うマットレスやベッド、ソファなどの大型で形態も多様な商品は、小物物流のようには自動化・マテハン化での効率化が難しく、設備投資のROIが見えづらいという業界特有の課題を抱える。同社はその現実を踏まえ、単純な現場の自動化ではなく、需要予測精度の向上や事務処理のデジタル連携といった領域で効率化を探るという。品出し予定と連携した最適な順番・ロケーションでの商品配置など、限られた人員での効率的かつ柔軟な運用を追求。自動化が進みにくい業態だからこそ、人とデータをどう生かすかに軸足を置いた運用改善を検証していきたいと語る。

国内、さらに世界で“TOKYO発ブランド”確立するための物流戦略

今回の拠点集約は、単なる倉庫移転ではなく、エムールが掲げる「東京発ブランド」の象徴でもある。

業界の共通課題としては、人口や住宅着工数の減少に伴う需要の先細りにも直面する。国内ではまず首都圏をターゲットとしつつ、今後は海外展開を目指すのは当然の道程であり、そこでも“TOKYO”発であることが意味を持つ。

▲(左)沢田氏、(右)澤田氏

同社は“東京でつくり、東京から届ける”を新たな哲学とし、国内では都市生活者の健康志向と省スペース需要に応え、海外では“TOKYO”ブランドとしての認知拡大を目指す。まずは、東京同様の消費者志向や都市住宅事情をもつアメリカ、そしてヨーロッパ市場が攻略ターゲット。洗練された都市型ライフスタイルや睡眠研究に基づく付加価値のある製品力を強みに、グローバル展開を加速する考えだ。

同じ業態の大規模な物流効率化事例では、商品形態や梱包の統一化によって輸送効率を上げる手法もとられる。だが、同社はあくまでも“人がどう感じるか”という感性価値を中心に据え、商品ごとの特性や顧客体験を犠牲にしない。「回転数が悪く、決意して購入する商品特性」と澤田氏が表現するように、エムールの商品は単なる消耗品ではなく、生活の質を変える選択としての価値を持つ。社名の由来でもある「EMOTION(感情)」×「ROOM(部屋)」の理念に基づき、素材や形状の最適化よりも、人の心身にどう響くかを最優先する。物流はその思想を支える「手段」であり、ブランド体験を完成させる最後の工程として位置づけている。

物流を単なるコストセンターではなく、ブランド戦略を支える経営基盤と位置づけ、設計・開発から顧客体験までをシームレスにつなぐ。それは同社が掲げる「感動する部屋づくり」を実現するための実践であり、物流を“届ける技術”から“価値を伝える技術”へと昇華させる挑戦でもある。新拠点「EMOOR TOKYO BASE」は、その思想を具現化する舞台となる。

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