ロジスティクス2月17日未明、日本貨物鉄道(JR貨物)の貨物列車が北海道の室蘭線で鹿と接触する事案が3件立て続けに発生し、いずれも遅延が生じた。JR貨物の輸送状況発表によると、苫小牧貨物-沼ノ端間(1:00-1:17)、竹浦-虎杖浜間(1:52-2:24)、糸井-錦岡間(4:20-4:42)の3区間で鹿と列車が接触した。2月に入り函館線、室蘭線の複数区間で貨物列車の鹿衝突が連日のように繰り返されており、北海道と本州を結ぶ幹線物流に影響が広がっている。(編集長・赤澤裕介)
大雪と重なり遅延が常態化
2月の北海道では、鹿衝突だけでなく大雪による輸送障害も重なっている。JR貨物は2月10日付のニュースリリースで「強い冬型の気圧配置に伴う貨物列車への影響」を発表しており、1月下旬から2月上旬にかけて北海道・東北で運休・大幅遅延が長期化した。この大雪の余波が収まりきらないなか、鹿衝突による遅延が追い打ちをかけている形だ。
直近の鹿衝突事例をJR貨物公式サイトの輸送状況から確認すると、2月15日には函館線の仁山-新函館北斗間で4時37分から6時46分まで2時間以上にわたり鹿接触による遅延が発生した。同日、ハピラインふくい線(福井県)でも鹿接触が起きており、北海道に限らず全国的に冬季の鹿衝突リスクが顕在化している。2月13日には室蘭線の稀府-黄金間でも貨物列車が鹿と接触し遅延が生じた(JR北海道運行情報)。2月10日にも室蘭線の苫小牧貨物-沼ノ端間で鹿接触が確認されている。
本日を含め、2月だけで室蘭線・函館線での鹿接触事案は少なくとも6件以上。いずれも深夜から早朝の時間帯に集中しており、エゾシカの活動パターンと貨物列車の夜間運行が重なる構造的な問題が浮き彫りになっている。
北海道と本州を結ぶ貨物列車は、書籍、雑誌、生鮮食品など日常生活に直結する物資を運ぶ。24年11月に函館線森-石倉間で発生した貨物列車脱線事故の際には、札幌市内の大型書店で雑誌やコミックが1週間以上入荷できなくなり、ジャガイモやタマネギの出荷もトラックへの振り替えを余儀なくされた。ホクレン農業協同組合連合会によれば、タマネギの北海道外への輸送はJR貨物が7割を担っている。鹿衝突による遅延は1件あたり数十分程度にとどまるケースが多いものの、連日の積み重ねは本州方面への到着遅延として波及する。大雪による運休と合わせ、26年1-2月は北海道発着の鉄道貨物が異例の不安定状態に陥っている。
JR貨物の25年度安全報告書では、野生動物対策として自治体への個体数管理の要請、JRグループ間の情報交換、ダイヤへの余裕時分付加を挙げている。ただし同報告書での野生動物に関する記述は限定的で、24年に発覚した輪軸組立作業の不正問題への対応が安全施策の中心を占めている。JR貨物自身は線路設備を保有しないため、沿線の物理的な対策はJR北海道側に委ねざるを得ない構造がある。
JR北海道は侵入防止柵の設置を花咲線、釧網線などで進めており、支障木の伐採による運転士の視認性向上にも取り組んでいる。貨物列車が走行する室蘭線、函館線にもこれらの対策は適用されている。多発区間では夜間の減速運転を実施し、ダイヤに余裕時分を設けて衝突時の復旧対応がしやすい運行体制を組んでいる。

それでも、全区間への柵設置は費用面で現実的ではない。JR北海道の営業路線は総延長2400キロ超に及び、エゾシカの出没範囲はほぼ全道に広がっている。柵で囲える区間はごく一部にとどまる。エゾシカの個体数そのものが増加傾向にあるなかでは対策の効果にも限界がある。北海道環境生活部の調査によれば、エゾシカの個体数増加の背景には天敵であるエゾオオカミの絶滅、農地拡大によるえさ場の増加、ハンター人口の減少がある。鉄道事業者単独で解決できる問題ではない。
さらに近年は鹿だけでなくヒグマの出没も列車運行に影響を及ぼしている。鹿とは異なりヒグマは学習能力が高く、忌避装置への慣れが早いとされる。鹿・クマを含む野生動物対策は、北海道で鉄道貨物を運行するうえで避けて通れない経営課題だ。JR北海道管内の鹿衝突件数は21年度に2632件と2年連続で過去最多を更新し、その後も増加傾向が続いているとみられる。北海道の道路でのエゾシカ関連交通事故も23年に全道計5287件と過去最多を記録しており、鉄道・道路を問わずエゾシカとの共存が北海道のインフラ全体にとって深刻な課題となっている。
JR貨物は第二種鉄道事業者として、JR北海道が保有する線路設備を借りて貨物列車を運行している。線路沿いの野生動物対策はJR北海道が主体となるが、輸送遅延の影響を直接受けるのはJR貨物の荷主だ。物流の2024年問題を経てトラックドライバー不足が深刻化するなか、鉄道貨物の安定運行の重要性はいっそう高まっている。鹿衝突という一見すると局所的な問題が、サプライチェーン全体の脆弱性として表面化しつつある。
荷主にとっての現実的な備えとしては、冬季の北海道発着貨物について代替輸送手段(フェリー、航空便、トラック)をあらかじめBCP(事業継続計画)に組み込んでおくことが挙げられる。特にタマネギ、ジャガイモなど重量物の鉄道依存度が高い農産品は、トラック振り替え時のドライバー確保が課題になる。24年11月の脱線事故時には士幌町の農協がトラック手配に苦労し、2日分をまとめて出荷せざるを得なかった。
国や自治体による侵入防止柵への補助拡大、AIカメラやドローンを活用したデジタル監視技術の導入検討も求められる。鉄道総合技術研究所はこれまでに鹿忌避剤や超音波発生装置の研究を進めてきたが、決定打となる技術は確立されていない。エゾシカの個体数管理は北海道庁の鳥獣行政の範疇であり、鉄道事業者、物流事業者、自治体、国が連携した総合的な取り組みが不可欠だ。
26年は24年問題から2年が経過し、トラックドライバーの労働時間規制が定着するなかで鉄道貨物へのモーダルシフトがいっそう重要になっている。その鉄道貨物の安定性が野生動物というコントロール困難な要因で揺らいでいる現実を、サプライチェーン全体のリスクとして直視する必要がある。
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