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「BCMは地域の方舟」第3回(コラム連載)

2020年3月9日 (月)

話題◆「BCMは地域の方舟」第1回-https://www.logi-today.com/369319
◆「BCMは地域の方舟」第2回-https://www.logi-today.com/369512

第4章-開かれた方舟

さまざまなコミュニティ施設や機能を備える大規模物流倉庫の供給が大消費圏で活発だ。装備されている災害向け設備やシステムを活用し、事業継続以前に地域社会の緊急避難施設や災害対策の仮設拠点としての機能を担うことが期待される。その事前同意に際しては倉庫側の全面的協力と引き換えに自治体か国レベルでの優遇条件を用意する必要がある。正義感や社会的な使命感だけでは企業は動かない。建前をとおす本音が不可欠なのは言うまでもない。

■ リスクヘッジの備蓄庫

倉庫ゆえに物資の保管に長けている。緊急時協力施設としてエントリーするなら、水や食料、寝具や防寒具、医療備品の保管管理なども自治体から有償で委託されるだろう。災害への備えは所帯単位が基本だが、家屋の倒壊や浸水や泥土浸食などによって、身一つで避難する場合には、普段の備えを活かせない場合が多い。その際に、一時避難できる大型倉庫内に最低限度の緊急用備品があれば、被災者にはありがたいこと疑いない。

今から着工する倉庫には、小さな設計変更でまかなえるような避難所利用時の設えと貯蔵庫機能を追加してもらいたい。緑化や公園も有効なコミュニティ貢献であるが、災害時対応は別次元の寄与度となる。既存建屋は物理的に許容できる範囲で準じてほしい。

■ 国と自治体と住民と事業者

やはり基本的な指針と制度の作成は国の事業として取り扱うことが好適であろう。運用は自治体に委ね、自治体は住民からの希望や意見の聴取を丁寧に行う。その際に地域所在の企業群を巻き込むことが肝要だ。特に大型施設の運営者を欠いてはならない。その理由はすでに述べたとおりである。自治体の自前設備や予算充当には限界があるし、住民の自助努力も同様だ。かといってそこで中途半端にあきらめる類のハナシではないことも明白。企業の協力を要請することは迷いないところだと思う。改めての地域貢献やCSR云々などの広報は不要だ。災害対策の協議に参加した各社は、具体的な協力支援によって住民に再認知される。ハザードマップと同様に、有事の備えとして各企業の施設が記されるのだ。

■ 利益のかたち

経営者は今一度熟考してほしい。企業が得るべきものは利益であるが、その利益の中身を決めるのは経営だということを。金銭換算できる益は何よりも尊い。それで事業が存続でき、かかわる者が生計を立て、納税により社会的存在として具体的な貢献が示せる。何よりも利益を生む会社には明確な責任意識が働いている。企業の存在価値は生み出す利益が証明していると言って過言ではない。そこからもう一歩進んで、甚大災害への対処や拠出負担を利益還元による企業責任の具現として一考できないものだろうか。還元した利益は、企業価値の増大に姿を変えて還流するのではないか。そんな想像をすることを止めることができないのは私だけなのか。

第5章-「覚悟する」という備え

災害に備えるとは、抗う方策をひたすらに練るばかりではない。かといってなすすべなく翻弄されるというわけでもない。予測や想像を超えて、瞬時であったり徐々にであったりしながら、人間の築いてきた諸物を破壊し不能にしてしまう天災を制するがごとく立ち向かう愚はやめた方がよい。太古の人々同様に「畏れる」謙虚さと、覚悟が必要なのではないだろうか。

■ その時のあとに

過去の数件の大災害を思い出せば、諸機能停止相当の被害は不可避であるとわかる。大地震と津波、集中豪雨による堤防の決壊や想定排水容量を超過する浸水、ポロロッカのような河川逆流、暴風雨による鉄道停止や主要高速封鎖。天災のたびに、想定以上か想定外の威力や量に翻弄され、かつ準備や予測が用をなさない「本番」での混乱と思考停止。二次被害は人災だったことも数知れず。そんなことを繰り返してきたのだから、一定の防災や免災の手当て以外の予算や時間は、激甚想定した被災状態からの復興計画と準備に充てるべきだ。

有識者や政治家だけではなく、ゼネコンや自衛隊、設備メーカーなどに代表される、避難所や復旧現場で頭脳と肉体の両方を駆使する専門家たちを加えての実施計画策定を望む。現場を知る者ゆえの物流倉庫の有効利用や、実用的で即効性の高い提案が期待できる。

■ 業務再開は地域復興あってこそ

上記のとおり、BCMを講じる前に、施設建屋単体ではなく、立地周辺までを巻き込んでの計画立案が必要。Businessより先にCommunityを考えるということだ。いかなる施設であっても、所在の地域が復興しなければ稼働に支障が出る。物流倉庫のような地域住人が労働力の大部分を担う機能施設はとりわけである。前出の言い回しを借りればCommunityContinuityPlanやManagementとなる。建屋や設備の復旧だけでなく、作業労働力の回復が同時になされなければ、再稼働はできない。地域が一定の機能回復を果たし、住民が社会生活に復帰することが「継続」の必要条件として不可欠だ。

■ 覚悟すること

天災は規模や激しさを増す傾向のまま、今後何度も見舞うだろう。赤道直下に暮らす人々、極点に近い厳寒地に生きる人々、砂漠の民、海洋の嵐に耐えながら存える人々。彼らに共通するのは、前向きな覚悟だ。それは諦めや慣れとは別種の達観とも言い表したくなるような潔さと感じる。気象の変動に伴う苛烈な災害の数々。我々はそんな国に生きている。低気圧の墓場と名づけられたユーラシア大陸の東端。死に絶える直前の猛威は断末魔のように列島を襲う。先進技術をもってしても、インフラの整備を進めても、一定限度を超えれば防御や準備の堤は決壊するのだということを誰もが知っている。覚悟とは諦めることなく何度でも立ち上がる意志を貫くこと。「いい齢をして青いなぁ」と苦笑しつつも、いたって本気で書いている。

「BCMは地域の方舟」第1回(コラム連載)
https://www.logi-today.com/369319

「BCMは地域の方舟」第2回(コラム連載)
https://www.logi-today.com/369512

「BCMは地域の方舟」第3回(コラム連載)
https://www.logi-today.com/369847