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「BCMは地域の方舟」第1回(コラム連載)

2020年3月3日 (火)

話題物流コンサルタントの永田利紀氏によるコラム連載第2弾がスタートします。物流の切り口から鋭く現代社会を捉える永田氏は、徹底した現場目線を信条とするコンサルタントとして豊富な現場経験を重ねてきました。今回の連載テーマは「BCM(事業継続マネージメント)」です。

第1章-災いのあと~漂う方舟~

大災害に見舞われた時、物流業界と属する個々の企業はどうあるべきなのだろうか。各社各人が「その時」に備えるべき点や考え方の基本を共有することの重要さを今一度考えてみたい。

■ 自社のためではない

「災害対策は自社の事業継続のために施すのではない」という企業広報を切望している。地域の企業が足並みをそろえた被災後の復旧対策を講じない限り、個々の準備や施策は有事のあとに事業寄与しない。綿密なBCP(事業継続計画)策定をもとにBCM(事業継続マネージメント)を運用する大型倉庫があるとする。そして大災害が発生した際は、予定どおり発電と通信機能の自前調達と防水システム稼働によって、ほとんど被害のない庫内環境を維持。しかしその建屋を外から眺める被災者にとっては、巨大な最新式の倉庫は暗闇をさまよう蛍のように目的なく自ら発光しているにすぎず、取り巻く周囲は電気ガス水道が断たれ、照明も通信も交通も止まったまま。「避難所として開放してくれないか?」と住民が詰めかけたとき、庫内の人員はどうすればよいのだろうか?もし貴方が倉庫の管理者や運営企業の経営者であるとすれば、門を閉ざして沈黙や拒絶を続けることに耐えられるはずないと想像するし、そうであってほしいと願う。

■ 暗闇の荒野を漂うだけ

倉庫にしても商業ビルにしても、災害対応する本旨はCSRの主柱として設けるほうが現実的だと考える。高度な耐震システム、防水設備、自家発電、非常時通信手段などを搭載する最新の方舟。そこから外界を見渡せば、水道光熱と通信を絶たれ、寝食に不自由な被災者が四方にあふれている惨状が見える。その中を無傷の方舟が漂っている。今のBCPやBCMを見聞するたびにそんな光景が脳裏に浮かぶ。個々の倉庫やビルだけが稼働し、業務継続する目的と果実は何なのだろう。誰と通信し、どのような業務を行い、どこに何を送ったり運んだりしようというのか。同じく無傷のまま収納されていた自動車を出動させても、道路は分断され、地域を抜けた先の被災情報すら把握できていない。燃料不足に困窮する近隣住民を横目に、物資を積んだトラックを動かす余力は「秀でた設備と万全の準備」の実証だと頷く経営者などいるのだろうか。無事であった全設備や什器備品を被災者援助に供出することは、企業の社会的責任であるに決まっているではないか。真っ当な経営者なら必ずそのように断じるはずだ。

■ 誰もが同じように

そんな理屈はここで述べるまでもなく、全ての企業人が承知している。ならば、建屋・設備の堅牢と持続についての優位性を説明するにとどめず、それが地域に貢献できる点も広報すべきだ。雇用、交通、騒音、環境などに加え 、災害時の地域貢献についても説明する。それが物流倉庫開設・運営の「あたりまえ」となることを願う。

第2章-備えあれば 憂いなし、か?

自然の猛威は人智の限りを尽くしたあらゆる準備や装置がほとんど役に立たないほど圧倒的であり、ただただ人間の無力さを思い知らされるのみだ。大きな災害のたびに「想定以上の」「統計が役立たない」「測定不可能な」などの不可抗力の説明に終始する解説と報道が表紙だけを変えて居並ぶ。

■ 答合わせと復習予習

「最新の」「画期的な」「十二分の」「万が一の場合」のような謳い文句で発表されていた諸設備や仕組の数々。災害発生時の実用効果の測定結果を公表すべきだが、多くは「電源が切れていた」「何らかのトラブルで反応しなかった」「稼働したとたんにトラブルで停止した」などがしばらく経ってから発表される。被害の実態や死傷者の数は逐一詳細に発表されるが、災害対策の事前想定及びさまざまな対災害システムや設備の稼働結果を検証する公的な仕組や報道はない。あっても、要領を得ない概論や状況説明ばかりで、数値や図表による具体的な「予実」の対比がない。「終わったことはこれぐらいにして、今後のことを話そうではないか」というのがありがちだが、振り返りをきちんとしないからなのか、前を向くたびにつまずいている。

■ 物流機能の断裂を回避?

震災やその他天災に見舞われた時、個々の物流倉庫の稼働云々や、その倉庫が担っている特定の商流維持などは論外の優先順位になる。一企業や一業種が頑なに稼働を追求したとしても、係る先や顧客が被災していたり、交通や情報が断裂して、消費活動をはじめとする経済状況は常態ではなくなる。とりわけ激甚災害の場合は、緊急対応の連続、超法規的決定による救済・救援を旨として、戒厳令と呼ぶに支障ない政府主導の情報発信と行動示唆が行われる。その時に「我社の倉庫は自家発電機能と止水装置による防水効果によって、ほぼ無傷の状態です。従って業務継続が可能です」と胸を張る企業などありえない。被災者である社員は家族や知友人の安否に心囚われながらも、徒歩や自転車やバイクなどで出社して、誰からの入荷を待ち、出荷指示を受け、どこに向けてどの運送便で発送するというのか。独自の通信回線で誰とどんな業務のやり取りをするというのだろうか?

■ 備えても憂いは残る

倉庫にしても大型商業施設やオフィスビルにしても、公共交通や主要道路が停止断裂するような事態になれば、最新の災害対策機能はほぼ役に立たないだろう。機能自体を疑っているわけではない。耐震や自家発電、衛星経由の通信回線確保など、技術革新の目覚ましい進捗は素直にありがたいし、それらを否定する向きのハナシではない。個々の継続性や安全性の確保が横に繋がり、地域という面としての連帯と連動が確保されるなら、全員が被災者であると同時に、「今」と「次」の認識も歩調が揃う。それこそが災害後の最重要事項であり、被災前の生活や企業活動の中身に戻すところが復興の第一だ。誰かだけが無事でも事態は改善しない。災害対策の基本とはそういうものだと思う。

―第2回(3月5日公開予定)に続く

「BCMは地域の方舟」第1回(コラム連載)
https://www.logi-today.com/369319

「BCMは地域の方舟」第2回(コラム連載)
https://www.logi-today.com/369512

「BCMは地域の方舟」第3回(コラム連載)
https://www.logi-today.com/369847