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「日本製の物流プラットフォーム」第8回コラム連載

2020年6月8日 (月)

話題永田利紀氏のコラム連載「日本製の物流プラットフォーム」の第8回を掲載します。

第7回掲載(6月4日)▶https://www.logi-today.com/379878

第15章- 実現への関所

民間企業は利益確保のために事業を営む。したがって益なき事には労力を費やさない。では何が損で何が益にあたるのだろうか。

■ 損得勘定

(イメージ画像)

利益は何よりも大切だ。利益の出ない状態が続けば、その企業価値を認められなくなる。益を確保するためには競争に勝たなければならない。つまり競合他社よりも市場で支持されなければならない。

では、物流での勝利とは何か。機能部門であるコストセンターなのだから、勝ちも負けもなく、予定利益を確保するに支障ない範囲で収まっていることではないだろうか。もちろん機能としての品質に瑕疵があってはならない。ここでいう物流の損得は機能品質に見合ったコスト管理がなされているか否かで決定される。

■ 損しなければよい

企業が損しない状態とは、競争に負けていないことに等しい。もしそれに同意する企業数が過半なら、物流プラットフォームを共通化する道標が置ける。一人勝ちは望めない代わりに、惨敗や撤退の可能性がない。そして物流に頭を悩ませ、孤独に思考し行動する必要がなくなる。それはあきらかに得している状態と評価できなくても、損しているのでは決してない。ならば納得できるのではないだろうか。

■ 本当に「得」なのか

損していなければよい、しかし得でもない…とは考えていない。最終的には物流コストの最小化に至る道だからだ。そのために道標を置くのであって、目的は参加者が迷わず違えず同じ場所に至ること以外にはない。従量と負担区分によって、各自のコストが決定される。それを談合と呼ぶのは奇異この上ない。それによって不利益を被る者はいないはずだ。協調を嫌い他基準や他団体で群れようとする面々の出現で、「公正な取引を阻害する可能性があるのでは」と指摘される可能性もあるが、そもそも反意をひっこめて、呉越同舟に甘んじればよいだけだ。

■ だからこそ国主導の基準が必要

(イメージ画像)

仲良しクラブ的なグループ分けを避けなければならないことは絶対条件となる。錦の御旗、御上のお達し、お墨付き…国民の利益につながると評価できる仕組みならば、国は強権発動してでも準拠を推進しなければならない。認否の別によって、様々な意見や反応が起こる。そのような曲折のさなかにあっても、行政は動じることなく生活者の利益になる選択を貫いてほしい。「国民の大事に内輪もめしている場合か」と一喝するぐらいの気概ある官僚がいると信じている。

第16章- 究極のフリーロケーション

物流業務のプラットフォームが共通化されて、国内各地の物流倉庫や運送便がそれに準じた業務を行うとする。同一の庫内業務フローとWMS、同一の配送事務と配車システムはもちろんだが、事務書類の書式も統一する。加えて、全拠点の全担当者が視ている画面仕様も同じ。つまり、倉庫や車両は単なるハードであり、その所属や所在地の詳細は業務手配のフローには一切影響しない。システムは最短で最適な組み合わせを常に検索照合し、処理順に選択決定するだけというものだ。

■ 場所は記号

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たとえばある倉庫には合計8社分の荷物が保管されているが、その保管区画や作業に線引きは存在しない。倉庫全体で一つの保管場所として機能しており、企業・荷物別のロケーションも存在しない。あるのはSKU別のロケだけで、それがどの企業の保管物なのかは業務に全く干渉しない。庫内にある荷物はすべてフリーロケーションで管理されている。全品がJANコード付与されて、そのマスター書式も同じ。稼働しているWMSは荷物別の必要な作業要素を適宜選択して、現場に指示を出し続ける。介在するのは品番とロケの共通ロジックから付与された記号のみであり、それ以外の文字記号は業務上のデータには表示されることがない。

■ 個性の消滅は合理化の基礎

単一倉庫内に複数企業の多種多彩な商材が居並ぶ。しかしそこでは、必要要素のみが選択される直列的なフローによって、まったく個々の別なく淡々と業務消化されてゆく。個性や区画や建屋の線引きが消失しているだけではない。地域の線引きももはや関係なくなっている。都道府県別の区割りは必要ないのだ。国内すべてがフリーロケーション化できるので、受注から引当までは最適なロケ選択と最終名寄せが確認され、配送便の決定までをシステムが判断する。その決定は、受領者が選択か契約している内容に応じているだけだ。

■ 増えるほど少なくなる

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この仕組に参加する企業が増えれば増えるほど、入荷・保管・引当・出荷・配送の柔軟性や多様性が充実する。その結果、時間切迫や労務制限が減り、業務消化容量が増大するだけでなく、事業運営上の心理的なストレスが軽減される。「不可」がなくなれば、利用企業にとってのメリットは大きくなる一方であり、保管拠点の増加とフリーロケによる床稼働率のアップは、接続する運送便の便宜や選択肢の追加を生むので、好循環によるコスト削減や業務安定化が本音で期待できる。

物流会社・事業会社の別を問わず、全国共通の倉庫内統一プラットフォームに準拠する企業が増加すれば、安定した物流インフラの形成と充実、最終受領者へのサービス提供の標準化と信頼性強化などが実現できる。

―第9回(6月11日公開予定)に続く

第1回:https://www.logi-today.com/376649
第2回:https://www.logi-today.com/377070
第3回:https://www.logi-today.com/377916
第4回:https://www.logi-today.com/378377
第5回:https://www.logi-today.com/378994
第6回:https://www.logi-today.com/379203
第7回:https://www.logi-today.com/379878

永田利紀氏の寄稿・コラム連載記事
“腕におぼえあり”ならば物流業界へ~正社員不足、求人企業は偏見改めよ
https://www.logi-today.com/356711
コハイのあした(コラム連載・全9回)
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https://www.logi-today.com/369319
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物流業界に衝撃、一石”多鳥”のタクシー配送
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好調決算支える「運賃値上げ」が意味すること
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