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コロナ検体輸送最前線、病院の梱包認識に不十分さも

2020年6月8日 (月)

話題「ウイルス感染?それは怖いですよ。きちんと梱包されていればいいが、マニュアル通りに梱包された状態で集荷できるケースはむしろ少ないので」

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う政府の緊急事態宣言が解除されてから、8日で2週間が経過した。これまでのところは新たな感染爆発も抑制できているといえそうだ。こうした状況は医療関係者の尽力によって支えられているわけだが、産業の血液ともいわれる物流業にも、感染拡大を抑える取り組みに欠かせない機能を担う人びとがいる。

PCR検査などで生じた検体を検査センターへ届ける「検体輸送」のドライバーたちだ。

(イメージ画像)

検査が行われる各地の病院などから検体を集荷し、検査センターへ運び込むこの仕事、患者のウイルス感染が陽性か陰性かを判定するための臨床検体を扱い、適切な輸送によって正しい感染状況を明らかにするために不可欠な機能を担っているが、医師や看護師と異なり、ウイルスが付着している可能性のある荷物を扱うための専門的な資格などはない。

それだけに、国立感染症研究所(感染研)が定めた輸送マニュアルを徹底することがドライバー自身を含めた感染防止の「命綱」となるものの、検体を採取する病院側がマニュアルで定められた梱包方法を徹底していない場合、集荷に訪れたドライバーの不安は一気に高まることになる。

マニュアルによると新型コロナウイルスの検体には、たん、鼻咽頭を滅菌綿棒などで拭ったもの、唾液、血清、血液、尿、便、解剖組織(患者が死亡した場合)などがあり、いずれも検体採取後、氷上か冷蔵庫(摂氏4度)に保管し、輸送開始までに48時間以上かかる場合はマイナス80度以下で凍結保存することとされている。

また輸送に際しては、原則として「基本三重梱包」を行った上で「公用車・社用車などの自動車」または「カテゴリーBに分類される臨床検体の取り扱い可能な輸送業者」を利用することになっているが、実際には診療活動に忙殺される医療関係者がマニュアルの内容を把握していないケースもある。

▲基本三重梱包のイメージ図(出所:国立感染症研究所)

検体輸送などの緊急配送業務をバイク、軽トラック、一般トラック、ハンドキャリーなどの輸送手段を用いて展開する日本急送(東京都中央区)では、感染研の呼びかけに呼応する形で、5月から新型コロナウイルスの臨床検体輸送を24時間365日体制で引き受けるサービスに参入した。実際の輸送は正社員だけでなく委託契約を結んだ配達員が担うこともあるという。

現在、検体輸送の頻度は依然として高い水準にあるが、現場の混乱は緊急事態宣言が解除された5月下旬以降を境に落ち着きつつある。また検査体制が現在ほど整っていなかった4月頃までは輸送距離が長くなることを理由に、日本郵便の「ゆうパック」を用いる”荷主”が多かったが、地域ごとの検査体制が整うに連れ、日本郵便以外の輸送手段を利用する病院が増加している。

最近は第2波、第3波に備える形で輸送手段を事前に確保したい病院からの問い合わせが増加傾向にあるのだという。

感染研が4日付で公表した「新型コロナウイルス感染を疑う患者の臨床検体輸送の依頼が可能な運送会社」では日本急送、日本郵便、国際空輸、TNTエクスプレス、日本デイタムサプライ、アスクトランスポート、セルート、日本空輸の8社がリストアップされている。

(イメージ画像)

このリストは、検体を採取する病院がニーズに合った運送会社を見つけやすくし、スピーディーな検体輸送と検査の実施につなげるために公表されているもので、5月8日に感染研が公開した。6月4日の更新では運送会社数が増加しているが、長らく続く人手不足を背景に運送会社の配達員確保が厳しさを増していることも忘れてはならない。

輸送マニュアルに従うことでしかウイルス漏出リスクを減らす術を知らない配達員にとって、マニュアルから外れた検体容器を手渡される不安は容易に想像できる。国難ともいえる新型コロナウイルスとの戦いのなか、貴重な運び手を失うことは社会的にも大きな損失となりかねず、病院・運送会社側ともに輸送マニュアルのさらなる徹底が求められる。