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白鳩の新物流拠点で混乱、オートストア運用ネック

2020年10月14日 (水)

拠点・施設女性下着のEC販売などを手がける白鳩が8月に開設した本社兼物流センター(京都市伏見区)で、拠点の立ち上げに伴うトラブルが発生し、出荷数が激減していたことがわかった。

新拠点では、需要の拡大に対応するため出荷量を2倍に引き上げる目標を立て、自動出荷システムの「オートストア」を導入したが、同システムの運用をめぐって混乱が生じた。9月に入ってトラブルは一定の収束に至り「従来水準の出荷体制を再開できるメドは立った」(同社)ものの、「出荷額2倍」を目指して多額の投資を行った体制には程遠い状況で、今後も「正常化への見通しが立っていない」ことから、拡大する需要を取り込みきれないジレンマにさいなまれる時期が続きそうだ。(編集部)

(イメージ画像)

同社が13日に発表した上半期業績(3-8月期)によると、6月と7月は前年同月実績を上回る出荷を達成。8月に本社兼物流センターへ移転したのに伴い入出荷停止期間に入ったが、移転直後からオートストアの運用を中心とした物流システムに不具合や出荷オペレーションの停滞が発生し「出荷数が著しく減少」(同社)、8月は前年同月の売上実績を割り込む事態となった。本業そのものは巣ごもり消費の拡大を背景にECが伸び、上期業績も2%増の26.7億円を売り上げたが、こうしたトラブルもあり、同期の営業損益は赤字が前年同期実績の2.2倍となる0.8億円に膨らみ、最終損失0.9億円で着地している。

同社が物流拠点を新設したのは商品保管と出荷能力を増強するためで、親会社の小田急電鉄から資金を借り入れて旧本社隣接地に新本社兼物流センターを建設、倉庫業務の自動化に向けて中核を担うオートストアを導入し、営業開始準備が整ったとして8月20日に移転していた。移転予定日の1か月前にあたる7月14日には本社(兼物流センター)の移転を発表し「業績への影響はない」としたものの、その後のトラブルで目算が狂った形だ。

LogisticsTodayの取材に対し、同社は「何とか移転前の出荷能力は確保できたが、拠点の新設やオートストアの導入に多額の投資を伴っており、『従来通り』では話にならない」と、想定通りに物流が機能しないもどかしさを強調。今後の業績見通しに与える影響も小さくなく「相当な償却負担があり、売上高の損益分岐点もかなり上がっている」として、受注を拡大しなければならない局面にありながらも最新物流拠点がボトルネックとなっていることへの焦りを隠せない状況だ。

トラブルに至った要因の一つとして「物流業務を自社運営しているマイナス面が出たのではないか」との問いに対しては、「そうかもしれない。(オートストアは)新しい仕組みなので、いかに期待するポテンシャルを発揮できるか、運用面の習熟度を高めていくことが重要だと考えている」と回答。物流戦略に影響しかねない事態も視野に入ってきたとみられる。

(イメージ画像)

今後の打ち手については「まずはオートストアが想定通りに運用できるようにしたい」と説明。国内ではEC市場が拡大を続け、巣ごもり消費も追い風となっているだけに、出荷拠点がボトルネックとなる現状は商機を逸することを意味するが「現時点で正常化の見通しは立っていない」としており、このままの状態が続けば今期業績への影響だけでなく、来期業績のマイナス要因にもなりかねない。積極的な自動化を進めるという同社の物流戦略についても「影響はある」と認め、戦略の中核となるはずだったオートストアでつまずいたことで、ほかの設備の自動化を再検討するなど戦略の見直しに着手しなければならない、との考えを示した。

編集部追記(2020年10月15日)
本記事の主題としている白鳩社の物流トラブルは、自動化設備の導入が活発化している物流現場にあって、すべての当事者に起こり得るテーマと捉えて取材したものであることを追記します。本文にある通り、オートストアそのものに欠陥があるわけではありません。同社も「不慣れであったことを含め、使い切れていない当社の運用に問題がある」としており「今後は標準化を目指して効率向上に全力を挙げていく」ことになります。

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自動化普及期、物流現場は「他山の石」とせよ

アンダーウエアのハイブランドを扱うEC版セレクトショップ――。白鳩という企業を説明するならそのような表現になるだろう。その老舗ECに物流機能の大きなトラブルが発生していると聞いた。初報時の正直な感想は「あんまり想像できないなぁ」だった。

大手メーカー品の取り扱いが多く、流通管理を前提とした商品データを得られるゆえに、入荷から保管、出荷完了に至るまですべてデジタル化できるし、そのうえで最新の利器であるオートストアを投入。当面のキャパシティは天井が遠い状態だろう…が偽らざる実感だ。

初歩的な基本事項の説明で恐縮だが、「歩行時間」「作業切り替え」「ロケーションでの品番と数量確認」は、一般的な倉庫業務におけるピッキングの主要素である。

この3要素を満たすための実動としては「ロケを探す→該当するロケに歩いていく→ロケ前でロケ番確認→ピッキングリストに記載された品番とピックする物品に付された品番の照合およびピッキング数確認」となる。

今話題のオートストアとは上記作業の大部分を自動化することで、時間短縮と精度向上というふたつの約束を果たす利器のひとつだ。「より少ない人手で、より正確に、より速く、より多く、業務がこなせるようになる」は、ピッキングリストの中身の大半が1行1個で占められているEC事業者にとって、手間と時間を買うことと同意だ。

現場でのミス防止のための創意工夫や出荷頻度から割り出したロケーション配置の頻繁な変更による時間短縮との闘いから解放されるうえ、毎日毎時にシステムは学習し、業務履歴の蓄積は自社の物流業務の傾向や波動までを記憶しつつ、分析を繰り返しながら、改善と成熟を続ける。これがオートストアに代表される昨今の各種設備の共通点となっている。

今回の白鳩社の出荷トラブルだが、いったいどこに問題が生じてのトラブルとなったのだろうか。

即座に思い浮かぶのは、入荷や保管やピッキングの個別工程におけるミスや不具合ではなく、白鳩社が想定していた出荷効率やキャパシティの目論見違いがあったのではないか、という点だ。オートストアの強みとして、商品マスターの完全な読み込みと入荷管理を支障なくこなしていれば、日々の出荷業務データの蓄積による学習とその解答の現場工程へのフィードバックが延々と繰り返される。

さらには、履歴分析によって作業予見の精度の向上も期待できる。その強みという点において、解釈や期待していた「時間」の試算方法が違っていたか、スタート時にいくばくか捻じれていたのか…。そもそも導入前のサプライヤーとの確認事項や事前想定に基づいたテストの実施結果はどうだったのか。そのあたりが気になるところだ。

トラブルに見舞われた白鳩社の1日も早い予定巡航への移行を祈るばかりだ。一方でこの類の機器を導入しようとする他社にとっては、他山の石となることも明らかであるし、白鳩社の陥っている事態の起承転結を整理して理解することは大いに有効だと言えよう。人と機械、人とシステムの未来は「協働」という言葉でつながっているらしい。ただし、つなぎ方の試行錯誤はどの企業にも例外なき課題となるに違いない。(企画編集委員・永田利紀)