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商船三井、簡易航海記録を陸側でリアルタイム活用

2020年11月25日 (水)

ロジスティクス商船三井は、航海記録を要約したアブログ(アブストラクトログ)のデータを、リアルタイムに処理・活用するウェブアプリ「オンラインアブログ」を商船三井システムズ(東京都港区)と開発し、運用を開始した。すでに197隻に搭載を完了しており、今後も段階的に拡大する。

これまでは乗組員が船上の専用ソフトウェアを利用してアブログを作成し、電子メールで関係先に送信していたが、陸側でデータを取り込むのに時間がかかり、即時にデータを分析するのは難しかった。また船側、陸側ともにほかのシステムと連携できず、データの二重入力が発生していた。

今回開発したウェブアプリは、専用ソフトウェアを使わずウェブブラウザーから衛星回線経由で利用するもの。当初は陸上に比べて回線速度の遅い海上の通信環境下では船上からのサーバー接続に時間がかかり「実用に耐えない状況だった」(商船三井)が、日本マイクロソフト(東京都港区)の協力で開発を進めた結果、「十分業務に耐え得るレベルを実現」し、ほかのシステムとの連携も可能になった。

このウェブアプリを使用することで、メールで航海記録データを送信する作業、専用ソフトウェアのシステム管理、バージョンアップ作業が不要となり、1隻あたり年間880時間の削減効果を確認。船陸ともほかのシステムと連携できるようになったことで、データの二重入力にかかっていた年間270時間(1隻あたり)も不要化した。

このほか、航海記録データをリアルタイムに取得することで就航状況の簡易解析や、陸上からの監視機能の強化、燃料レポートのデータベース化による検索性の向上、システム設定変更の簡易化――といった効果ももたらされたという。

業務改善の次は乗員のQOL向上を願う

外航船の通信事情は経年の課題として何度となく議論されてきたが、この開発は大きな進歩だ。業務データの入力や送受信・システムメンテナンスなどの処理で、1日3時間あまりの時間短縮が可能となるのだから、その効率化寄与度は抜群だ。

通信速度や接続品質の安定強化などは、今後も継続的に改善がなされるだろう。目的の第一は業務改善であるが、容量的に可能なら、乗員がオフタイムにウェブ利用できるような環境も是非整えてほしい。家族や知友人と遠く長く離れて過ごす寂しさは誰にでも理解できる。過去に起こった航路逸脱によるいくつかの大事故は、ウェブ接続のために電波の拾える陸地への接近に起因するものだった。

業務と乗務員の双方に利が見込めるという観点からも、各企業は積極的に推進してほしいと願う。(企画編集委員・永田利紀)