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スエズ事故から3か月余り、賠償交渉合意へ

事故を契機とした「スエズ代替ルート」の開拓を

2021年7月5日 (月)

ロジスティクスエジプトのスエズ運河でことし3月、正栄汽船(愛媛県今治市)所有の大型コンテナ船「エバーギブン」が座礁した事故で、同社とスエズ運河庁の賠償交渉が正式合意に達した。スエズ運河庁は、運河内の湖に留め置かれていたエバーギブンが7日に出航することを認可した。今回の事故で、世界の海運における大動脈であるスエズ運河が6日間にわたって閉鎖され、欧州とアジアを結ぶ船便を中心に全世界の航路に影響が出た。発生から3カ月余り、今回の賠償交渉の合意により、事故処理は大きな節目を迎えたが、この事故はスエズ運河への過度な依存の実態も浮き彫りにした。

(イメージ画像)

スエズ運河は、地中海と紅海を結び、アジアとアフリカを分断する人工海面水路で、1869年に開通。欧州とアジアをアフリカ大陸を回らずに航行できることから、国際物流における利点は計り知れない。今回の事故に伴う運河の閉鎖により、1時間あたりの経済的な影響額が436億円に達するとの試算を台湾氏が報じたことも、それを裏付けている。

そのスエズ運河が、今回の事故で突然、閉鎖された。いわば、欧州からインド洋を抜ける海上ルートが事実上「消滅」したわけだ。船賃が高騰している現状で、欧州と日本を結ぶルートは、大西洋でアフリカを回る喜望峰航路が残るが、スエズ経由と比べた航行距離は8900キロメートル余分にかかり、ほぼ倍増だ。燃料価格によっては、コストの増大は計り知れない。

海運業者は、燃料の節約のために、座礁しない範囲でできる限り海岸線に近いルートを航行する。しかし、天候悪化のために海岸線に接近しすぎてしまい、座礁する事例もある。海を介したサプライチェーンは、こうした危険と隣り合わせに成立しているのだ。

日本の海運業者は、なぜここまでコスト削減にこだわるのか。その背景として、運賃水準の低さを指摘する声もある。荷主が支払う運賃が安すぎるというわけだ。運航原資が少ないのだから、当然ながら燃料コストを抑えざるを得ないし、リードタイム短縮も必要となる。それが、過度のスエズ運河への依存をもたらし、不測の事態で閉鎖したらサプライチェーンに大きな支障が出るようでは、まさに本末転倒な話ではないか。

(イメージ画像)

スエズ運河を避けるルートの開拓はどうか。ロシアが提唱する北極海経由も話題を呼んだが、北極点の近くを航行する必要があり、冬季を中心に困難も伴う。しかし、欧州と日本との運航距離はスエズ経由と比べてはるかに短いのは大きな利点であり、冬季を避ければ実現は不可能ではないだろう。次に、シベリア鉄道と日本海を通るルートだ。大型船と比べて一度に運べる貨物容量は小さくなるだろうが、政府間の折衝や日本の鉄道技術の導入などで、運行頻度を高めるなどの取り組みも可能ではないか。

いずれにせよ、スエズ運河が通行できなくなる事態を想定した代替ルートの構築は、喫緊の課題と言える。輸入に頼る日本の経済を維持するためには、港湾政策もさることながら、こうしたサプライチェーンの代替策の構築にも本腰を入れる必要があると思う。今回の事故が浮き彫りにした課題は、まさにここにある。