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大日本印刷とトーハン、出版流通改革で提携

読者ニーズを意識した物流改革が市場活性化のカギ

2021年7月13日 (火)

荷主大日本印刷と出版取次大手のトーハン(東京都新宿区)が、効率的な出版流通の推進を目的とした提携に合意した。生活者起点の出版流通改革「出版デジタルトランスフォーメーション(DX)」を掲げ、持続可能な出版流通の実現に向けた具体的な取り組みを開始する。なぜ、出版市場全体における売上減少傾向に歯止めがかからず、書籍の返品率が高止まりしているのか。消費者ニーズと書籍の供給サイドとのミスマッチが背景にある。

書店を中心に、本が売れない。その結果、返品在庫がうず高く積み上がり、最終的に廃棄される。SDGsの観点からも、物流の合理化や返品在庫の圧縮による廃棄削減が急務となっている。今回の提携は、こうした課題を解決するために、あえて企業の枠を越えて取り組もうとする施策と言える。

大日本印刷は、同じグループの丸善ジュンク堂書店向けに出版物専用倉庫を保有し、需要に応じて無駄なく本を納入できる仕組みを構築。トーハンにも水平展開し、埼玉県桶川市に「トーハン桶川SCMセンター」内に2022年夏にも専用倉庫を設置する計画だ。1冊単位から小ロットで製造できる大日本印刷の書籍製造一貫工場や、出版社倉庫との連携強化により、「適時に適量な」納入を実現する。

物流施策では、こうした連携策を基盤に、読者ニーズに対応した共同仕入れを推進する。書店の販売力強化にも注力していくという。両社は、より効率的な出版物流の実現こそが書籍ビジネスの効率化に不可欠であるとの共通認識を持っており、出版DXのカギとなる取り組みと位置付ける。

書籍をインターネット通販で購入するスタイルは、消費者にすっかり定着している。そこに新型コロナウイルス感染症拡大による宅配ニーズの高まりが拍車をかけた。物流現場は宅配荷物で恒常的な人手不足に陥っている。出版物流の変革こそが、出版業界の活性化の核となっているのが実情だ。今回の提携は、こうした状況に危機感を抱く大日本印刷が、出版取次業のトーハンを巻き込んだ点が興味深い。

「読者に、読みたい本を確実に届け、読者の裾野を広げていく」。両社が今回の提携の目的に掲げるフレーズだ。言い換えれば、少量でも欲しい数だけその都度、本を納入する仕組みを作るということだ。まさに、ネット通販が成長した要因そのものだ。読者の裾野を広げるには、こうした読者起点の取り組みが欠かせない。これまでの出版社起点の施策から脱却し、出版DXを進める両社の取り組みを今後も追跡していきたい。(編集部・清水直樹)

「4つの改革」(出所:大日本印刷)