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キーワードは「高速至近」「取引先近接」「手頃な賃料」

2021年12月24日 (金)

話題LOGISTICS TODAY編集部は、12月17日から20日にかけ物流企業や荷主企業を中心とする読者に対して、「東京近郊内陸エリア」における物流施設に関する実態ニーズ調査(有効回答数624件、回答率19.7%)を実施した。ことし5月に公開した「東京ベイエリア」に続くシリーズ第2弾となる今回は、埼玉県と周辺地域の大規模物流施設に焦点を当てた。

ここでは、求める規模や機能、許容できる賃料水準にかかる回答結果を分析。大都市圏への高いアクセス性や商品保管機能の高さを求める一方で、労働力確保や賃料水準の高騰への懸念があることが分かった。

回答者の内訳は、物流企業66.0%、荷主企業27.1%。(編集部特別取材班)

物流「企画」の外注はやはり消極的

回答した荷主企業に物流業務のアウトソーシングの利用状況について聞いたところ、「物流企画機能は自社で行い、オペレーション業務は外注している」が70.4%を占め、「現場オペレーションを含め、全て自社で運営している」(17.8%)、「企画機能を含む物流業務を外注している」(11.8%)を大きく上回った。

輸配送を中心とした物流事業の企画については、商品の特性や顧客ニーズにおける固有のノウハウや発想があり、なかなか外部への業務委託は難しいといったところだろうか。オペレーションについては業界を超えた汎用性も高いことから、外注による業務効率化を推進しているようだ。

物流施設の進出が顕著な「圏央道」エリア

それでは、今回の調査のテーマである東京近郊内陸エリアにおける物流拠点の開設状況はどうか聞いたところ、全体の70.5%が開設していると回答した。ちなみに、東京近郊内陸エリアは、東京都(練馬区・板橋区・北区)と埼玉県、千葉県北西(内陸)部、茨城県西(内陸)部を指す。

東京近郊内陸エリアへの立地は、着実に進んでいるようだ。その要因として見逃せないのが、高速道路網の拡充だ。このエリアでは、常磐自動車道(常磐道)と東北自動車道(東北道)、関越自動車道(関越道)が東京都から首都高速道路(首都高)などを介して放射状に開業したが、内陸部を相互に結ぶ道路網の整備は遅れていた。近年は、東京外環自動車道(外環道)や首都圏中央連絡自動車道(圏央道)が順次開通し、物流施設を「線」から「面」で展開できるようになったことで、格段にアクセス性が高まっている。

ここでは、高速道路の路線ごとに沿線エリアを設定し、立地場所を尋ねた。最多の43.4%が「圏央道」と回答。「常磐道」(35.2%)▽「関越道」(33.4%)▽「東北道(32.3%)▽「国道16号」(24.5%)▽「外環道」(20.9%)――と続いた。まさに、高速道路の拡充による「面」展開を反映した結果となった。東京近郊を環状に結ぶ数少ない一般国道である16号は、物流施設の進出がかねてから顕著であるが、既に飽和状態を呈しており、圏央道への集積が進んでいる要因の一つを形成していると言えそうだ。

産業全体の「内陸シフト」に物流施設も呼応

こうした物流施設の進出が目立つ東京近郊内陸エリア。ここに物流拠点を構えるメリットについては、「近接する大都市圏へ移動しやすいから」が44.9%でトップ。「出荷(納品)先に近いから」(39.3%)が続いた。さらに「賃料水準が(都心部と比べて)低いから」(38.6%)▽「配送先エリアが近いから」(35.6%)▽「入荷元(生産拠点)に近いから」(27.9%)――との回答が目立った。

物流施設を開発するうえで重視すべきポイントとして、大都市圏へのアクセス性の比重は今も決して小さくない。首都圏において東京湾岸エリアでの物流施設開発が先行した理由もそこにある。しかし、東京湾岸における産業集積が飽和状態になっている状況に加えて、近年はタワーマンションなど住宅地として見直されている動きも見逃せない。一方で、近年の内陸エリアにおける高速道路の拡充による時間距離の短縮効果は、めざましいものがある。

内陸エリアに触手を伸ばしているのは、なにも物流業界だけではない。食品や機械など各種メーカーの製造拠点や配送拠点も、内陸エリアへの傾斜が強まっている。こうした産業界の「内陸シフト」の動きが強まるなかで、サプライチェーンの構成要素として欠かせないピースである物流施設が、こうしたダイナミックなシフトチェンジに連動しないわけがないだろう。いわば必然の動きだ。

内陸エリアの懸念は「労働力確保」と「賃料高騰」

とはいえ、内陸エリアでの物流施設の展開には懸念材料もあるようだ。「労働力が確保しにくいから」(47.8%)「賃料水準が(ベイエリアと比べて)高騰してきたから」(45.8%)と、内陸部のデメリットについて雇用環境と賃料高騰を上げる回答が目立った。「交通渋滞が多いから」(39.6%)を含めて、内陸部の住宅地から離れた人口密度の比較的低いエリアを中心に、「住民が少ない」「道路網が粗い」といった懸念も根強いようだ。それにもかかわらず、進出企業どうしの競争から賃料が上昇傾向にあることも、費用対効果の観点からの課題になっているのだろう。

こうしたプラスとマイナスの両面を見据えて、内陸エリアに物流拠点の開設を新たに検討する可能性の有無を尋ねた。内定・決定の場合を含めて、「ある(時期は未定)」との回答が45.6%で最多。「ある(3年以内)」(10.3%)▽「ある(1年以内)」(2.2%)――を含めて、6割弱が内陸エリアでの物流拠点の設置に前向きだった。

物流施設の開発業者は、新型コロナウイルス禍の収束後を見据えた動きを着実に進めている。2022年以降に完成を迎える物流施設が目白押しなのは、こうした「アフターコロナ」「新しい生活様式」を見据えた取り組みを進めているからだ。いわゆる内陸エリアが、こうした物流施設開発の「主戦場」の一つなのは言うまでもない。

一方で、荷主企業にとっては、物流拠点の新規開設を前向きに検討したい機運は高まっているとしても、具体的にアクションを起こすにはやや不安材料もある。コロナ禍の行方とそれに連動した景気動向、コロナ禍収束後の市場動向の変貌ぶりを完全に予測するのは不可能だ。回答結果からは、そんな戸惑いの声が聞こえてきそうだ。

小規模区画のニーズが顕著に

内陸エリアでの物流拠点開設を検討する可能性が「ある」とした回答者に、必要なスペースの規模について聞いた。「1000坪以上3000坪未満」が40.8%で最多。次いで、「1000坪未満」(20.7%)▽「5000坪以上1万坪未満」(12.4%)――となった。

3000坪未満を希望する回答が6割を超えたことは、物流施設の開発業者にとっては注視すべき結果というべきだろう。不動産開発の観点からすれば、できるだけ広い規模で賃借契約を結ぶ方が効率がよい。一方で、内陸エリアにおける物流施設開発の差別化ポイントとして、食品メーカーをはじめとする小さめの区画を希望するニーズが高いことも、このエリアの特徴として知られている。内陸エリアで新規物件を開発する不動産業者は、湾岸部と比べてもニーズは「より多様化する傾向にあり、とりわけ小規模区画の引き合いは強い」というのが、共通認識であるようだ。

期待する機能は「広いスペース」と「高速道路へのアクセス」

さらに、内陸エリアへの物流拠点新設に積極的な回答者に、各機能における必要性の有無について聞いた。「不可欠」「重視する」を合わせた回答が多かった機能は、「車両待機スペース」(85.6%)▽「高速道路インターチェンジからの距離」(79.0%)▽「駐車スペース」(77.1%)▽「5メートル以上の天井高」(73.2%)▽「周辺道路の幅」(71.9%)▽「公共交通機関からのアクセス」(71.4%)――が上位を占めた。

(クリックで拡大)

内陸エリアの物流施設と聞いて、どんなイメージを浮かべるだろうか。郊外の広い敷地をトラックがゆったりと移動し、豊富なスペースをフォークリフトが荷物を効率よく運んでいく。そんなところだろうか。大都市に近い物流施設は、狭小スペースに大型トラックを横付ける必要があり、それだけでもストレスとなる。内陸エリアの物流施設には、こうした「広さ」を期待していることがうかがえる。天井高や耐荷重など商品保管スペースとしての機能を求めるのも、配送拠点としての位置付けを明確化したい荷主の希望が強いためだろう。

さらに、大都市圏からの時間距離を少しでも小さくするために、最寄りの高速道路インターチェンジへの近さは大きな武器となる。従業員確保における強みとなる鉄道やバスなど公共交通機関からのアクセス性や駐車場の確保を重視するのも、当然と言えるだろう。

放射状・環状の各路線でみられる賃料の「序列」

今回の調査では、内陸エリアを常磐・東北・関越の放射状の高速道路3路線と、圏央道・国道16号・外環道の環状3路線が互いに交差する9地点に分類して検証している。最後の設問として、この9地点について、許容できる物流施設の賃料(坪単価)の価格帯を選択してもらった。

「3000円未満」で多かったのは「関越道×圏央道」(37.4%)と「東北道×圏央道」(33.6%)。「3000円以上4000円未満」では「常磐道×国道16号」(64.2%)と「関越道×国道16号」(57.2%)。「4000円以上5000円未満」では「常磐道×外環道」(46.0%)と「東北道×外環道」(43.5%)。一見、方向性のない回答結果に見えるが、明確な法則が見出せるのに気付いただろうか。




「縦」(放射状)と「横」(環状)の高速道路で、序列が生まれているのだ。つまり許容賃料の水準が、放射状では「常磐道・東北道」「関越道」の順に、環状では「外環道」「国道16号」「圏央道」の順にそれぞれ低くなっていくのだ。

環状については、都心から遠くなるにつれて低くなる傾向であり、分かりやすい。放射状では、やはり産業開発が進んだ順番と言えるのだろう。東北道は東日本の幹線輸送ルートとして3路線では最も早く全通した。常磐道は東北道の補完機能を果たすとともに、首都高速道路を経由して都心に直結できる利便性がある。関越道は、外環道を経由して都心とつながる点でややアクセス性で弱いものの、沿線には所沢や川越など集積度の高い都市もあり、ポテンシャルは決して低くない。こうした事情が、許容賃料の差として表れていると考えられる。

次回は、常磐道・東北道・関越道の各沿線にある物流施設の関心度ランキングをまとめる。

■物流施設特集 ‐東京近郊(内陸)編‐