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埼玉県上尾市で物流施設を2022年9月に着工する日本GLP

GLP上尾、従業員確保を重視し新たな物流像創出へ

2021年12月22日 (水)

話題物流施設で繰り広げられる業務は実に幅広い。「入荷」「仕分け」「検品」「出荷」に大別されるが、それぞれのプロセスでも細分化されている。業務効率化を目的にロボットが導入され始めているものの、やはり現場作業を担う主役は人間だ。特に、EC(電子商取引)や食品など、少量ながら種類の多い商品を取り扱う場合は、多くの人手を必要とするのが実情だ。

物流施設を賃借して配送拠点を置く企業にとって頭が痛い課題なのが、こうした従業員の確保だ。物流現場の業務は先進機器の導入による業務改善効果もあって、以前ほど重労働を強いる環境ではなくなってきている。とはいえ、少子高齢化や他の就業先との競合もあり、なかなか思うような採用は難しい。

▲2024年3月の完成を予定している「GLP上尾」外観イメージ

こうした事情を考慮して、入居企業に少しでも雇用を確保しやすい条件を示せるように知恵を絞るのが、物流施設開発事業者だ。ここでは、従業員確保における優位性を前面に出して企業誘致を展開している日本GLP(東京都港区)の物流施設「GLP上尾」(埼玉県上尾市)をめぐる取り組みに迫った。

上尾に適性を見出した日本GLP

(イメージ)

埼玉県の中東部、県庁所在地のさいたま市の北側に接する上尾市は、東京都心のベッドタウンとして発展を遂げている。江戸時代に旧中山道の宿場町として栄え、明治以降は国道17号や上尾駅を中心に市街地が広がった。近郊農業が盛んだった街は、戦後に大規模な輸送機器関連企業の工場が進出。東京近郊の産業都市としての性格を強めている。

その上尾市で、あるタイヤメーカーが配送センターの撤退を決定した。そこに物流施設の進出を目指したのが、日本GLPだった。4万平方メートルを超える広大な敷地で、道路を隔てた反対側には大型ショッピングセンターや住宅が並ぶ。近くには国道17号が走り、それを経由して東京近郊エリアを環状につなぐ国道16号にも接続する。近隣には事業所も多く、大手宅配企業の基幹拠点も複数存在するなど、いわゆる「物流適地」だ。しかし、日本GLPが最も着目したのは、別のポイントだった。

「駅近」がもたらす物流施設の強み

「我々がこの場所で物流施設を展開できる最大のメリットは、『駅近(エキチカ)』です」と強調するのは、日本GLPの営業本部営業開発部の小西陽輔マネージャーだ。日本GLPが、このタイヤメーカー配送センター跡地を物流施設の開発用地に選んだ最大の理由には、「JR上尾駅からの距離」が関係しているという。

(イメージ)

JR上尾駅は、新型コロナウイルス感染拡大前は一日平均4万人以上の乗車人員を誇った、上尾市の中核駅。高崎線内では他線と結節する大宮駅に次いで2番目に多い。その上尾駅を東口で降りて旧中山道を南下すること十数分、営業を終了したタイヤメーカー配送センターに到着した。ここに24年2月、GLP上尾が完成するのだ。

物流施設の建つ場所といえば、どんなイメージがあるだろうか。山手や海辺にかかわらず、駅から遠い不便な場所を想像するものだ。視界を遮る無骨で大きな建物にトラックが頻繁に出入りする、迷惑な建造物との印象も強いであろう物流センター。それが主要駅から徒歩圏内にあるのは、都市部ではとりわけ珍しい事例と言えるだろう。

▲GLP上尾の「さまざまな従業員の通勤ニーズに対応できる」強みを語る、営業開発部の小西陽輔さん

物流施設が「駅近」であることの利点は何だろう。小西さんは「鉄道での通勤が可能なため、従業員が安心して通える」ことを一番に挙げる。運転が苦手でも安心して応募できることで、実質的な求人の「幅」が広がる。求人活動を展開する入居企業にとっても、「鉄道通勤可能」と明記できるメリットは大きいという。

GLP上尾の目の前にはバス停もあり、路線バスの利用も可能であるほか、マイカー通勤を想定した290台収容の駐車場も整備。「さまざまな従業員の通勤ニーズに対応できる」(小西さん)のが強みだ。

東京都心へのアクセス向上を見据えて

最寄駅からのアクセス性を訴求する戦略を進める日本GLPだが、入居企業にとって重要なリソースは従業員確保だけではない。配送拠点としてのポテンシャルも重要な要素だ。GLP上尾は、その観点についても優位性があるという。

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東京圏の衛星都市の要素もある上尾市。ここでの物流拠点には、埼玉県内の配送拠点としての機能だけでなく、東京都心を意識した物流センターの役割も期待される。埼玉県内のアクセスは国道17号などで機能するが、東京方面への移動は上尾市の西側を走る国道17号バイパス(上尾道路)を含めてもやや貧弱な印象だ。

しかし、それは最初から分かっている話だ。日本GLPは、その先を見据えた戦略を掲げている。「都心とさいたま市を結んでいる首都高速道路の上尾方面への延伸計画があります。さいたま市の与野から上尾南まで8.0キロの工事が17年に始まっています」(小西さん)。開業時期は未定だが、完成すれば上尾市内から東京都心まで高速道路で結ばれるほか、途中のジャンクションを介して高速道路網を駆使すれば、関東各地への移動時間も大幅に短縮される見通しだ。

(クリックで拡大)

「従業員の集めやすさ」も意識したゾーン構成に

ここまで、日本GLPによるGLP上尾の交通アクセス面における訴求ポイントについて見てきた。しかし、日本GLPが重視するのは、交通アクセスだけではない。機能面についても、地域特性を反映した計画を策定している。ここでも、「従業員確保」を重視する方針が垣間見える。

GLP上尾は、5階建てで整備する計画で、4階と5階は一体化したメゾネット構造とする。各界の構成については、「3つのフロアコンセプトを掲げて、荷主企業に訴求」(小西さん)していくという。1階の「ラストワンマイルゾーン」、2階と3階の「EC・流通加工ゾーン」、4階と5階の「圏央道沿い在庫拠点ゾーン」。一つの物流施設に3つの機能を持たせるというわけだ。

まずはラストワンマイルゾーン。両面トラックバース構造を採用し、スーパーマーケットをはじめとする小売店向けの食品輸送など、東京都内や埼玉エリアのラストワンマイル需要に対応できる仕様とする。EC・流通加工ゾーンは、ECサービスならではの小口・多種類の配送拠点に対応した柔軟な区画提供を実現する。

特徴的なのが4階と5階だ。圏央道(首都圏中央連絡自動車道)沿いに多く立地する在庫管理型の物流拠点へのニーズを引き込もうとする戦略的なフロアだ。埼玉県内の圏央道沿いには、いわゆる商品在庫に特化した物流拠点の進出が始まっている。圏央道よりも都市部に近いGLP上尾であれば、より強く訴求できるとの判断だ。

ここで、先ほど挙げたキーワードを思い出してほしい。1階のラストワンマイルゾーンや2階・3階のEC・流通加工ゾーンは、小口で種類の多い商品群が集まる。つまり、特に人手の必要な業務ゾーンというわけだ。ここで、GLP上尾の「従業員確保力」が発揮されることになる。

従業員を集めやすい立地だからこそ、ラストワンマイルやEC、流通加工を担う企業が入居意欲を示し、結果として施設の貸主と入居企業の双方にメリットが生まれる構図が出来上がる。それが4階と5階の在庫拠点ゾーンにも波及すれば、新規顧客の獲得にもつなげられる。日本GLPの狙いは、まさにそこにあるのだ。

人間と技術が共存する物流施設の「象徴」になるか

GLP上尾は「Co.Well-Being」(コ・ウェル・ビーイング)を開発コンセプトとし、カスタマー企業だけでなく就労者や地域住民へ「Wellness」(ウェルネス)をもたらすことができる施設の開発を目指している。カスタマー企業にとっては雇用の確保維持のみならず、施設の内外装に「バイオフィリックデザイン」の考えを取り込むことで、就労者の心身の健康やパフォーマンスを向上させる環境を整備し、カスタマー企業のさらなる事業成長に貢献する。地域住民に対しては、雇用の機会を創出するとともに防災拠点としての一面も兼ね備える敷地内の緑地を一部開放することで安心・安全を担保し、健康的な生活を支援する。

▲バイオフィリックデザインが施されたカフェ(5階)

ここにも、従業員の確保を意識した発想が反映されている。物流現場における業務効率化の推進策として注目を集めるDX(デジタルトランスフォーメーション)化の取り組みは、作業の円滑化を進める手段としては有効かもしれない。しかし、そこに人間の手が加わることで、より社会ニーズに即した物流サービスの提供につながるのではないか。日本GLPの「上尾プロジェクト」は、人間と技術が共存する物流施設のあり方を発信する拠点になるかもしれない。ここに、従業員の立場を意識した物流施設開発に注力する日本GLPの「強さ」があるのだ。

GLP上尾の概要
所在地:埼玉県上尾市愛宕3-1-22
敷地面積:4万6000平方メートル
延床面積:10万5000平方メートル
構造:免震PC造、地上5階建て
着工:2022年9月(予定)
入居可能時期:2024年3月(予定)
認証取得:LEEDゴールド認証(予定)、ZEB Ready認証(予定)
投資総額:230億円

■物流施設特集 ‐東京近郊(内陸)編‐