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埼玉県加須市の「保管効率重視型」マルチテナント型物流施設

ESR「加須DC2」、地域特性と働きやすさで差別化

2021年12月22日 (水)

話題首都圏をはじめとした大都市圏で2023年から24年にかけて予想される、ある出来事をめぐって物流業界でさまざまな思惑が交錯しているという。物流施設の大量供給、つまり新しい物流センターが一気に完成を迎えるのだ。EC(電子商取引)サービスの普及が進んでいたところに、新型コロナウイルスの感染拡大により発生した「巣ごもり需要」は感染収束後も定着するとの見方が強く、まさに「新しい生活様式」を生み出そうとしている。

物流開発企業はこうした動きを絶好のビジネスチャンスと捉えて、荷物の増加や小口化・多種類化の進展を見据えた対応を加速。物流センターの建設ラッシュは、アフターコロナの物流需要の高まりを意識した取り組みだ。

こうした動きを象徴する場所が、埼玉県北東部の加須市だ。東北自動車道の加須インターチェンジ(IC)周辺を中心に、住宅や田畑が広がる静かな街の景観はここ10年で一変。さらに新規物件の開発は続いている。そんな「物流適地」で新たな施設を22年3月に着工するのは、香港に本社を置きアジア太平洋各国で物流不動産やデータセンター開発を手かげるESR(イーエスアール)だ。

物流適地だけではない「2つの強み」

ESRが加須市で計画するのは、マルチテナント型物流施設「ESR 加須ディストリビューションセンター2」(加須DC2)だ。ESRが加須市で手がける物流施設開発は、17年1月に完成した「レッドウッド加須ディストリビューションセンター」に次いで2件目となる。

▲ESRの加須市周辺における開発状況。加須ICを中心に高速道路網を使用しやすい立地であることが分かる(クリックで拡大)

加須DC2は、加須ICから東北道や首都圏中央連絡自動車道(圏央道)などを介して首都圏各地への交通アクセスの高さが特徴。首都圏全域をはじめ東北地⽅への広域配送拠点として優位性の高い物流サービスを提供できる好立地だ。

しかし、加須DC2が他の物流施設と差別化を図れるポイントは、立地だけではない。「加須DC2の強み、それは『高い保管効率』と『従業員の安全な就労環境の提供』の2点に集約できます」。ESRビジネスデベロップメント&リーシングの佐々木保・マネージングディレクターは強調する。

地域特性を反映した「高い保管能力」

ESRが加須DC2の設計でこだわったのが、荷物の保管能力の確保だった。その象徴が、業界最高水準の梁下有効高だ。加須DC2は1階・2階、3階・4階で一体利用できるメゾネット構造だが、1階・2階の部分で梁下有効高を6.5メートルに設定。3階は5.5メートル、4階は6.0メートルを確保した。

さらに、柱ピッチは間口11メートル、奥行き10.5メートルを確保。ESRで近年開発する倉庫では11メートルを標準化しているが、その理由として佐々木さんはこう話す。「フォークリフトでの搬送効率が格段に高まります。回転半径よりも広い3メートル幅の通路を生み出せることで、安全でスピーディーな構内搬送が可能になるわけです」

■「ESR加須2」1~4階平面図

 事務所・荷受け室   倉庫   トラックバース
 開口部   区画境界

さらに細かい配慮で業務効率を高めるのが、区画を仕切る開口部の配置だ。開口部をあえて区画を仕切る壁の中央ではなく脇に寄せることで、効率的なラックレイアウトとフォークリフトの動線の単純化が可能になり、荷物を収納したり取り出したりする作業時の移動距離を短縮できオペレーションの効率化を図れるようにしたのだ。ESRは、物流施設における標準型である、開口部を中央に置くスタイルが、保管型施設において作業動線の最適化を阻んでいることに着目。加須DC2では、工事コストが多少上がってもテナント企業のニーズを優先して、開口部の位置を判断してから社内の建築チームに構造を決めてもらうようにした。こうした開口部の「脇寄せ」こそが、「ラックからバースまでの最短の移動距離を追求し、テナントニーズに応えた最適解」(佐々木さん)なのだ。

▲「ESR茅ヶ崎」で導入している、間口11メートルの柱ピッチを確保したフロア。構内での保管業務に高い効率化をもたらす

ESRがここまで保管効率を高めることに執着する狙いはか。それは加須市という立地に起因する。「加須市など埼玉県北東部の東北道沿線エリアは、東京都心をはじめとする大消費地の後背地として、メーカーの生産拠点が多く立地しています。つまり、商品配送に備えた保管拠点のニーズが非常に高いのです」(佐々木さん)。加須市が物流拠点のホットスポットである所以もここにあるのだ。

事務所スペース配置を工夫し安全確保と快適さ実現へ

もう一つの強みである「従業員の安全な就労環境の提供」とは何か。加須DC2では、車両と従業員の動線を分離することで相互の安全性を担保する設計に注力。ESRが掲げる、施設開発における基本理念「HUMAN CENTRIC DESIGN.」(ヒューマン・セントリック・デザイン、人を中心に考えたデザイン)を踏襲し、従業員が安全で少しでも快適に就労できる環境を整える。

そのための取り組みとして、各階で複数のテナント企業が使用することを想定した区画割をするうえで、「事務所・荷受け室・共用部」を建物の左右両隅と中央の壁際の3か所に分散して配置。休憩室も4階に同様に3か所設置することで、トラックなどが往来する車路を通ることなく安全に業務エリアから近い場所で休憩できるようにした。「できる限り業務スペースの移動を減らすことで、フォークリフトや搬送ロボットなどとの接触を避けることができます。さらに、限られた休憩時間の有効活用にもつながります」(佐々木さん)

▲「ESR茅ヶ崎」に設置している、海をモチーフとした壁画。まさに「HUMAN CENTRIC DESIGN.」の発想を具現化したもので、「ESR加須2」でも同様の取り組みを計画中だ

マイカー通勤を考慮した265台の豊富な駐車場スペースを確保するなど、通勤利便性もサポートし働きやすい職場作りを意識した仕様としているのも、加須DC2の特徴だ。そのテナントとワーカーファーストの発想を建物設計に具体的に落とし込むことで、他物件との差別化を明確にして荷主企業や物流事業者に訴求していく戦略だ。

物流センターの建設ラッシュが続くなかで、開発業者はさまざまな観点で差別化を打ち出している。ESRが加須DC2で具現化しようとしている、テナント企業や従業員が「より働きやすい」環境づくりを目指す姿勢は、今後の物流施設開発をめぐる競争で存在感を示す方策の一つとして、定着しそうだ。

「ESR 加須ディストリビューションセンター2」の概要
所在地:埼⽟県加須市下樋遣川6000-1
敷地⾯積:4万9587平方メートル
延床⾯積:10万5316平方メートル
構造:耐震構造、4階建て
着⼯:2022年3⽉1⽇(予定)
完成:2023年5⽉31⽇(予定)
⽤途地域:市街化調整区域
交通:東北⾃動⾞道「加須IC」6.2キロ、東武鉄道伊勢崎線「加須駅」5.6キロ、加須市コミュニティバス「本樋遣」徒歩10分(850メートル)、東京都⼼まで65キロ、東京国際空港へ83キロ/東京港へ76キロ
総投資額:210億円

■物流施設特集 ‐東京近郊(内陸)編‐