ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

先進性と柔軟性を織り交ぜた独自の物流DX化に動き出したサントリーロジスティクス

サントリーの物流DXを発信、浦和美園配送センター

2022年1月20日 (木)

▲ペットボトル商品の箱を載せたパレットは、AGFでスムーズにコンベヤーへ運ばれる

話題ペットボトルの飲料商品の収められた段ボール箱が、パレットの上に整然と積まれている。トラックから下ろされたパレット積みの製品は、スムーズにコンベヤーに載せられる。WMS(倉庫管理システム)と連動したセンサーで名称や内容量など商品情報を照合したのち、コンベヤーで備蓄スペースへ移動。待ち構えたAGF(自動運転フォークリフト)が、パレットをこれまた寸分違わぬ精度で所定のスペースに積み上げていく。パレット同士の間隔はわずか10センチ。このフロアでは、4台のAGFがスムーズな動きで大量の商品の備蓄業務に当たっている――。

サントリーグループの物流事業を担うサントリーロジスティクス(大阪市北区)が2021年11月に稼働した物流拠点「浦和美園配送センター」(さいたま市緑区)。首都圏のうち埼玉県南東部と千葉県北西部をメインの配送エリアとする拠点として機能している。しかしこのセンターには、こうした商品の輸配送や備蓄業務のほかに、ある重要なミッションが与えられているのだ。

サンロジ版DXの舞台となった浦和美園配送センター

▲サントリーロジスティクス浦和美園配送センターの外観。埼玉スタジアム2002(左上)が隣接する

さいたま市東部の浦和美園地区。「埼玉スタジアム2002」を間近に臨む新規開発エリアにそびえる、大和ハウス工業が21年11月に稼働した大型マルチテナント型物流施設「DPL浦和美園」の3階から5階を賃借してサントリーロジスティクスが開設したのが、浦和美園配送センターだ。各階約4000坪(総面積約1万2000坪)の床面積を持つ、サントリーグループの物流拠点では最大級の規模を誇るセンターだ。

「ここでは、サントリーロジスティクスが独自に開発した『サンロジ版物流DX』を初めて導入し、さまざまな実証に取り組んでいます」。このセンターを管轄するサントリーロジスティクス東部支社の田村智明支社長は、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)化プロジェクトについて明かしてくれた。それは、浦和美園配送センターの稼働とも深い関係があるというのだ。

▲「サンロジ版物流DX」について語るサントリーロジスティクス東部支社長の田村智明さん

あくまで現場特性から決まったAGF採用

物流業界における構造的な課題である人手不足。倉庫内での業務従事者だけでなく、ドライバーの確保も容易ではないのが実情だ。国内有数の飲料・酒類メーカーであるサントリーグループでさえ、決して例外ではないという。

19年秋。サントリーロジスティクスの本社では、配送センターなど物流拠点におけるDX化(自動化)のプロジェクトが発足。業務の具体的な自動化に向けた方策について議論が続いた。「自動化と言っても、さまざまな方法があるだろう。自動ラックか、AGV(無人搬送車)か、あるいはAGFか」「ここは、サントリーグループの物流拠点ならではの事情に合わせたシステムの導入が不可欠だ」


▲サントリーロジスティクスで最大級の配送センター。広々とした構内に圧倒される

議論の焦点となったのは、サントリーグループの扱う商品の特性と、その取り扱い方法だった。まずは、飲料商品が非常に「重い」こと。ペットボトル飲料を詰めた段ボールを立体的に積み上げて、パレットで保管し運搬する。そのパレットをさらに2段に積み上げるのだ。床にかかる荷重がどれだけのものか、想像に難くない。

さらに、商品を運ぶ資材がパレットであることも、自動化の手段を選ぶ上で重要なポイントであった。自動ラックを採用するとなれば、商品の輸送や保管の方法そのものを抜本的に見直さなければならず、膨大なリソースを要する作業になってしまう。

「こうした検討の結果、サントリーグループとして採用したのが、AGFだったのです」(田村さん)。フォークリフトであれば、パレットとの親和性は非常に高い。懸念だった商品の重量についても、パレットを介して持ち上げる方が、AGVで下から支え上げるよりも現実的であるとの判断だった。

こだわった「他システムとの連携」

サントリーロジスティクスがこだわったのは、AGF導入に伴う他のシステムとの連携だった。AGFとコンベヤーの動作、さらにWMSと連携することで、商品の入庫や出荷が正確にセンター内で共有されるだけでなく、それぞれの装置が過不足なくスムーズに稼働するため、それぞれの工程で待機時間が発生することなく、一連のプロセスを円滑に進めることができるというわけだ。まさに自動化の究極の姿を志向しているのが、サンロジ版物流DXというわけだ。

▲自動化の「究極の姿」を志向するサンロジ版物流DX

「AGFとコンベヤーを組み合わせたシステムでは、AGF専用のエリアを設けて作業員などとの接触を回避することで、安全な職場環境を確保しながら最適な作業効率を発揮できるようにしました」(田村さん)。AGFエリアにおいては有人の作業を想定した場合と比較し、工数を3割削減できる見込みという。

同時にサントリーロジスティクスが検討を進めたのが、商品の運搬・保管以外の業務におけるDX化だ。無人受付システムやバース予約システムを導入することで、従来の技術を導入した場合と比べて工数を15%削減できると想定している。

DX化と結びついた「拠点網再編」

田村さんの解説で、サンロジ版物流DXの世界観をつかむことができた。ところで、その取り組みが、浦和美園配送センター開設と結びつく理由は何なのか。ここには、サントリーロジスティクスの配送拠点網の再構築と物流DX化の「軌を一にした」構想があった。

物流DX化プロジェクトとちょうど同じタイミングで、別のプロジェクトが進行していた。「埼玉新ネットワーク構想」。つまり、埼玉県南東部と千葉県北西部の配送エリアを対象とした配送網の見直し作戦だ。このプロジェクトの課題も人材確保への対応であり、これと省人省力化を目的としたDX化プロジェクトがつながった。

「埼玉県南東部と千葉県北西部を含めたエリアは、三郷事業所(埼玉県三郷市)と草加事業所(埼玉県草加市)の2拠点体制を敷いていました。しかし、三郷事業所は約4500坪(約1万4850平方メートル)の床面積では足りず、外部倉庫を活用せざるを得ない状態だったのです」(田村さん)。外部倉庫のかかる二次輸送も発生するなど、東京都内に近郊を含めた大消費地への商品配送拠点として、将来的なキャパシティに不安を抱えていたサントリーロジスティクスは、新拠点の開設を決定。同時に、商品を納入する顧客の集積地により近い浦和美園地区でまとまった規模の物流施設が供給される情報を得て、進出に踏み切ったというわけだ。

「三郷や草加は、エリアの中心地から少し離れた場所に立地していました。輸送コストの効率化の観点からも浦和美園はベストと言える場所だったのですが、懸念は従業員の確保でした」。田村さんは、未だ開発の途上にある浦和美園地区で、飲料メーカーでも屈指の規模となる巨大な配送センターの業務を賄えるだけの従業員を確保するのはハードルが高いと考えた。

「そこで着目したのが、同時にプロジェクトが進んでいた『DX化』だったわけです」(田村さん)。物流DX化プロジェクト側も、モデルケースとしての最初の導入拠点を模索していたことから、サントリーロジスティクスで最大級となる新規センターの稼働が、AGFをはじめとする自動化機器を他のシステムと連動させて実証する好機になると判断。いわばサントリーグループの物流にかかる二つの課題を解決に導く構想を具現化する拠点として、浦和美園配送センターに白羽の矢が立った。

先進的かつ柔軟な運用が特徴のサンロジ版DX

サントリーグループにおける「物流改革」の象徴となった浦和美園配送センター。東京という大消費地の後背地として、東京近郊内陸エリアは物流拠点として重要な役割を果たすエリアだ。それだけに、物流における諸課題への迅速な対応を迫られ、その過程で先進的な取り組みが全国に先駆けて導入されるエリアでもある。サントリーロジスティクスはその象徴だ。

一方で、消費動向に敏感かつ柔軟に対応できる能力も、こうした立地の物流拠点には不可欠だ。それゆえに、サントリーロジスティクスは、浦和美園配送センターの自動化システムについても、あえて柔軟な運用を行っている。

その例が、AGFの誘導方式だ。コンベヤーから降ろしたパレットを備蓄する工程におけるAGFの誘導について、床面埋め込み式と磁気テープ式で使い分けているのが分かる。「メインの本線部分はAGFに踏まれてはがれないように埋め込み式としています。一方で、備蓄スペースまでの分岐した区間については、環境変化に応じてロケーション変更を柔軟に対応できるようテープ式としています」(田村さん)

▲床下に埋め込まれた導線によりコンベヤーに向けて旋回するAGF

扱う商品に応じて備蓄方法も異なることを想定して、あえて”アナログ”な発想で対応する。これもサンロジ版物流DXの強みなのだ。

首都圏近郊エリアで先進的かつ柔軟な独自のDX化に取り組むサントリーロジスティクス

サントリーロジスティクスは、浦和美園配送センター以外にも、サンロジ版物流DXを水平展開していく考えだ。そのポイントは、その拠点の機能や特性などに応じた最適な自動化システムを導入することだ。浦和美園センターで導入したシステムの一部機能だけを採用するケースもあれば、さらに新たなシステムを開発することもあるというわけだ。

新型コロナウイルス感染症の収束を見据えた「新しい生活様式」の時代、物流ニーズはさらに多様化・高度化が進むとみられる。一方で、消費趣向の急速な変化も、これまでにないスピードで展開するのは間違いない。こうした動向が最も敏感に現れるのが、国内最大の消費地を抱える東京近郊内陸エリアだ。サントリーロジスティクスの先進的かつ柔軟な独自のDX化の取り組みは、このエリアを注視する物流事業者に対し刮目されるであろう。

■物流施設特集 ‐東京近郊(内陸)編‐