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「新規開発活発」な常磐、「川口×加須・上尾」の東北、「板橋×埼玉丘陵地」の関越

常磐・東北・関越道沿い物流施設関心度ランキング

2021年12月26日 (日)

話題LOGISTICS TODAY編集部は、12月17日から20日にかけて物流企業や荷主企業を中心とする読者に対して、「東京近郊内陸エリア」における物流施設に関する実態ニーズ調査(有効回答数624件、回答率19.7%)を実施した。ことし5月に公開した「東京ベイエリア」に続くシリーズ第2弾となる今回は、埼玉県と周辺地域の大規模物流施設に焦点を当てた。

ここでは、東京近郊内陸エリアを縦貫する常磐・東北・関越の各自動車道の沿線にある物流施設の関心度について、それぞれランキングでまとめた。インターチェンジとの距離や施設の持つ機能性が重要な判断基準になっていることが分かった。(編集部特別取材班)

前回は、東京近郊内陸エリアに立地する物流施設について、求める規模や機能、許容できる賃料水準にかかる回答結果を分析。大都市圏への高いアクセス性や商品保管機能の高さを求める一方で、労働力確保や賃料水準の高騰への懸念がある実情が浮かんだ。

東京近郊内陸エリアへの物流施設の進出を支えている最大の要因は、高速道路網の拡充だ。縦貫する3路線に加えて、横断する首都圏中央連絡自動車道(圏央道)など環状路線の新規・延伸開業により、湾岸部と比べて交通アクセスで弱さのあった内陸エリアが新たに物流適地となった。物流施設の開発業者にとっても、湾岸エリアにおける新規用地の取得が困難になるなかで、まさに「渡りに船」の状況が生まれたことになる。

前回の記事:キーワードは「高速至近」「取引先近接」「手頃な賃料」

こうした思惑を踏まえて、東京近郊内陸エリアでは具体的にどの物流施設に関心が集まっているのだろうか。今回の調査では、東京近郊内陸エリアを縦貫する高速道路沿線の主要な物流施設を抽出。それぞれ関心のある施設を聞き取りランキングを作成した。

常磐道エリアは三郷・流山で開発が急加速

まずは常磐道沿線から見てみる。埼玉県東部や千葉県北西部における物流施設が主な対象となる。常磐道だけでなく外環道や国道16号沿線にも物流施設の開発が進んでおり、首都圏でも新規物件が比較的多いのが特徴。成田国際空港や鹿島港など交通の要衝に近いのも魅力だ。

関心度が最も高かったのは、「GLP三郷III」(埼玉県三郷市)で、21.5%の回答を集めた。2013年5月に完成した、延床面積9万4719平方メートルの物流施設。日本GLPでは比較的初期の開発案件にカテゴリーされる。三郷インターチェンジ(IC)から2分という利便性もさることながら、国内の物流施設では初となる「LEED ゴールド」の予備認証を取得したことで知られる。

LEED認証は、米国グリーンビルディング協会が普及・推進を図る建物環境認証制度で、世界で最も普及している評価システムの一つだ。免震構造とプレキャストコンクリートを採用し、建物の長寿命化を意識した構造とした。通常倉庫の耐用年数は50年のところを、GLP三郷IIIは100年と設定している。ライフサイクルCO2を12%削減するとともに、環境面での貢献だけでなく、顧客にとってもオペレーションコストの低減やBCP(事業継続計画)で見込む自然災害リスクの軽減を図る仕様としている。環境負荷低減の意識がまだ途上だった物流業界では、時代を先取りした物流施設の代表格といえるだろう。

次に高い関心を集めたのが、日本GLPの手による「GLP ALFALINK(アルファリンク)流山4」(19.6%、千葉県流山市)だ。この物件は、同社の物流施設のなかでも、特にアルファリンクのブランドを冠した物流施設シリーズとして認知されている。現在は流山でGLPアルファリンク1から8までの計8棟の開発が段階的に進んでおり、すべてが完成すれば総延べ床面積は90万平方メートルを超える国内最大規模の物流施設群となる。

今回の関心度ランキングでは、2位につけた—流山4(7万7377平方メートル、23年6月完成予定)のほか、—流山6(6万8000平方メートル、23年1月完成予定)が19.2%で3位、—流山7(12万3597平方メートル、23年中完成予定)が18.8%で5位、—流山5(17万5000平方メートル、23年1月完成予定)が17.0%で8位、—流山8(15万5093平方メートル、21年8月完成)が16.7%で9位と、同シリーズがこのエリアの上位10位以内に5物件も入る関心の高さとなった。

特徴は、ロボティクスなど最先端のデジタル機器・設備を備えた多機能型の物流スペースであることで、流山のほか、相模原市や大阪府茨木市でも進行中の計画がある。

4位は「DPL三郷III」(18.9%、三郷市)。物流施設の開発で急速に存在感を高めている大和ハウス工業が22年5月に完成させる延床面積8万5594平方メートルのマルチテナント型物流施設。こちらも物流施設の進出が加速する三郷エリアの新物件だ。大和ハウス工業の当地におけるプロジェクトの第3弾で、インターチェンジ(IC)への良好なアクセスによる東京都新をはじめとする首都圏各地、さらには東北や信越など広域アクセスへの適応性も高く、荷主企業の注目も高かった。

ちなみに、大和ハウスの三郷プロジェクト案件については、「DPL三郷」(12.0%、同市、13年7月完成、4万9439平方メートル)「DPL三郷II」(14.6%、同市、21年10月完成、6万7058平方メートル)についても高い関心を集めており、業界におけるインパクトの高さがうかがえる。

そのほかには、東急不動産の「LOGI’Q(ロジック)柏」(18.4%、千葉県柏市、23年秋頃完成予定、3万3947平方メートル)や住友商事の「SOSiLA(ソシラ)柏」(17.9%、同市、23年5月予定、8万1361平方メートル)などが名を連ねた。いずれも物流施設の開発を積極的に加速しているデベロッパーであり、常磐道沿線エリアにおける輸送・保管ニーズの伸長を見据えた動きと言えるだろう。

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東北道方面は産業都市の川口に対して加須・上尾エリアが急伸

続いて、東北道沿線だ。東京近郊内陸エリアを縦貫する高速道路では最も早く開業し、産業集積も一定水準で進んだ。近年は、埼玉県北東部の加須市や久喜市などでの急速な物流施設開発が話題を集めている。地元自治体の積極的な誘致も奏功したとみられるが、圏央道や国道のバイパス道路整備も呼び水となっているようだ。

関心度20.2%でトップを獲得したのは、「Landport(ランドポート)川口」(埼玉県川口市)。野村不動産が19年6月に完成させた、延床面積1万9769平方メートルの施設だ。東北道に直結する首都高速川口線の出入口に1キロ圏内で、東京都心への配送拠点として優位性が極めて高い立地。従業員確保の面でも優位性が非常に高い。完成前に全フロアで契約が完了したのも、それを証明している。

機能面でも、こうした立地を意識した仕様としている。多頻度配送に対応するため、大型車20台を同時に接車できる両面バースを採用。効率的なトラック運用を実現するとともに、6.5メートルの梁下有効高を確保した高い保管効率を備えているのが特徴だ。まさに立地に応じた設備にこだわったところに、関心度の高さの理由があるようだ。

同じ川口市内では、三井不動産が19年10月に建築工事を完了した「MFLP川口I」(4万9838平方メートル)が2番目に高い18.6%の支持を集めた。柱スパンを10.3メートル×10.8メートルと業界標準の10メートルよりも広げることで、フォークリフトによる構内搬送をしやすくした。川口市内の首都高速川口線沿いは、いわゆる産業立地が早い段階で進んだエリアであるが、最近になって物流施設の開発地として再認識されている感がある。

東北道沿線で高い関心を集めた施設としては、プロロジスが茨城県古河市の工業団地で展開するプロジェクトの一環であるマルチテナント型物流施設「プロロジスパーク古河4」(13.0%、12万1100平方メートル)が注目だ。21年12月に着工し、23年3月末に完成する予定。圏央道のICから近く、プロロジスは「関東のど真ん中」からの首都圏各地への移動のしやすさを旗印に掲げる。

安全な保管場所の需要が急増している化粧品やアルコール類などの保管も可能な小型倉庫を敷地内に併設。工業専用地域の特性を活かし、さまざまな業種・用途の物流需要に対応できる柔軟性が強みだ。

ほかには、日本GLPがJR上尾駅から徒歩圏内のタイヤメーカー配送センター跡地で24年に完成予定の「GLP上尾」(12.3%、埼玉県上尾市、10万5000平方メートル)や野村不動産が同じく上尾市の国道17号バイパス上尾道路沿いで開発している「Landport上尾I」(14.4%、同市、21年11月完成、5万7049平方メートル)と「Landport上尾II」(13.8%、同市、22年5月完成予定、7万5750平方メートル)などが人気。上尾市は首都高速道路から延伸する自動車専用道路の出入口が計画されるなど、近い将来の交通インフラの改善が見込めることから、今後物流施設の集積が進む可能性もあるエリアだ。

さらに、徐々に物流施設が集積しつつある加須市の開発計画も、「ESR加須ディストリビューションセンター2」(11.7%、加須市、12万1419平方メートル)を筆頭に、上位20位以内に3物件がランクインした。

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関越道沿いの主役は「板橋」と「丘陵地」

最後に、関越道沿線の関心度を分析する。東京都の荒川沿いから埼玉県西部にかけてのエリアは、東京都心の後背地として、各種産業の製造拠点を中心に発展してきた。しかし、関越道沿いは本格的な物流施設の集積はほとんど見られなかった。関越道を除いて主要道路が国道16号くらいしか整備されていなかったためだ。しかし、外環道や圏央道の整備が進んだことで、首都圏内の交通アクセスが格段に改善。近年は住宅地の開発とともに物流施設の進出も目立ってきている。比較的新しい物件が多いのが特徴だ。

このエリアで関心度が最も高かったのは、日本自動車ターミナルが全体再開発の一環として物流施設を計画している板橋トラックターミナル(東京都板橋区)だ。関心度は21.5%、5万平方メートルの敷地に最大で15万平方メートルの延床面積を誇る物流施設を整備する計画を策定する予定で、早くも注目が集まっている。日本自動車ターミナルは、京浜トラックターミナル(東京都大田区)内の「JMT京浜ダイナベース」(18年7月完成、9万6695平方メートル)で物流施設開発の実績があることも、後押ししているようだ。

同じ板橋区では、野村不動産「Landport板橋」(2008年1月完成、5万3561平方メートル)と三井物産都市開発「LOGIBASE板橋」(2018年11月完成、9368平方メートル)もそれぞれ19.4%、18.1%と高い関心度を示した。板橋区の物流施設は、西部の高島平地区と東部の浮間舟渡地区に大別できる。首都高速道路の出入口に近い高島平地区とともに、東京23区でも比較的広めの用地を確保しやすい浮間舟渡地区における物流施設開発の注目度が高まっている。内陸部で残された物流施設の新規開発スポットとして目が離せない。

関越道沿いでは、ESR「ESR戸田ディストリビューションセンター」(16.5%、埼玉県戸田市、20年9月完成、8万6950平方メートル)▽東急不動産「LOGI’Q狭山日高」(16.3%、埼玉県日高市、22年2月完成予定、11万3967平方メートル)▽日鉄興和不動産「LOGIFRONT(ロジフロント)狭山」(14.9%、埼玉県狭山市、22年12月完成予定、7万8126平方メートル)――などが上位にランクイン。日高市や狭山市など丘陵地は、BCP(事業継続計画)の観点から地盤の強固なエリアとして注目を集めた。このエリアもまた、圏央道の開通による恩恵を大きく受けており、物流施設の進出を促す動機になっている。

戸田市は、板橋区と荒川の対岸に位置し、高島平地区と同様に首都高速道路の沿線で産業立地が進んだ経緯がある。東京都心へのアクセスは抜群であり、物流施設用地を確保するための余剰地も存在することから、今後も開発が進む可能性は十分にある。

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物流施設の戦力地図は「激変」の予感

ここまで、常磐・東北・関越の各自動車道沿線エリアにおける物流施設の関心度をランキングで振り返った。前回の特集記事でも触れたが、内陸部であるがゆえに高速道路のICや出入口に近接した立地への訴求が強く、さらには広大な面積へのニーズも高い傾向が見て取れる。内陸エリアに物流拠点を設ける理由として、取引先企業の製造・物流拠点との連携を図る狙いだけではなく、余裕のある敷地の確保を求める動きがあること、多様なニーズに対応できる柔軟さが求められているといえそうだ。

これまでは、大都市に隣接した場所に物流施設を置く場合は、どうしても湾岸や東京都内、国道16号の内側の限られたエリアを選択せざるを得なかった。しかし、環状の高速道路網の整備により、東京郊外内陸エリアが新たに物流適地となったことで、いわば選択肢が大きく広がったといえる。

高速道路網の整備に伴い、湾岸から内陸へと産業立地が展開する環境下で「新しい生活様式」が本格化する。アフターコロナの物流インフラを支えるのは、間違いなく東京郊外内陸エリアである。敷地獲得や荷主企業の誘致、従業員確保といった課題にいかに対応していくか。今回の調査結果は、こうした物流施設の勢力地図を塗り替えるパラダイムシフトを予感させる。

■物流施設特集 ‐東京近郊(内陸)編‐