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軽乗用車の運送使用解禁迫る、議論開始から半年で

2022年9月20日 (火)

記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は軽乗用車の運送使用を10月に解禁へ、政府方針(8月22日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

ロジスティクス国土交通省が計画している乗用タイプの軽自動車の運送使用解禁が迫ってきた。フードデリバリーなどの需要急拡大を受けた供給側への支援策で、同省は10月末までの解禁に向け、詰めの作業に入っている。本年4月に政府内の議論が本格的にスタートしてから、わずか半年でのスピード感ある規制緩和となりそうだ。

(イメージ)

貨物運送に使える軽自動車を軽トラックや軽バンなど荷物スペースのある商用タイプに限定してきた規制を緩和し、同省の通達によって荷室のない乗用タイプも黒ナンバーを取った上で使えるようにする政策。8月9日から1か月間、パブリックコメント(意見公募)が行われ、同省貨物課によると、現在、寄せられた意見の精査を進めている。解禁のタイミングは10月1日には間に合わず、「10月中のいずれかの時期」になるという。

デリバリー事業者にとっては、比較的安価な乗用タイプで事業拡大ができることから、積雪寒冷地の業者を中心に規制緩和を支持する意見が多いと見られる。一方、これまで乗用タイプを商用タイプに改造し、国に構造変更手続きをするなど費用と苦労をかけてきた既存事業者の中には釈然としない思いもあるようだ。後部にも座席のある乗用タイプで荷物の安全な運送をどう担保していくかや、車検、税金、保険会社の任意保険の扱いなど、なお不透明な要素もあり、国交省が解禁の通達と合わせてどのような説明をするかが注目される。

規制緩和は大手出版社社長の提案が発端

軽乗用車の運送使用の検討は、政府の規制改革推進会議、スタートアップ・イノベーションワーキング・グループ(WG)で本年4月13日に始まった。公開議事録によると、牧島かれん規制改革担当相(当時)も出席したこの回は、ラストワンマイルの配送という物流分野がテーマとなり、軽乗用車への運送解禁は、大手出版社の社長も務める近畿大学特別招聘教授の委員が提案した。軽自動車の貨物タイプと乗用タイプの間には「性能面、安全面でその2つの車に違いはほとんどない。わざわざ後部座席を取る意味もないと思うので、運送事業で使用する車両に軽乗用車も加えていただけないか。お願いです」と提案した。

ヒアリング対象者として招かれていた日本IT団体連盟の関係者(大手IT企業所属)も「(後部座席を外す)構造変更なしで利用できる、軽乗用車のまま物を運べるということになったら、ローカルコマースの市場で重要な(配達の)担い手の一つになる」と賛同した。この場には物流団体の関係者はおらず、EC(電子商取引)など荷主サイドに近い出席者が議論を主導した感がある。

▲国土交通省が入る建物(東京・霞が関)

これに対し、政府側から出席していた国交省の貨物課長は「実際の(解禁)ニーズがあり、規制が有効でないということなら見直していく」と提案を引き取り、WGの座長が「スピード感を持って、実現に向けて検討をお願いする」と取りまとめた。その後、5月27日の推進会議の答申を経て、軽乗用車の運送解禁に「速やかに必要な措置を講ずる」とした規制改革実施計画が6月7日に閣議決定されるに至る。

登録車への「横展開」には慎重

国交省が8月に公表した案では、乗用タイプの軽自動車に積載できる貨物の上限は乗車定員数から乗車人数を引いた数に55キログラムを乗じた重量。後部座席を取り外して荷物スペースを作る構造変更は求めていない。

4月13日のWGで出た意見には、今後の検討課題となった論点も多い。「軽自動車以外の登録車でも乗用タイプの運送使用を解禁するべきではないか」「自家用と貨物用の兼用を可能にしては」「貨物軽自動車運送事業のオンライン登録(ナンバー変更)を可能に」といった意見だ。国交省は登録車の乗用タイプへの解禁には慎重だが、オンライン登録は2025年度をめどとする同省全体のシステム整備に合わせて行うことも検討している。