
記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「日本郵便の貨物運送許可取消へ、国交省方針固める」(6月5日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)
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ロジスティクス全体の75%に相当する全国2391か所の郵便局で点呼が適切に実施されていなかったことが判明したのを受けて、国土交通省は日本郵便の一般貨物自動車運送事業の許可を取り消す方針だ。今回の処分は、日本郵便が保有するトラックやワンボックス車など約2500台が対象となる見通し。主に配達で使用する軽自動車約3万2000台は届出制であるため今回の処分の対象外だが、国交省ではトラックと同様に点呼が義務付けられている軽自動車の監査も本格化する意向を明らかにしている。監査の結果次第では今後、軽自動車についても全国の多くの郵便局で車両使用停止などの厳しい行政処分が下る公算が大きい。
事業許可取り消しは貨物自動車運送事業法に基づく最も重い行政処分だ。取り消し後は5年間許可を再取得できない。つまり今回の処分後、トラックなど約2500台とそのハンドルを握ってきた日本郵便が雇用するドライバーたちは行き場を失うことになる。現時点では「動かせない箱」と化す車両を売却などで処分するのか、それとも5年間塩漬け状態にしておくのか、その後の対応は不透明だが、少なくともドライバーについては、他部門への配置転換や子会社への出向などを進め、雇用を維持していく可能性が濃厚だ。
軽自動車約3万2000台への監査結果は「ゆうパック」サービスの命運を握る。仮に長期の車両停止処分が下されれば、軽貨物車両とドライバーは集配業務から締め出され、配達網に深刻な空洞が生じる。軽貨物車両は宅配便におけるラストワンマイルを担う要であり、その欠損はまさに全国の隅々で配送網に穴をあけることにつながりかねない。日本郵便は子会社である日本郵便輸送や協力会社への業務委託でネットワーク維持を図る方針だが、軽貨物の手配は大手宅配便やEC事業者間で激しい奪い合いとなっており、他社よりも魅力ある取引条件を提示できなければ、新たなパートナーの確保は容易ではないだろう。
行政処分後は、ツギハギだらけの委託網によるサービス提供を余儀なくされるのは必至だ。業務委託先の能力により、サービスレベルに地域間格差が生じるおそれがあり、一律の品質担保に課題を残す。配送リードタイムの延長や再配達率の上昇は避けられないとみられ、荷主の信頼を損ねかねない。既に荷主の中にはヤマト運輸や佐川急便への切り替えを模索する動きが出始めており、年間約5億6000万個に上る「ゆうパック」が一気に他社に流出する可能性も否定できない。
貨物自動車運送事業法の行政処分基準には、「住民生活又は経済活動に著しい支障を及ぼすと認められる場合」には情状酌量の判断を下す余地がある。ユニバーサルサービスとしての全国均一な配送網の維持と荷主・利用者への影響を十分に考慮すべきとの判断から、国交省が軽自動車約3万2000台の処分に温情をかけたら、果たして市場はどのように受け止めるのだろうか。国交省には毅然とした公平な対応を強く求めたい。(編集委員・刈屋大輔)