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物流スタートアップ・ベンチャー特集/第10回

都市型立体ロボ倉庫を発明/Cuebus・大久保社長

2022年11月15日 (火)

話題LOGISTICS TODAYのスタートアップ・ベンチャー企業を応援する企画「物流スタートアップ・ベンチャー特集」。第10回は、Cuebus(キューバス、東京都江東区)の大久保勝広社長です。

まるでジャングルジムのような金属製の格子の中を、荷物を載せたトレーが前後左右、上下に動き回り、必要な荷物を手前まで運んでくる。動力装置には磁力で動くリニアモーターを採用している。同社が「都市型立体ロボット倉庫」と呼ぶ独自のピッキングシステム「CUEBUS」は、大久保社長と若い技術者たちが独自開発した。JR東日本グループと協力して東京駅構内の倉庫で実証実験も行っており、倉庫やさまざまな施設向けに本格販売に乗り出す。

大久保さんは60歳。ソフトウエアエンジニアの出身で、ハードウエアには必ずしも詳しくなかった。なぜ、どのようにして、こんな革新的な発明ができたのだろうか。大久保さんの話を紹介する。

▲都市型立体ロボット倉庫を背に、大久保社長(中央)と若い技術者たち

“ジャングルジム”の中をスムーズに

私たちが開発したこのCUEBUSでは、リニアモーターと無数のセンサーを内蔵したタイル(850×650ミリ)を床に敷き詰め、その上を荷物を載せた四角いトレーが磁力で静かに走行します。コンピューターで出庫指示を出すと、浮上はしませんが、複数のトレーがスムーズに動き出し、指示された荷物を手前に運んで来て指定位置にぴったり止まるのです。「リニア」というと多くの人は新幹線を想像しますが、タイルパズルが近いイメージです。

▲リニアモーターを内蔵したタイル(Cuebus提供)

自動倉庫は省スペースで高速の出し入れができる装置です。外国製の「オートストア」が知られていますが、CUEBUSは原理が大きく異なります。決定的に違うのは、バッテリーがないことです。倉庫火災のリスクを考えてバッテリーを使うのをやめました。多くの倉庫や施設が備えている100ボルト電源で動きます。回転モーターやギアなどの機械部品も使っていないので故障が少ないです。

リニアは素人、危機感が出発点

CUEBUSは2013年に開発したのですが、それまで私自身はリニアについてはまったくの素人でした。もともとはソフトウエア技術者で、その後アパレルに特化した販売在庫管理をクラウドで提供していました。その過程で、EC(電子商取引)がこのまま拡大すると、個々の消費者に商品を届ける「toC」部分の物流が大変なことになると気付いたのです。都市内の物流は、空間効率をもっと向上させないといけません。ピッキングのやり方を根本的に変えないと処理できなくなります。そうした危機感が開発の出発点になりました。

そんな頃に、友人からアメリカの倉庫自動化の話を聞かされました。荷物の方が作業員の手前まで来るというのです。AGV(無人搬送車)がまだ普及していない頃です。驚きました。でも、その時はアメリカの装置をあえて見ませんでした。どうやったらそんな仕組みができるかを、自分の頭で考え抜きました。

意外にも、動いた試作機

ジャングルジムみたいに箱を組み上げ、その中に商品を収納し、指定した物が前に出てくるようにできないか。いろいろなアイデアが湧いてきました。真空にして動かすとか、水の圧力で押し出すとか。やがて、モーターの知識があった仲間が「リニアでいきましょう」と提案してくれたのです。振り返ると、この言葉が大きかったですね。その時の私には、やはり新幹線しか浮かびませんでしたけど(笑)。

リニア技術を持っている中小企業を探して相談し、最初は「そんなもの作れるはずがない、動くはずがない」なんて言われてしまいました。それでも熱意を感じてくれて協力していただき、試作機を作ったところ、意外にも動いたんです。「おっ動いたぞ」。それから開発が加速していきました。15年に東京の代々木で会社を設立し、19年に江東区青海に今の事務所を構えました。

海外で勝つには

海外市場で勝つことを死ぬほど考えています。私自身はソフト作りに自信がありますが、やはりハードを作らないと勝てない。ソフトとハードを合体させて独特のものを作り、メード・イン・ジャパンというブランド力も生かさないと、日本製品は世界で勝てません。

協力してくれた人たちがみな、持っている知識をぶつけてくれたおかげで、ここまで来ることができました。とくに、ベンチャー魂を持った若い人材が来てくれたことがうれしかった。リニアと出会えたのも大きかったです。みんな「ワクワクする」と言ってくれます。そういう気持ちがないと、これだけのものは作れないですね。
(編集部・東直人)

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