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物流施設のパイオニアならではの「入居者とともに生み出す最適な物流サービス」

TRC、物流拠点のあるべき姿を具現化する「新A棟」

2022年12月21日 (水)

話題ここに、1枚の写真がある。直線的で端正なたたずまいを示す6階建ての巨大な姿。その前には懐かしいモデルのトラックが見える--。国内における都心型物流施設の”パイオニア”として存在感を示してきた「東京流通センター(TRC)『物流ビルA棟』」は2023年8月末、全く新しい姿に生まれ変わる。

「物流ビル新A棟」。建築工事はまさに佳境を迎えており、先立って17年6月にリニューアルオープンを果たした東隣の「物流ビル新B棟」とともに、東京都心の物流網をリードする役割が期待されている。

▲現在建設中の「物流ビル新A棟」。2023年8月末の完成に向けて工事が着々と進む

物流ビル新A棟は、社会における「物流」という機能にどんな変革をもたらそうとしているのか。さらにその将来像とは。その実像に迫るべく、東京都大田区平和島のTRCを訪ねた。

激変する物流ビジネス環境が迫った「A棟リニューアル」

1967年に発足したTRCは、翌年に平和島一帯の土地を取得。1971年の物流ビルA棟の稼働を契機として、物流施設運営を展開していく。平和島に計4棟の物流ビルを構えて、主にアパレルや食品といった生活必需品を扱う首都東京における物流の一大拠点として君臨。その後2016年に三菱地所グループに加わり、大都市圏を中心に全国へ広がる物流拠点のモデルともなった。

▲A棟再開発室長の依田渉氏

それから半世紀。国内における物流を取り巻く環境の激変は、一世を風靡(ふうび)した物流ビルA棟にも変革を迫る。それは施設の老朽化だけではなかった。

「開業当時は4トン積みトラックが物流における輸配送の主流でしたが、今や物流工程の川上においては10トン以上の大型車利用が一般的となっています。天井高も4メートル前後と、もはや保管効率の確保が難しくなっていたのです」。TRCの依田渉・A棟再開発室長は、A棟における競争優位性の低下が今回の新A棟プロジェクトの背景にあると指摘する。

物流業界における事業環境の変化は、近年急速に進んでいる。商品流通の個人商店から量販店への転換、インターネットの普及に伴う店舗からEC(電子商取引)への購買スタイルの移行、宅配対象商品のラインアップの充実--。この半世紀で全国を駆け巡る荷物の量や種類が変化し、荷主や消費者の物流に対するニーズも様変わりした。こうした時代のうねりのなかで、東京都心における物流拠点の象徴だったA棟は、新A棟へと進化を遂げることになる。

都心ならではのラストワンマイル配送を意識した「最小145坪の衝撃」

こうして誕生する新A棟。依田氏は、新A棟における基軸となるコンセプトを設定するうえで、A棟の競争力の源泉となってきたノウハウを受け継ぐ姿勢を忘れてはいけないと考えている。

そのノウハウとは何か。「東京都心に至近である立地特性が、いわゆる『ラストワンマイル配送』に最適なのは言うまでもありません。それならば、ここ平和島でこうした配送拠点の構築を促すサービスをいかに展開するか。それを意識した商品企画のノウハウこそが、TRCの強みであり、それは新A棟でも変わらない要素であると考えています」(依田氏)

TRCがA棟の運営とともに培ってきたノウハウである商品企画力。それを象徴するのが、新A棟における営業面での最大の特徴と言える「区画面積のラインアップの多様さ」だ。

最小480.09平方メートル(145坪)、最大でワンフロア2万5479.49平方メートル(7707坪)--。TRCが示した新A棟のフロアプランは、業界に衝撃を与えた。標準面積は1440.27平方メートル(435坪)と、小区画を提供する物件の多い都心部と言えども、新A棟のフロアプランにおける区画のコンパクトさは際立っている。

▲営業部長の小山倫之介氏

とはいえ、TRCは荷主企業などの要望を反映して、A棟でも260坪から350坪をベースに区画を貸し出していた。「ラストワンマイル配送の拠点として貸し出すには、『多品種小ロット』『時間指定』の荷物の取り扱いに適した機能が欠かせません。まさに都心部カスタマー対応としてTRCが積み上げてきたノウハウなのです」。TRCの小山倫之介・営業部長は、このコンパクトさがA棟から新A棟へ受け継ぐ遺伝子の最たるものであると強調する。

もちろん、羽田空港や東京港を発着する貨物を取り扱う荷主への訴求も重点テーマだ。最上階(6階)のワンフロア7700坪超の大型区画も、多様化が進む物流ニーズへの対応策として見逃せないポイントであろう。

設備面での細かい配慮、それがTRCの「提案力」

区画内での業務効率を高める施策も見逃せない。国内の物流施設でも珍しい取り組みとして注目なのが、豊富な電源容量や給排水・給排気対応だ。「マテリアルハンドリング(マテハン)機器をはじめとする物流関連設備を導入しやすくすることで、荷扱い業務の効率化・最適化を促す狙いです」(小山氏)

▲17年6月にリニューアルオープンした「物流ビル新B棟」外観

テナントによる冷凍・冷蔵設備造作を想定し、1階のプラットフォームの高さを800ミリとするなど、入居者の機能面でのニーズにも対応できる備えも用意しているという。

こうした設備面での充実を図る狙いについて、依田氏はこう語る。「多種多様なお客様に入居していただくためには、その要望を実現する『提案力』が必要です。それが入居者の抱える課題を解決に導く原動力になるからです」

TRCのこうした提案力を象徴するのが、平和島の敷地内に設けている「TRC LODGE(ロッジ)」だ。物流サービスの向上を支援する技術を集積。家主であるTRCと入居者であるテナント企業が共同で物流における課題を解決するコワーキングショールームだ。

新A棟の提示する強み、それは「安全・安心」「就業環境」「BCP」

TRCは、こうした多様な区画ラインアップを新A棟で展開することにより、A棟で成功したノウハウを生かして東京都心における物流サービスで圧倒的な差別化を図る戦略だ。それは施設の機能面にとどまらない。新A棟では、さらにきめ細かな取り組みで入居事業者の物流業務を強力に支援する機能を整える。そのモットーは安全で安心な職場環境の創出だ。

「新A棟では、歩行者と車両の動線を完全に分離します」(小山氏)。いわゆる「歩車分離」の構造を採用する物流施設は近年増えてきているものの、”完全”な分離となると意外に難しいのが実情だ。フロアごとにまとまった広さが必要であるうえに、ランプウェイだけでなく倉庫や事務所の配置における制約も大きいためだ。

▲TRCは、運送会社や荷主企業などを対象に新A棟で活用できる各種サービスを紹介する機会を積極的に設けている(出所:TRC)

すでに新B棟で実現している完全な歩車分離。新A棟でも、歩廊から事務所を経て倉庫に入れる独自のレイアウトを実現するなど、就業環境のさらなる向上につなげる。郵便局やコンビニエンスストア、診療所、歯科医院、リフレッシュスペースなど、従業員の職場での”生活”を支える福利厚生施設も、構内全体でさらに充実させる。物流施設にこうした「街」の機能を付加する取り組みも、A棟での先駆的な試みを受け継いだものであり、入居テナント事業者の雇用確保に貢献するものだ。こうした従業員の働きやすい就労空間の創出に注力するTRCの施設運営ノウハウは、まさにA棟の遺伝子だ。さらにTRCが新A棟の運営にあたって重視するのが、BCP(事業継続計画)にかかる取り組みだ。

11年の東日本大震災を契機として、物流施設における機能を確保するためのBCP策定が業界でも重視されるようになっている。巨大地震や大型台風、豪雨などの災害による物流機能への影響を最小限にするための取り組みが、沿岸部の物流施設で進んできている。

「一般的に1階へ設置されることが多い受変電設備を、新A棟では2階に置くこととしました」(小山氏)。平和島の海抜は、実は羽田空港や東京都心のビル街よりも高い。とはいえ、想定を超える災害にも対応できる備えを施すのは、サプライチェーンの主軸を担う物流施設にとって今や欠かせない取り組みだ。こうした取り組みは、施設の機能を確保して災害時でも「物流を止めない」使命感から生まれる発想だ。それもA棟を半世紀にわたって支えた精神なのだ。

物流施設の「あるべき姿」の具現化、それが新A棟の使命だ

ハードとソフトの両面で物流施設の「あるべき姿」を具現化する舞台にしたい--。そんな心意気さえ感じてしまう、TRCの新A棟プロジェクト。A棟の強みとする遺伝子を受け継ぐ一方で、新たなスローガンを掲げる。それは「ともに作っていく新しい物流施設」だ。

TRCは企業理念である「『人×街×物流』新たな価値 創造の場」を合言葉に、平和島における物流拠点の再開発を進めている。新B棟から新A棟へ、そして未来へ。働き方改革関連法により物流業界に生じる「物流の2024年問題」への対応策の提示や、東京近郊の内陸部の大型物流施設とのすみ分けを図る最適な物流サービスの提案など、TRCには荷主をはじめとする業界に示せるノウハウがある。その根源にあるのは、全国でも類を見ない絶好の『物流適地』を確保しているからにほかならない。

▲新A棟の機能やサービスを説明するイベント。関心の高さがうかがえる(出所:TRC)

そんな歴史と強みを持つTRCだからこそ提示できる物流サービスとは何か。「新A棟の基幹支店から全国各地へ航空便や船便で荷物を送り出す。つまり全国の物流網のハブ(扇の要)となる。それがTRCの追求すべき使命であると考えています」(小山氏)

国内における物流施設のあるべき姿とは。こうした命題を平和島から半世紀にわたって問い続けてきたTRC。いよいよ23年8月末、その新たな「解」を全国に発信する日がやってくる。その瞬間を、物流に携わる全ての人が期待している。TRCは、社会に欠かせないインフラである物流を支える拠点を担う先駆者として、新A棟という舞台に強い使命を与えようとしている。


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