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物流危機が変える「東北物流施設」の今

2023年10月11日 (水)

話題東北経済産業局の統計によると、東北エリア産業の東日本大震災からの復興は、従業員4人以上の事業所における2020年の製造品出荷額で、震災前の10年と比較して岩手県が18.8%増、宮城県が22.1%増(全国平均4.5%増)に達するなど、すでに震災前の実績を越えるまでになっている。

物流網においても、八戸から、宮古、釜石、気仙沼から仙台をつなぐ被災地沿岸部を南北縦につなぐ三陸沿岸道路、さらには岩手内陸の盛岡エリア、北上・花巻エリアなど内陸部と、太平洋沿岸部を東西に結ぶ4本の復興支援道路も全線開通した。復興道路・復興支援道路、全線550キロメートルが開通したことで、八戸市から仙台市間の移動では、震災前8時間半かかっていたものを3時間以上短縮するなど、インフラの整備により輸送効率ではむしろ震災前以上に利便性を増している。

国土交通省東北地方整備局の22年度の発表では、物流網が整備されたことで、青森から岩手、仙台にかけての復興道路・復興支援道路沿いには、新たな工場が245件立地。さらに、福島県内では復興支援道路沿線の相馬港エリアに新たな工場13件が立ち、工場立地の加速、地域産業支援につながっている。交通量も全路線で増加し、特に大型車の交通量が大きく伸長、岩手県内の大型車交通量は1.3倍から1.7倍に増加している。また、沿岸市街地においての交通緩和にもつながり、気仙沼市内の幹線道路では、混雑区間が44%から2%まで減少したとしている。

賃料相場は10年代後半から強含みで推移しており、宮城県では古くからの配送拠点としてニーズが高い扇町を含む宮城野地区、卸町を含む若林地区から仙台港・多賀城周辺を一等地として、坪単価3000円中盤から後半となっているが、泉IC周辺でも再開発が進み、これに次ぐ価格相場に。さらに3000円前半から中盤台とされる岩沼地区でも今後開発が進む状況である。

また、仙台や盛岡市内などでは、これまでになかった先進型物流施設の供給で、従来の賃料相場もやや上振れとなる設定も増えた。また、北上・花巻市や郡山市などでも、主要道路の結節点であるとともに、首都圏と東北地方以北をつなぐ中継輸送の適地であるという地理的な根拠から需要が増えつつある。物流施設がまだ希少となる地域では、新築物件の坪単価が高まる傾向もあることから、東北の主要エリアで全体的に価格帯の上下幅が大きくなっている。

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もはや、「復興」というキーワードではなく、地域経済の活性化、そして24年問題に対応するために、ロジスティクスにおいての東北エリアをどう構築するかが議論される段階となっている。東北の運送会社に話を聞くと、これまでの施設配置は仙台市内を主なターゲットとした500坪程度の自社倉庫を基盤として、必要に応じて小さな倉庫を追加する運用が多かったという。「倉庫の老朽化に加えて建設資材の高騰など、自社倉庫での運用を見直す機運の高まり、さらに分散と集中の考え方で、賃貸倉庫利用も視野に入れた拠点の再編が進んでいくのでは」と語る。

先進型物流施設の需要高まる、東北の物流要衝・仙台

東北エリア最大の物流拠点といえば、やはり仙台である。24年問題に対応する片道3時間圏内の配送エリアに、北は盛岡、西は日本海沿岸・酒田、南は宇都宮まで、東北における大きな商圏を収めることができる。東北エリアの中心を南北に貫く東北自動車道と三陸沿岸道路が、陸送における2大動脈となっており、仙台貨物ターミナル、仙台塩釜港、仙台空港と合わせて、物流要衝としての地位は揺るぎない。復興事業による道路網や海岸防堤の整備と合わせて産業用地も整理されたことで震災前以上の企業が集積し、物流需要・施設需要も増加している。首都圏・近畿圏に比較するとEC利用率もまだ低いだけに、今後この領域において拡大する余地も大きい。また、半導体不足への反動による需要増加も、繊細な管理に適した先進的物流施設の需要を後押しする。24年問題でのサプライチェーン全体の再編成と合わせて、仙台における大型施設ニーズは、市内の広いエリアでさらに高まる環境だと言える。

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地元の東京エレクトロン宮城などの半導体・精密機械、トヨタ自動車東日本など自動車産業の大手製造業に加えて、増加する新たな物流ニーズへの対応として、デベロッパー側でもこれまでのBTS型での施設供給から、より旺盛な施設需要に対応できるマルチテナント型の開発を20年以降加速させている。利府町のDPL仙台利府が22年、仙台空港至近の岩沼臨空工業地域では岩沼ロジスティクスセンターが23年、既存施設を建て替えたプロロジスパーク岩沼が22年に竣工されるなど、供給も急増し、高い成約率で推移している。

大和ハウス工業ではDPL仙台泉(23年11月竣工予定)、DPL仙台利府II(24年竣工予定)を開発中。プロロジスパーク仙台泉3も23年竣工を予定する。霞ヶ関キャピタルがことし5月に着工したLOGI FLAG DRY&COLD 仙台泉Iは、その名の通りドライ・冷蔵・冷凍の3温度帯に対応した施設。21年に市場参入した物流施設ブランド、アスコット・プライム・ロジスティクス仙台扇町(仮称)も24年夏の竣工を目指して進出する。また、ゼネコン大手・鹿島建設が物流施設市場に参入、泉IC近くに24年10月の竣工を目指して建設着手したというニュースも、現地物流ニーズの高まりを感じさせる。

陸海空の結節点・仙台からの物流危機対応

仙台を物流要衝に押し上げているのは、JR仙台貨物駅ターミナル駅や仙台塩釜港、仙台空港など、陸海空の多様な輸送モードの拠点であることも大きい。モーダルシフトの有効性や、陸路輸送時間の見直しにおいては、東北から、または東北への、海外および日本全国のハブとなり、物流危機や環境問題に直面する今こそ、さらにその活用方法が注目される。

▲仙台港

ことしから、日本通運による仙台空港と台北間の定期輸送便が再開され、地域の半導体など精密機械部品産業の空輸を担っている。これまで、仙台から成田への陸送を経て空輸されていたものを、24年問題の対応で、仙台空港からの直送ルートを設定できたことにより、ドライバーの稼働時間を削減、配送時間においては半日から1日の短縮で効率化を実現している。

海運においても、東北6県では、京浜港への輸出コンテナ陸送貨物比率が42%、京浜港からの輸入コンテナ陸送貨物比率37%となっており(18年度国土交通省資料)、これらの潜在需要を仙台塩釜港を拠点とした海運へと切り替える動きも、物流危機対応と環境対策に効果ある施策として期待される。

▲JR貨物・仙台貨物ターミナル駅

また、鉄道輸送においては仙台貨物ターミナル駅が、機能を強化しての移転を準備していることも大きなトピックである。移転後の新ターミナルでは、列車の着発線上に荷役ホームで直接作業できるように構造を変えた着発荷線荷役方式(E&S方式)が採用され、リードタイムの大幅な短縮とコスト削減を図る。また、駅作業の効率化・省人化や、レールゲートと名付けたマルチテナント型物流施設を建設し、駅へのコンテナ自動搬送などスマート貨物ターミナルをコンセプトにしたオペレーションを目指す。ただ、当初26年を見込んでいた移転計画は、32年完了予定と大きくずれ込む予定となっただけに、引き続き鉄道貨物輸送の啓蒙などを粘り強く続けながら完成を待つ必要がありそうだ。

物流モードの選択肢が増えれば、トラック陸送の減少、トラックドライバーの労働時間短縮にもつながる。仙台起点のサプライ・チェーン構築は、物流危機対応の観点からも注視しなくてはならない。

物流危機が喚起した、北東北の物流ハブ・盛岡市の施設ニーズ

24年問題でのトラックドライバーの働き方においては、片道での配送時間を3時間として、配送可能エリアを設定しなくてはならない。東北における物流要衝である仙台市であるが、この片道配送時間3時間以内という「新しい運び方」で見直してみると、北東北の青森、秋田は配送圏外となってしまう。

24年問題に対応した拠点分散化の必要性が論じられる中で、新しい北東北における拠点となるのが、岩手県盛岡市である。盛岡を中心とした配送網であれば、青森、秋田が3時間圏内に収まり、盛岡市内の商圏を含む北東北のハブ施設の構築が可能となる。「運べない」自体が顕在化する24年において、北東北もこれまで通りのサプライチェーン構築が困難な地域であっただけに、盛岡をハブとする新しい拠点の需要は高まっている。

これまでは、盛岡も仙台同様、物流施設のニーズは高いが、市街化調整区域が多いこともあり、自社運用など小中規模の倉庫を分散しての運営が主流であった。不動産デベロッパーによる施設もこれまではBTS型での供給がほとんどだっただけに、23年11月末竣工予定のマルチテナント型施設、プロロジスパーク盛岡の注目度は高い。また、こうした大型の賃貸型物流拠点のニーズと重要性に関しては行政でも認識しており、市では22年「盛岡南地区物流拠点整備基本計画」を策定して、北東北の拠点化を加速させ、地域経済全体の後押しを目指す。

岩手県南部、北上地区・花巻地区には、トヨタ自動車東日本岩手工場や、デンソー岩手、キオクシア岩手など自動車、半導体などの企業が集積しており、精密機械や電子部品を中心とした貨物需要を背景に、DPLは10年代後半から、同エリアに新規施設を集中させ、24年にはDPL岩手花巻IIも準備している。また、岩手中部(金ケ崎)工業団地でもDPL岩手金ケ崎が開発され、プロロジスも同地区での新たな開発を公表している。

中継拠点となる郡山など、物流の変化が東北施設も変える

福島県の物流拠点は、仙台と首都圏、また、新潟の「中継拠点」としてプレゼンスを高めている。東北自動車道と磐越自動車道が交わる郡山ジャンクション(JCT)の周辺エリアは、近年マルチテナント施設の供給も増加しており、北は宮城・山形から西は新潟、南は埼玉・群馬を片道3時間圏内に収め、さらにその先、都内近郊、中京エリア、北信越などへつながる中継拠点としての機能を果たすことで、これもまた物流危機による拠点分散化の需要に応える。

大和ハウス工業では22年に竣工したDPL郡山IIなど、19年から3棟の施設を郡山と須賀川地区に立て続けに供給し、地域の物流施設開発をリードしている。24年問題に端を発した中継拠点の必要性を、その地の利を生かした地域経済振興へと拡大する動きはますます活性化しており、福島市は物流総合効率化法に基づいた物流施設の立地可能エリアを拡大するなど、行政の後押しによる物流拠点の再編も進められる。物流施設を基盤とした「中継輸送」「共同配送」の具体的な取り組み事例も、今後ますます増えていくと思われる。

これまで、モノが運べなくなる状況が懸念され、その弊害を被るエリアとして認識されていた東北エリアであるが、24年問題を端緒とする物流危機への対応は、東北の物流施設のコンセプト自体も大きく変えてしまっている。東北の物流施設には、地域ごとの配送ニーズにしっかりと対応する使命を担いながら、新しい運び方への対応、分散化と集約化、多様な輸送モードとの接合など、さらなる課題への対応も課され、強靭で持続的な物流網構築への貢献が期待されている。24年問題への回答は決して1つではないため、こうしたエリアの事情に根差した取り組みからも、新しいアイデアが誕生するのかも知れない。