話題「2024年問題の対策」で一括りにされることは、日本パレットレンタル(JPR)にとって本意ではないのかもしれない。
同社のレンタルパレット普及への取り組みは、なにも「2024年問題」に直面することで始まったわけではない。1971年の会社設立以来、標準化や共同化をコンセプトに、「一貫パレチゼーション」の普及を目標に掲げ、業界内外へのパレットの認知向上に取り組んできた。そして今、2024年問題や物流危機の周知をきっかけに、パレットの標準化とパレットの輸送利用をはじめとする一貫パレチゼーションの取り組みが「持続可能な物流構築に欠かせない対策」として再び高い関心を集める。
「私たちは、『2024年問題』を中長期的な問題と捉えています。24年4月1日までに必要な対策を講じることはもちろんですが、労働力不足という根本的な問題を解決していくためには、遠回りのようですが、物流の標準化や共同化を進めていく必要があるのではないでしょうか」と、新井健文執行役員は投げかける。
時代が必要とし始めた、JPRの取り組み
50年以上前に生まれたコンセプトは、未だ普及の途上にあると言えるだろう。物流の標準化・共同化を側面支援するパレットの仕様をめぐっては、1970年に11型(1100ミリ×1100ミリ)がJIS規格で標準パレットと規定されてから50年以上が経過した今日でも、「パレット標準化推進分科会」などで官民による協議が進行中だ。パレットの活用に関しては、業界ごとの慣習や、多様な規格がすでに市場に溢れていることが、標準化・共同化に至る道のりを長くしており、レンタルパレット普及でのハードルとなっている。
「私たちの一貫パレチゼーションへのロングスパンでの取り組みと、その目標は一貫して変わることはありません。物流にパレット利用を促進させるため、標準化とシェアリングをコンセプトに、レンタル方式によってパレット輸送を広めること。物流危機を契機にした国の施策提言などで、長年にわたる取り組みへの追い風は吹いていると言えるでしょう」(新井氏)
政府が主導する「フィジカルインターネット・ロードマップ」では、パレットの標準化と一貫パレチゼーションの徹底をまず取り組むべき最初の準備とし、「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」では、改めて11型の規格標準化と「レンタルパレット」のキーワードが記載された。これらは、まさにJPRが提言してきた施策そのものであり、物流危機で取り組むべきスタートとしては、まずパレットレンタルサービス活用を検討すべしという、国からの後押しを得たにも等しい。まさに、この時代が必要としているサービスと認められたのである。
2024年問題でレンタルパレットが脚光を浴びるわけ
ここで改めて、物流改革における一貫パレチゼーションとレンタルパレットの有用性について再確認しておこう。まずは、なぜ2024年問題においてパレット利用が有効なのか。
物流危機の根本となるのは、法改正によりトラックドライバーの労働時間が短くなること。特にドライバーの荷待待機と荷役時間の削減は喫緊の課題であり、荷役現場の効率化は急務である。JPRが提言する一貫パレチゼーションは、荷役現場の非効率化、重労働化の最大要因となっていた、手積み・手降ろしをパレット荷役に転換し、サプライチェーンの各工程での効率化を促す仕組みである。
(新井氏)「私たちがレンタルパレットを通じて取り組んでいるのは、物流におけるつなぎ目で起きる非効率の解消です。サプライチェーン上には商品の積み下ろしが発生する物流のつなぎ目があります。そこで起きている手荷役をパレット荷役にすることができれば、全体最適化の効果はきわめて大きなものとなります」
同社ではバラ納品からパレット納品に切り替えることで荷役作業時間を4分の1にできると実証している。これまで物流の上流では、このつなぎ目の合理化については下流の現場任せということも多かったが、深刻な労働力不足を前にして、もはやそれでは済まされない。「パレットの輸送利用」という選択を、荷主サイドもしっかりと検討すべき局面となっている。
一貫パレチゼーションと、レンタル活用の同時進行が改革を実現する
では、そのパレット利用において、なぜレンタルが有効なのか。
「一貫パレチゼーションにおいて重要なのは、パレットを循環させる仕組み作りです」(新井氏)。一貫パレチゼーションでは、リレーのバトンのように利用されたパレットを最終着地から効率よく回収し、第一走者にあたる企業に再供給する仕組みの構築が欠かせない。レンタルではなく自社保有パレットでこの仕組みを構築するには、パレットの数量・所在管理と着地での仕分け保管作業に加え、空パレットを回収する仕組みとメンテナンスも自社で行う必要がある。
(新井氏)「『共同回収』を特徴とするJPRのレンタルパレットであれば、発荷主自身が納品後の空パレットを回収する必要もなく、パレット未回収によって発生するコストからも解放されます」
▲(左)着地から空パレットを回収するトラック(右)パレットのメンテナンス作業
同社は、加工食品・日用品の製造業を中心にレンタルパレットを提供する、業界シェアナンバーワンのサプライヤーである。保有パレット数約1100万枚、レンタル枚数約4900万枚(年間)は業界トップの数字であるが、特筆すべきは製造業から卸売業、スーパー、コンビニなどの物流センターに出荷された後のパレットの回収率である。自社所有パレットの運用では年間に3割のパレットが未回収になることもあると言われるなか、JPRの回収率は99%以上を長年維持している。これこそが他のレンタルパレット事業者との決定的な差となる。
(新井氏)「回収拠点の配置ノウハウや、回収のために日々1000台以上を配車し、回収状況を常に管理している専属スタッフがいることが、私たちの強みです。これらも、11型レンタルパレットの市場での保有比率5割以上となる供給量の多さが、回収におけるコストやスピードにも生かされており、スケールメリットによって実現できる効率化と、蓄積したノウハウの多さがJPRのレンタルパレットサービスの特徴です」
物流危機対策としての一貫パレチゼーション。そしてその運用を実現する、標準化されたパレットと運用の仕組み。この2つが揃うことで、国が目指す物流効率化の最初の一歩を踏み出すことができる。「パレットの輸送利用を推進し、拡大することが大切です。これまで保管でしかパレットを使っていない企業には、輸送を始めるためにハードの標準化だけでなく、仕組みの共通化も重要であることを訴えていきたいと思います」(新井氏)
▲全国各地で進められるパレット化実証実験のようす。荷積み・荷降ろし時間の大幅な削減効果が報告されている(出所:国土交通省)
「パレットの輸送利用」によって変わるサプライチェーンのつなぎ目
同社の長年にわたる提言を、国が後押しする形となったことで、荷主サイドの取り組み、問い合わせも確実に変わってきた。
(新井氏)「パレットを輸送利用することでの車両ごとの積載率、輸送単価の変化などは、具体的な検討を始めるほど、やはり気になるところだと思います。こういった懸念に対しても、たくさんの他社事例などから導入効果を検討していただけることもまた、私たちの提供できるスケールメリットの1つです。いくつかの企業では、11型パレットに合わせた荷姿に変えることや、デジタル化された物流情報を共有化することによる検品の省力化の相談など、パレット輸送利用のさらにその先を考えているところも増えているように感じます」
JPRでも物流のつなぎ目のさらなる改善策として、積み下ろし作業だけではなく納品伝票の電子化・共有によって、紙ベースの事務作業を削減するクラウドシステム「epalDD Plus」(イーパルディディープラス)を開発・提供し、パレット輸送の最適化をさらに促す連携サービスでもサポートする。
同システムを使った取り組みは、同社と加藤産業、ヤマサ醤油の3社共同で実証と運用が進められ、「検品レス」と「伝票レス」を同時に実現する効率化施策として評価された。2023年度「ロジスティクス大賞 社会性特別賞」の受賞が決まっており、物流のつなぎ目において重要となる、関係企業間の連携と、それをサポートするサービスが奏功した一例と言えよう。
今後、「パレット標準化推進分科会」においても、一貫パレチゼーションにおけるレンタルパレット運用に関するより具体的な指針が示されることが想定される。業界を牽引してきた同社にとっては、これまで続けてきた物流改革へのアプローチを、さらに強力に推進する局面と言える。
「私たちがレンタルしているのはパレットではなく、仕組みです」と、新井氏は言う。同社の取り組みだけでなく、一貫パレチゼーションとレンタルパレットの「仕組み」と「意義」に関する認知を広げていくことも、リーディング企業としての重要な使命だ。「JPRのホームページには、2024問題への対策など、わかりやすく取りまとめた資料を掲載しています。ぜひ多くの皆さまに、私たちの活動をご理解いただき、物流危機を克服できればと考えています」(新井氏)