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パレット標準化へ新局面、長い道のり経て

2023年10月13日 (金)

話題「パレット標準化」は、物流改革における古くからのテーマでありながら、いまだに議論が続けられている「古くて新しい」課題だが、2023年6月に示された荷主・物流事業者向けの取組ガイドラインで「パレット等の活用」と「物流システムや資機材(パレット等)の標準化」が推奨されると、「24年問題」への対策と絡めて一気に標準化への動きが加速する気運が高まってきた。

▲11型のプラスチックパレット(出所:日本パレットレンタル=JPR)

ガイドラインでは11型(1100×1100メートル)パレットの導入を優先的に検討すべきとして、標準規格が再確認されたほか、10月6日に発表された「物流革新緊急パッケージ」(案)においては、「必要な予算も含め緊急的に取り組むこと」として、「標準仕様のパレット導入」が盛り込まれ、数ある物流効率化政策の中でも政府が“喫緊の課題”として認識していることがわかる。

11型パレットが輸送用平パレットのJIS規格として定められたのは1970年にまでさかのぼり、パレット活用による物流効率化も、官民から提言が繰り返されてきた経緯がある。言い換えれば、なぜ30年以上にわたって「標準化が必要」だと叫ばれ続けているのか。

パレットの「規格制定」がそのままパレットの「標準化」ではなく、「規格制定」から「規格普及」を経て、はじめてパレットの「標準化」に至る——という点は抑えておく必要がある。その上で、物流危機への対応という社会的な要請の下、改めて標準規格については確認された。ただ、普及に関してはまだこれから。標準化へ向けては、多様な障害をクリアしていかなければならず、運用に至るまでにはさらなる調整を進めていかねばならない段階だといえよう。

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社会課題としての後押しで超える、パレット標準化のハードル

日本での普及におけるハードルとなったのは、60年代からすでにさまざまなサイズのパレットが流通した段階で、標準化への調整を後追いで行わなければならなかったこと。これは、ヨーロッパにおいて、サイズの標準化と欧州プール機構による等価等枚交換の制度が同時並行的に推進されたことで、明確な単一のシステムに準拠した運用が可能となったのとよく比較される点だ。

▲1200×800型のユーロパレット(出所:JPR)

パレットにおいては多様な業種・業態ごとにカスタマイズされ、荷役作業では手積み、ばら積みを含めた運用の慣例化が先行したことが、日本におけるパレット「標準化」の障害となったことは想像に難くない。これらの慣習を打ち破り、普及へ向けて進められきたのが、パレット標準化への道のりだったといえる。

標準化を経た一貫パレチゼーションにおいて重要なのは、パレットの運送利用なのだが、保管でのパレット利用率が高くて資材を有効活用できていなかったり、保管パレットからの手荷役での積み替えが慣習化している現場もまだある。トラックへの積載率低下もパレット運用における根深い課題であり、パレット統一とともに外装サイズ標準化や積み付けの効率化などを進めるには、運用変更へ向けた投資も必要となる。

また、パレットの共同利用が進まない大きな理由として、サイズ・仕様の変更が難しく、他社との共同化が難しいからとする企業は多い。既存の自社パレットを有効活用したいとして、自社管理の運用方法にこだわる場合もあるようだ。しかし、共同利用パレットの総数を増やすことや、効率的な循環利用による、運用コストの比較などで改めて検討するとともに、物流危機という社会課題への貢献も考えるべきタイミングとなっているのは間違いない。

業界それぞれの取り組みから、普及に向けての道筋が伸びる

さらに、パレットを使わない運送は「運んでもらえない」事態が現実化するかもしれないということは認識しておかなければならない。これまで、サイズ、業態が合わないとしてパレット化の枠外とされていた分野においても、業界全体での取り組みによる効率化への試行錯誤は、各々のサプライチェーンを持続する上でも必須の取り組みとなるはずだ。パレットの輸送利用は、もともと個社での取り組みだけでは限界があり、効果も限定的なため、より多くの関係者を巻き込んだ物流最適化の中で協議すべきテーマとして、各業界を先導するリーダーの力量も問われる。

国土交通省では各業界ごとの課題を整理し、改善に向けたガイドラインを提示してきた。早くから課題解決に取り組んできた加工食品分野においては産学官での実証を進め、国交省ではこれらの施策を、20年に「加工食品分野における物流標準化アクションプラン」として事例を共有し、各業界ごとの取り組みを促している。

商品が軽く、パレット利用による積載率の低下を嫌がる即席めん輸送では、長らくばら積みが荷主意向による慣例となっていたが、17年に日清食品が幹線輸送でのばら積みからパレット化に切り替えたことから、業界団体である日本即席食品工業協会としての取り組みも進められ、22年に策定した「即席めん業界における物流標準化アクションプラン」では、T11型およびT12型を標準と定めたパレット化を打ち出し、各社ごとの実行可能性にも配慮しながら推進していく方針としている。

同様の課題を抱える菓子卸業界でも、「菓子標準パレット化促進協議会」が設けられ、22年に策定した標準化ガイドラインに基づく取り組みが進められている。日用品流通業界では89年に「パレット専門委員会」を設置して標準化を推進してきたが、22年に「日用品における物流標準化ガイドライン」を制定し、11型活用でのパレットの理想的な荷姿まで指針を示す。

また、手荷役作業の多い現場とされている農林水産物輸送でも、農林水産省の主導で、ことし3月に「青果物流通標準化ガイドライン」が策定され、ここでも11型パレットを標準とした、レンタルパレット活用による運用を提言。すでに産地から市場の輸送で進められてきたパレット化のさらなる普及を目指す。花き流通に関しても11型と、外装段ボール、台車の統一方針を示すとともに、インフラの補助や標準化へ向けたモデル形成、実証を進めていくという。

社会的要請の後押しが、規格再確認から普及への行動を促し、標準化へ向けた意識の変革は着実に進んでいる。標準パレット利用だけではなく、外装表示・外装サイズの標準化、標準伝票の電子化など、業界ごとに取り組むべき総合的な物流効率化の実現へ向けて、取り組む環境は整いはじめている。

パレット標準化での前進、さらにその先の改革へ

21-25年度「総合物流施策大綱」における重要施策の1つである「官民物流標準化懇談会 パレット標準化推進分科会」での協議は、ことし7月に第9回目が開催、運用面での具体的な調整を経て、最終的な取りまとめに向けて大詰めを迎えている。レンタルパレットの調達を基盤として、その仕分け、回収、費用分担といった細部において、今後、パレットをどう共有・循環していくかのルールや組織作り、制度設計を進めながら、物流危機への対応という共通目的の下、レンタルパレットの運用システムが機能する最適解を見つけ出すのが今後のテーマとなる。

当然、これまでパレット事業をけん引し、各業界ごとの共同パレット化に貢献してきたパレットレンタル事業者のノウハウは、パレット標準化の運用へ向けた重要な要素となり、レンタル業社間の共同プラットフォーム作りや、共同供給・共同回収の検討もテーマになる。「共同」というキーワード自体は、効率化のヒントではあるが、あるレンタル事業関係者は「レンタル事業者それぞれの回収の運用形態なども、細かい部分ではそれぞれ違いがあり、共同にすることでの不合理もある」と語り、側から考えるほど簡単なことではない実情もうかがえる。共同運用を進めることによって、企業経営面では各社の「損・得」も想定され、標準化への指針のなかでどう着地するのか気になるところである。

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とはいえ、パレット標準化による物流効率化の流れはパレットレンタル事業者にとっては悲願とも呼べるもの。これまでのそれぞれの取り組みを、新しい枠組みの中に、どう取り込めるかの正念場ともなる。「企業利益」と「業界利益」を両軸で見据えながら、社会課題解決へ向けた業界一丸による協調、改革推進で「最適解」を見出してもらいたい。