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次世代デベロッパーのあるべき姿とは?

野村不動産の現在地点、そして未来

2023年11月28日 (火)

ロジスティクス多様な物流ソリューションを持つ企業の連携を促すコンソーシアムの運営や自動化倉庫の建造に着手するなど、野村不動産が物流不動産デベロッパーらしからぬ動きを加速させている。野村不動産はいま何を考え、どんな未来を見据えているのか。物流協業コンソーシアム「テクラム」の運営などを担当する宮地伸史郎・都市開発第二事業本部物流事業部次長兼事業企画課課長を招き、国内最古参デベロッパーである野村不動産の現在地点と、未来にどのような視線を向けているのか。12月7日開催の本誌イベントへの前哨戦ともなるインタビュー。

野村不動産の、これまでの歩み

赤澤裕介・LOGISTICS TODAY編集長(以下A):野村不動産と物流の関わりを改めて教えていただけますでしょうか。

宮地伸史郎氏(以下M):弊社には分譲マンションのプラウドがありますが、そうした分譲とビルなどの賃貸の部門がありまして、物流倉庫は賃貸部門の1つということになります。

A:野村不動産は倉庫の総合デベロッパーですが、いつ頃から物流不動産を手がけているのでしょうか?

M:2000年代中頃からですね。今もありますLandport(ランドポート)というシリーズを立ち上げました。

A:大手デベロッパーの多くは10年代初頭からなので先鞭(せんべん)をつけた形ですね。今はどのくらいの規模で展開しているのでしょうか。

M:国内で全43棟、延床64万坪、1棟当たり大体1万5000坪の拠点を展開しています。BTS型よりもマルチテナント型の倉庫がメインになります。

A:43棟はどのあたりに建てられているのでしょうか?

M:これまでは1都3県のみの展開でしたが、昨年から、京都、福岡、名古屋、大阪などにも積極的に展開を進めています。

A:早い参入にも関わらずこれまで1都3県だけだったんですね。そこから地方展開を進めているということは、物流業界がどう変わっていくのかとも関わりがあるのでは?戦略の展開があるんでしょうか?

M:マンションなどの住宅デベロッパーでも、本社が首都圏にあると、やはり最初は東京、それから近県に展開していくというのが普通です。そういう意味では、総合デベロッパーのプロポーションとしては既定路線ともいえます。首都圏の方が売買しやすいのと安定した利回りを望めるというのがあります。そこに、安定した量を供給していくというのは、不動産デベロッパーの使命ともいえますしね。地方でもそうした展開が行えるような状況になってきたことがあり、多くのプレイヤーが参入しています。

A:プレイヤーが増えたことの要因はどう考えていますか?

M:一つには、物流不動産が不動産業としてメジャーな事業になったことが挙げられるかと思います。倉庫はいわば“箱”であればいいので作りやすく、参入障壁が低いですから。ただ反面で土地代、建築費などは高くなりつつあります。そういうこともあり都市部の外に出て行こうという動きが出てきたといえます。地方進出の流れの原因のもう一つは、やはり24年問題ですね。長距離の輸送がしにくくなるので、岡山、広島、福岡などのニーズも高くなっています。またコロナをはさんでEC(電子商取引)が盛んになり、地方でも商品の需要が増えることで、商品を置く物流倉庫の需要も日本各地で高まっています。

A:物流と社会の事象が重なっている面もあるわけですね。24年の4月からは、トラックドライバーの所定外労働が960時間に制限され、輸送力が14%強下がるといわれています。何もしなければ30年には30%の輸送力減ともいわれています。これはもう戦争が起こっているのと同じような状況ですよね。ただし多くの企業で24年問題への対策が進み、物流施設での開発にも影響が及んできているかと思います。中継輸送拠点の開発などもはやはり進めているんでしょうか?

M:地方でもデベロッパーが活発に動き始めていますね。

A:これから中長期的に見て日本の物流不動産は地方に広がっていくんでしょうか?倉庫も箱型から積み替え型へ移っていくんでしょうか?

M:我々もそのように理解しています。

A:01年にプロロジスが日本上陸し、日本の物流業界は、路線会社が請け負う形から一括して一社で多数の荷主の物流を引き受ける3PLなどが台頭してきました。ほかにもデベロッパーは不動産だけではなく、地域、経済へのサポート機能なども期待されるようになっていく可能性もあります。これから物流倉庫はどうなっていくんでしょうか?

M:端的に言って、モノがどこかだけに集中するのではなく、荷物が全国に散っていくようなイメージを持っています。そうなると荷物も小割か、少なくなっていくでしょう。そうなると、今まで物流倉庫といえば5000坪や1万坪といった単位で貸していましたが、同じことを地方でもできるのかどうかというのはありますね。1都3県でも同じことも起こるのかという疑問は持つ必要はありますが。投資という意味では本当は倉庫を大きくして貸す単位も大きくしたいけれど、それがいつでもどこでも通用するとは限りません。

そのほかにも労務にDX(デジタルトランスフォーメーション)を導入して、作業もロボットで解決したり、共配など物流の基本的な事柄について考え直しながら進んでいくでしょう。オペレーションを考えれば倉庫の形は四角がいいんだろうけど、ほかにもやりようがあるんじゃないかなど、研究的な目線、組織的目線、営業的な試験的な目線で考える必要も感じています。

デベロッパーが作る自動化倉庫

A:ここ1〜3年ではどのような展開を予定しているのでしょうか。

M:10年代からカテゴリーマルチつまり、ある特定の業者向けに特化したマルチテナントという考え方で商品企画を行っていますが、これをさらに推し進めていければと考えています。

倉庫は結果的に買えた土地に建てることになるのですが、そのエリアが港湾に近かったり、アパレルの集積地にあるなどそのエリアなりの特性がある場合は、それぞれの立地に合わせた倉庫を作るということをやっています。普通は倉庫を高床で作るけれど、飲料の需要が見込めるから低床で作ったりと、何らかのカテゴリー=業種に寄せた倉庫を作るわけです。特定の業種に寄せて作りながら、できるだけ汎用性のある仕様にするといったイメージです。

わかりやすいところでいうと横浜港に近い福浦の倉庫では、建材なども置けるように天井高を高く取り、床荷重を大きくしていたりという例があります。また、新杉田の新拠点(Landport横浜杉田)は自動倉庫の導入を予定しています。

A:不動産開発で自動倉庫まで導入するというのは、かなり実験的な取り組みに聞こえます。

M:倉庫に対するニーズが小割化している印象があります。倉庫に空きができた場合、5000坪、1万坪といった大きな単位で募集をかけても、それがすべて埋まるニーズはなかなかなくて、大体はちょっと空きができてしまうものです。今まではその空きを3PLが扱って、季節波動を埋めています。自動倉庫にすることでこの季節波動を吸収できないか、というのがテーマの1つです。

空きが1000〜2000坪ということもあれば、100〜200坪といったケースもあり、ここを自動化で埋めていきたい。100坪程度のニーズの小割化にも自動化で応えられそうです。そうした場合、自動化のコストは誰が支払うべきなのか?3PLなのか荷主なのか。そこはいったん私たちデベロッパーが負担して、3PLの負担を減らそうというのが新杉田でやろうとしていることです。

A:なかなかものすごい構想ですね。

A:今、野村不動産が取り組んでいる「テクラム」という取り組みについて教えていただけますでしょうか。

M:テクラムというのはさまざまな業種の企業が参加して、物流ソリューションを一緒に作っていこうというコンソーシアム、集合体です。その具体的になったものが「習志野テクラム・ハブ」です。テクラム・ハブは野村不動産の物流拠点ランドポートの中に実際にソリューションを組み込んだ施設で、物流企業がソリューションを実際に見て選んでもらえる倉庫になっています。

テクラムには現在、野村不動産を合わせて67社が参加しており、多くの企業はデジタルを軸にWMS(倉庫管理システム)、WES(倉庫運用管理システム)などのソフトのほか封かん機、AMR(自律走行搬送ロボット)などのハードを作っている企業もあります。

A:具体的にはどういうことを目指しているんでしょうか?

M:長期的には、荷物を入れれば自動的に仕分け、ピッキング、保管などをしてくれるセットアップ型の自動倉庫を作っていくベースになればと思っています。これは3PL業者さんも目指されているかと思います。

短中期的には、テクラム・ハブという施設を通してお客さんのニーズを着実に集めていきたい。習志野の拠点に作ったテクラムハブでは月に2回デモを行っております。施設内には実際に18社のシステムやロボットが導入されていて、さまざまなメーカー企業の製品をまとめて比較することができます。ロボティクスなどはまとめサイトなどもなく、意外と比較して選べるところがないので、そうした場として提供したいというのがあります。また、同じ商品でもA社のホームページにはリースの話しか書いてないし、B社のホームページには販売のことしか書いていない。なので入手についても選択肢を提示できるようにしたい。

荷主さんや3PL企業などに運用の様子を見てもらったら意見を聞き取り、適した企業を選定して先方に提案にいくという形で進めます。コンソーシアムに参加している企業としては、顧客接触機会を得られるメリットがあります。

A:不動産会社がそこまでやるというのはすごいですね。

M:テクラム参画企業の皆さんにはもちろん主体的に動いていただいてますが、野村不動産が金主となって場所を提供しているというような形ですね。

A:テクラムにはいろんな企業が入っているかと思いますが、今後も物流の川上から川下まで手がけていくんでしょうか?また、参画企業は今後も増えていくんでしょうか?

M:基本的には増やしたいと考えています。テクラムの中でも競合が増えますがそれはそれでいいと考えています。現在もWMSだけで5社に参画していただいています。「テクラム」という名前はテクノロジーとスクラムを掛けた名前なのですが、必ずしもロボティクスやシステムなどのテクノロジーだけに限定しているわけではありません。また、現在カバーしている業種の外にもっと輪を広げていきたいというのもあります。ですので、まだ参画企業がない位置情報、センサリング技術、見える化サービスなんかが入ってもいいわけです。現時点では配送の企業の参加はありませんが、そうした企業の参画も歓迎です。

A:サプライチェーンを幅広くしたいというのがテクラムの狙いの1つかと思います。ソリューションがある会社が連携するべきだというのはありますね。さまざまな得意分野を持った企業が集まった方が、カテゴリーマルチの強化という方向性もありますよね。

M:実証環境があった方がいいですし、それを提供するのが野村不動産。チャンスをより広げるということをやりたいですね。

A:さまざまな業界で最近は、競争はするけれど協調もするという空気感があります。不動産もまた例外ではないということですね。

24年問題の後に現れる物流の姿

A:デベロッパーとして24年問題についてはどう考えていますか?

M:もちろん大きな契機ではあるけれど、24年までにすべて終わるわけではないと思います。これは、働き方改革とコロナ禍の関係にちょっと似ているところがあると見ています。「働き方改革」を掲げて、働き手にとって負荷が少なく、ゆとりのある暮らし方を政府が応援していましたが、コロナ禍があったためにリモートなどの多様な働き方が許容されるようになって、いわば追い風になりました。物流業界ではドライバーの負荷を下げようという方向に進んでいますが、24年問題がこれの後押しになる可能性もあるんじゃないでしょうか。

24年4月以降は年末などの繁忙期だと、ギフトが届きにくいなど物流の問題が目に見えるようになってくるかもしれない。そうなった時にそこで何らかの対応をしていくことで、変化が進んでいくような気がしています。ドライバーが働ける時間が今より少なくなるので、何らかの変化や問題が出てくるのは当然です。問題が起きてからいろいろと対策をとるはずですが、その時に何らかの課題の解決法を提案したり、社会に対してそうしたリソースを提供するのも、テクラムや私たちデベロッパーの役割ではないかなと思っています。24年は終点ではなく、あくまでホワイト物流のチェックポイントで、その先も労働負荷を下げたりといったことは続けていかなければなりません。そこへの後押しをしていければと思います。

A:実際問題として現時点でも人は減り始めていて、人手不足もそうですが、労働環境の改善などもちゃんと取り組んでおかないと行政処分もあるわけです。そうしたことを避けるためにもなるべく早く対応するべきだし、今ならひどい事態になるまでまだ間があります。

M:輸送力が30%減になるとしても、それを解決し終えたときにはより良い物流の形ができているのではないかと思います。物流に関する人手が減ったとしてもそれをカバーして、待遇や利益などが増えているような未来があるのかもしれません。実際には、課題を解決するにはロボティクスや自動化ソリューションが必要になるかと思いますが、それを提案できるのがテクラム、という風に考えています。

A:イギリスのブラックキャブなど、高いステータスを誇るサービスで差別化を図っている例もありますし、まったく違うサービスがでてきてもいいわけですよね。

M:結果的に付加価値が高い方向に向かうのか、低い方向に向かうのかわかりませんが、よりお金を生むような形、働く人へのワーカーのリターンが多い形が理想ですよね。ただやはり作業は効率化した方がいいだろうから、DXを使っていくんだろうなと思います。

A:物流は暗黒大陸と未だにいわれています。これは一つは荷主や3PLが倉庫や運輸業者に丸投げしてきた結果ともいえます。もろもろのしわ寄せが物流の仕事の下流の業者にいって、コンプライアンス意識の低い会社も増えているんじゃないでしょうか。しかしまた、そうした多くの業者によって日本の物流が支えられているというのも大きな問題です。そういうところに目を向けることも必要ですよね。

M:物流はボラティリティー=変動が大きい産業だなという風に思っています。5000坪の倉庫を作ったけれど、これを3000坪で貸していることがよくあります。この余剰を3PL業者が引き受けてくれているという側面があるわけです。倉庫を荷主に貸すと5年契約ですが、3PLだと1年契約。その範囲内で3PLがボラティリティーを埋めているという状況です。

デベロッパーの側から見るとこのボラティリティーしか見えていないわけですが、倉庫の外では「荷主からのリクエストがある『かもしれないから』こうやっている」、「荷待ちのトラックがたくさん止まっていると近隣から苦情が出る『こともあるから』こうしている」といったボラティリティーや無駄が倉庫の外にはまだまだあるはずです。でもこれを誰かが認識して実数化していくことで、物流全体がトータルで良くなるんじゃないでしょうか。ボラティリティーをまず見える状況にして、最終的には値上がりを抑え、サービス水準を高めるといったことはできるはずだと思います。

Will(ウィル)というのはどの分野でもあるはずです。私たちであれば、小割化や自動化倉庫などがそれでしょう。では実際にできるか?Can(キャン)になるかどうかと、事前のリサーチや実験、競争や協調が必要になってきます。それを実現したのがテクラムになるのですが、テクラムを作らなかったとしても、やはり見えていなかったボラティリティーの部分は見える化する必要があるのだろうなと思います。

宮地氏によって語られた物流の未来像は、まだイントロダクションに過ぎません。上記インタビューに興味をお持ちになった読者の皆さまは、さらに踏み込んだ内容が語られる12月7日のイベントに、ぜひともご参加ください。

イベント概要
開催日時:2023年12月7日(木)13時~16時
会場:新宿野村ビル2階 野村コンファレンスプラザ新宿(先着順30人)/オンライン
参加費:無料
定員:会場30人(先着)/オンライン100人(いずれも要事前申込)
申込期限:2023年12月6日(水)17時
主催:「物流議論」実行委員会
登壇者
宮地伸史郎氏(野村不動産株 都市開発第二事業本部物流事業部次長)
関雅美氏(IHI物流産業システム 取締役営業本部長)
大城翼氏(千代田組 第四営業本部ソリューション営業統括部第一課主任)
赤澤裕介(LOGISTICS TODAY 編集長)
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