ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

本誌主催イベントに国土交通省登壇、運行管理高度化・一元化を解説

運行管理の変化を、機械と人の役割見直す契機に

2024年5月21日 (火)

▲国土交通省の物流・自動車局安全政策課課長補佐(総括)の小柳美枝子氏

ロジスティクス本誌LOGISTICS TODAYは21日、オンラインイベント「運送経営が変わる〜運行管理の自由選択が示唆する物流会社再編時代の到来〜」を開催、国土交通省の物流・自動車局安全政策課課長補佐(総括)の小柳美枝子氏が登壇し、急ピッチで進められる点呼制度、運行管理制度の改革を解説した。

2024年問題では、ドライバー不足に注目が集まるが、「運行管理者の不足、業務内容のハードさも深刻」(小柳氏)であり、急ピッチで進められている運行管理業務、点呼業務の見直しの舵を取るのが国交省である。

運行管理者不足も少子高齢化を背景にした人材不足に起因するだけに、情報通信技術(ICT)の発達により、「機械で代用できる業務は機械に、その他の安全指導などで人が注力すべき業務に集中できるように」(小柳氏)することが、国交省が主導する運行管理高度化の意義といえる。安全を担保しながら、管理業務の効率化も両立することが求められているだけに、業界の効率化の要望を取り入れながらも、事前の検証などを経て運用面に関する要件を確認しながら、段階を追っての改正が行われており、イベントではまず、こうした運行管理の変化の現状を小柳氏が説明した。

急ピッチで進む「遠隔点呼」「自動点呼」「運行管理の一元化」の運用見直し

国交省が進める運行管理の高度化は、まずは点呼の運用見直しが先行して行われ、「遠隔点呼」「自動点呼」の適用範囲を広げ、対面のみに限られていた点呼の方法についての運用を柔軟化するとともに、「運行業務の一元化」に向けた制度の見直しも並行して進められてきた。

遠隔点呼においては、優良事業者に限り認められていた「IT点呼」の対象を拡大し、22年7月からは全事業者に運用を拡大して、同一事業者内での運用から、同一事業者間(100%資本関係のあるグループ企業間を含む)であれば営業所をまたいでの点呼を行うことも可能となった。さらには営業所と車庫に限られた被点呼実施場所についても車内や待合所、宿泊場所などでの点呼実施を可能とするための要件見直しが行われるなど次々と改正が進む。

現在、遠隔点呼においては事業者をまたいだ運用の先行実施が行われており、来年度の本格運用に向けた最終検証が続いている状況である。被点呼実施場所の拡大により、「トラック運転手の柔軟な働き方に役立つ」(小柳氏)運用の見直しとなり、さらなる働き方の見直しにもつながる。

▲運行管理制度の改革について対談する小柳美枝子氏と本誌編集中の赤澤裕介

運行管理者に代わって認定を受けたロボットなどを用いて、運行管理者の現場立ち会いを必要としない自動点呼については、21年からの実証を経て、23年1月より、まず「業務後」の自動点呼の運用がスタート。現在の焦点となるのは「業務前」の運用となる。すでに23年度に業務前についても実証を終えているが、引き続き先行実施という形で対象を拡大しての実証が、ことしの夏前をめどに開始される予定で、来年度の本格運用に向けての要件整理が進むことになる。業務前点呼では、「業務可否の判断」が必要となるため慎重な検証が続いているようである。

なお、自動点呼には、国交省の認定機器の使用が必要要件となっているが、現在業務後自動点呼で認定されている機器とは、少し要件が変わることに注意が必要だ。業務前の自動点呼機器には、運転手のイレギュラーな健康状態が判明した場合、「点呼作業を一時停止して直ちに運行管理者に報告し、その判断を仰ぐ機能」(小柳氏)が求められることになり、先行実施ではその運用も確認されることになる。

運行管理の一元化ではこれまでの運行管理者が同じ営業所に所属する運転者に対し運行指示を行うという管理から、同一事業者内で運行管理業務を集約して行える「運行管理の一元化」での運用が可能となり、事業者としては管理業務の効率化が期待できる施策である。現在、主にドライバーの営業所間の移動を認める「営業所間の人の柔軟な配置」について、昨年度の実証から引き続き課題を抽出すべく、先行実施の準備が進められており、「責任の所在」や「派遣可能な範囲」などについての検証が続けられている状況である。

運行管理の高度化で問われる健康管理や安全教育

運行事業者としては、運行管理の高度化による管理業務の効率化への期待は大きい。国交省としても業務改善を後押しとすると同時に、管理業務の負担軽減により、安全対策の強化などにも注力できる環境を整え、「監査結果などでは、ドライバー教育が足りないといった現状がある」(小柳氏)ことの改善や、デジタルによる省力化を、人がやるべき作業の質の向上につなげたい意図も見える。柔軟な働き方や人員の配置が可能になることで、業務改善と同時に、運送会社としての事業の本質の見直しも問われる。

運行管理の高度化は、トラック運転手の健康管理の重要性にも話が及んだ。貨物自動車運転手においては「脳・心臓疾患」の労災支給決定件数が増加する状況にあり、働き方改革に伴った労務管理、健康管理の精度を上げることも必要だ。また高齢化による視野障害などのリスクも高まっており、小柳氏からは「過労運転防止のための先進機器の導入支援」などの補助金事業の活用も呼び掛けられた。運行管理の高度化では、運転手の健康状況の判断をデジタルだけで管理できるのかなど、運送事業者が果たすべき役割と合わせて今後も健康管理に関する検証を続けていくことが必要だ。

また、運行管理の高度化では安全の担保が求められるのに反して、事業用トラックによる事故のニュースも相次いでおり、運送に関わる事業者はさらに安全を重視することで、社会に不可欠なインフラとしての物流事業の価値を示していかなくてはならない。小柳氏は特に軽貨物運送業での事故が増加する傾向を指摘し、物流関連法の改正における「軽トラック事業者に対する規制的措置」の取り組みを強化していくという。今後、軽貨物事業者も「一般貨物と同じ土俵」(小柳氏)で、安全に対しての意識を高めることが求められるなど、効率化を進めると同時に業界全体での安全対策を強化する方向性も示された。

小柳氏は、運行管理高度化について、国交省が主導しているというよりはむしろ、帳簿管理や労務管理などの業務効率化を改善するツール開発が、制度の見直しができる環境作りを後押ししたとして、生産性向上のためのソリューション導入と同じように、運行管理の高度化への取り組みが業務改善と合わせて検討されることに期待する。運行管理や点呼の柔軟化をうまく活用することで、業務の効率化、運転手や運行管理者の労務環境改善、安全取り組みの精度向上など、さまざまな課題への対応が可能なことを、改めて情報として正しく取り入れ、それぞれの対応を検討すべきであろう。