話題シリウスジャパン(東京都中央区)は、AMR(自律走行搬送ロボット)を開発・販売する中国企業シリウスロボティクスの日本法人だ。2019年に設立された。同社は物流施設向けにカスタマイズしたロボットを月額制で貸し出すサービスを提供している。サービスの概要や会社の事業展開について、代表取締役のグレース氏と、マーケティング部の内山雄大氏に話を聞いた。
コロナ禍で実感した、自社製品の扱いやすさ
シリウスロボティクスが中国で創業したのは18年。創業者の蒋超(ショウ・チョウ)氏は、もともと画像認識ソフトウエアの開発に携わっていた。しかし、ソフトウエアだけでは人の生活や現場作業を本質的に変えることはできないと判断し、ロボットというハードウエアも扱う同社を立ち上げた。AMR開発は競争が激しく、創業時には苦労も多かったが、翌年には日本法人シリウスジャパンの設立にこぎつけた。

▲代表取締役のグレース氏
現在、シリウスジャパンの経営トップを務めるグレース氏によると、日本進出の理由は2つあるという。まず、ロボット産業が発達した日本では、ロボットに対する現場の忌避感が薄く、導入のハードルが低いこと。また、その割に現場の自動化が進んでいないことも、日本進出の後押しとなった。
日本で実績をつくることは、海外展開の際にもプラスにはたらくという。日本には出荷件数や効率化の度合いなどを数値で正確に記録する習慣がある。「日本での実績は明確な数字を伴うため、海外企業への説得材料となり、販売力が強まる」とグレース氏。そのため蒋氏は創業当初から、日本の商社と接点を持っていたという。
しかし、オフィスの契約問題など、中国企業が日本でベンチャー法人を立ち上げるまでには越えるべきハードルも多かった。その上、ようやく準備が整いはじめたと思った頃、コロナが世界を覆った。中国のエンジニアが来日することはおろか、ビザの申請すらできない。当時は会社の知名度も国内での実績もなく、人材採用も困難を極めたという。
グレース氏は当時を振り返り、「はじめは中国側のエンジニアとやりとりしながら、私が自分でロボットの初期設定をするしかなかった」と苦笑する。 だが、その際には自社のOS(オペレーションシステム)のシンプルさに助けられた。グレース氏はソフトウエアの知識など皆無だったが、それでもなんとかロボットを設定することができたという。
シリウスロボティクスのOSは使い勝手や汎用性の高さを考えて、非常にシンプルに設計されている。グレース氏は期せずして、自社製品の使い勝手の良さを実感したかたちとなった。
精度とコストパフォーマンスを両立したロボットのレンタルサービス
シリウスジャパンはRaaS(ロボティクス・アズ・ア・サービス)、すなわちロボットのレンタルサービスを提供している。1台あたり月額8万円からレンタルできる手軽さは、小規模導入からスタートしたい企業にとって朗報だ。

▲ピッキング用のAMRを操作する内山氏
拡張性の高さにも強みがある。ロボットが現場で得た情報はクラウド上で管理され、共有可能なデータとして保管される。そのため、データの読み込みさえ済ませば、すぐにでも現場に新たなロボットを投入することが可能だ。マーケティング部の内山氏も「初期費用の安さと立ち上げの速さは、他社にはなかなか真似できない」と自信をのぞかせる。
シリウスジャパンが最も得意とするのはピッキング用のAMRで、国内でのピッキング実績はすでに1500万ピースに及ぶ。AMRをAGV(無人搬送車)と混同している人も多いが、AGVが隔離された環境で指定されたルートを動くのに対し、AMRは開けた空間で、センサーなどを駆使しながら臨機応変に動く。そのためAMRは人と同じ空間にいて、作業を分担することができる。AGVと違い、現場のレイアウトを大きく変更する必要もない。
精度にも自信がある。同社のAMRが稼働している国内施設で、最大のものは床面積1万平方メートル。最も密度が高い現場は2000平方メートルに75台のロボットが稼働する。つまり、広大な敷地を迷うことなく横断することもできれば、人とロボットが入り乱れる狭い空間でも渋滞や衝突を起こすことなく稼働できるというわけだ。精密なロボットの動きを制御しているのは自社開発のOSで、その精度はオープンソースのOSでは実現不可能だという。これは、創業者がソフトウエア開発に携わっていたからこその強みといえるだろう。

▲ピッキング用AMRのバリエーション
人とロボットをまとめて派遣する構想
シリウスジャパンは今後、AMRとRaaSの手軽さをアピールしていきたい考えだ。現状ではAGVとAMRの違いが広く認知されておらず、「物流現場のロボット」と聞くと、大掛かりな自動倉庫をイメージする人がほとんどだという。そのためAMRの話をしたにもかかわらず、コストを理由にはなから話を聞いてもらえないこともある。ロボットをレンタルできる仕組みがあることを知らない人も多い。ロボットを物流現場にとって身近な存在にすることが、当面の目標になりそうだ。
「日本の物流はスキルの高い現場労働者に支えられてきた。しかし、人口減が確実視される今、ロボットの導入は急務だ」(内山氏)
現場の人手不足が懸念されるなか、同社は人材派遣会社との協業も計画している。物流施設に、人とロボットをまとめて派遣する構想だ。特別な設備を必要とせず、すぐに立ち上げられるAMRだからこそできる斬新な発想といえるだろう。実現すれば、物流現場に新しい風が吹くことになるかもしれない。
シリウスとは、夜空で一際明るく見える星のこと。「最も輝くスター企業になりたい」との想いからつけられた社名を掲げるシリウスジャパンは、すでに独自の輝きを放ちつつある。
一問一答
Q.スタートアップとして、貴社はどのステージにあるとお考えですか?
A. 成長ステージで言えばミドルステージ、投資ラウンドで言えばシリーズBプラスと考えています。
Q. 貴社の“出口戦略”、“将来像”についてお聞かせください。
A. アジア圏での展開も継続しつつ、北米や西ヨーロッパにもアプローチし、よりグローバルな展開を目指します。これに向けて、日本法人独自の資金調達も行います。