イベントアジアの物流が音もなく変貌を遂げている。11日に配信された弊社主催のイベント「アジアサプライチェーン変革最前線-拠点DX・人材・データで創るアジア連携の新基盤-」では産学の知恵者たちが膝を突き合わせ、明日への道筋を語り合った。LOGISTICS TODAYの赤澤裕介社長兼編集長が司会を務め、フィジカルインターネットセンター理事長で流通科学大学名誉教授の森隆行氏がモデレーターとして議論をけん引。拠点DX(デジタルトランスフォーメーション)、人材、データ、この3つの鍵がアジア連携の新基盤をどう創るのか。変革の最前線から、答えを探った。
イベントは2部構成で展開された。前半ではタマサート大学教授のルッツ・バノミョン氏、チェンマイ大学学部長・准教授のアピチャット・ソパダン氏、アライ・ロジスティック・プロパティCEOオフィス国際展開ディレクターのチャーリー・チャン氏を迎え、タイを中心としたアジアのサプライチェーン変革の現状を議論した。

▲(左から)森隆行氏、ルッツ・バノミョン氏、アピチャット・ソパダン氏、チャーリー・チャン氏
タイの戦略転換が示す物流の未来
ソパダン氏は「(タイの)ランプーンには日本企業を中心とした外国投資が集積している。だが、これからはクリエイティブ産業、デジタル、ヘルスケア、高付加価値農業といった新しい産業の誘致が鍵になる」と地域の産業構造の転換点を指摘した。単なる生産拠点ではなく、ASEAN域内を結ぶ物流ハブとしてのタイの姿を明確にさせた。タイ北部が目指すのは単なる工場ではなく、アジアをつなぐ知的ハブとしての未来図だという。また、ルッツ教授は「タイの物流は隣国からの労働力に大きく依存している。地域紛争などで国境が閉鎖されると、深刻な影響を受ける。自動化とスマート化は選択肢ではなく、必須の戦略だ」と労働力の課題を指摘した。
課題は「標準化」と「現地化」の両立
後半では日本企業の実践者として、ロジスティード理事・DXソリューション開発本部長の櫻田崇治氏、同社サプライチェーンイノベーション部部長の半澤康弘氏、SBSホールディングスLT企画部長の曲渕章浩氏、シーネットグループ執行役員海外推進部部長の鈴木喬氏が登壇。アジアで日本企業が直面する課題と解決策を具体的に語り合った。
日本企業が抱える難題は、グローバル標準と現地の実情をどう折り合わせるか、その一点に尽きる。櫻田崇治氏は「効率化にはデジタル化が要る。だが、データありきではない。作業の質を守るため、ハンディーターミナルで即座に指示を出し、スキャンでミスを防ぐ。結果、デジタルデータが手に入る。肝心なのはそれをどう使うかだ」と核心をつく。
続いて、半澤氏は豊富な現地経験から一つの真実を引き出してみせた。「現地に行くと担当者が驚くほど多い。日本流のオペレーションを移植しようと試みてきたが、やはり土地には土地の理がある」という。標準化と現地化、この2つの綱を同時に引く難しさを、半澤氏は静かに語った。
データ連携で実現する標準化と柔軟性
鈴木氏は「言語対応だけでなく、現地の商習慣に合わせたカスタマイズが必要。タイでは決めたことをそのままやるというスタンスが基本。データのメッシュを統一することで、インドネシアでも日本でもタイでも、同じルールでデータを活用できる環境を作りたい」とクラウドWMSによる解決策を提示した。
さらに、曲渕氏は物流業界の構造転換を見据えた本質を突いた。「固定契約で床代を貰う商売は、もう限界に来ている。倉庫が満杯になれば確かに売り上げは立つ。だが長く居座る荷物ばかりでは、顧客の利益とこちらの都合がすれ違う。これからは機能を売り、サービスを売る。細やかに価値を切り分け、必要とする側と手を組む。そういう商いの形に変わらねばならない」と提言した。倉庫業から物流サービス業へという言葉は静かだが、その転換の重みは軽くない。

▲最後はフリートークでアジアの物流に秘められた可能性を話し合った
一社完結から共創へ、アジア物流ネットワークの青写真
議論の果てに見えたのは、一社で囲い込む時代の終焉だった。これからは「協調型サプライチェーン」、タッグを組み強くなる物流の姿だ。チャン氏は「台湾が最大拠点で、マレーシアには既に1棟が稼働中、2棟目も建設中。タイは来年、シンガポールも視野に入れている。日本でも来年から土地を探し、顧客の声を聞いてから設計に入る。ハードとソフト、そしてオペレーションを一つに束ね、皆で使える仕組みにしたい」と語る。拠点を点在させるのではなく、網の目のように結ぶ──そうしたアジアに張り巡らされる新しい物流の地図を示した。
赤澤編集長は議論を束ねながら、「物流を現地化するには、WMS(倉庫管理システム)が効く。言葉で伝えるより、画面で示す。それだけで現場は動く。しかも記録が残る。改善の種は、そこにある」と洞察を加えた。森氏は「物流とは、人と人、企業と企業を結ぶ仕事だ。DX、人材、データ。この3つを束ね、一社の枠を越えた共通の土台を築く。それがアジアの物流の未来を左右する」と意見を述べた。
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