ロジスティクス荷待ち・荷役問題の本質は、「時間がかかっている」ことそのもの以上に、「どこで、どれだけ時間が使われているのかが正確に把握されていない」点にある。改正改善基準告示や2時間ルールによって、荷待ち・荷役時間の削減は制度上の要請となったが、現場では依然として”感覚的な管理”に頼る場面が多い。
荷役作業は工程が細分化され、開始・終了の境界も曖昧になりがちだ。積み込み、検品、仕分け、荷卸し、棚入れ──それぞれに要する時間は拠点や荷姿によって大きく異なるが、その実態を客観的に記録・共有する仕組みは十分に整っていない。結果として、荷役作業時間を巡る認識のズレが、運送事業者と荷主の間で摩擦を生んできた。

こうした「見えない時間」を可視化する技術として、近年注目を集めているのが、画像処理や各種センサーを活用したセンシング技術だ。人の作業や荷物の動きをデータとして捉え、荷役作業の実態を客観的に把握しようとする取り組みが、物流現場で静かに広がり始めている。
荷役はなぜ“ブラックボックス”になりやすいのか
荷役作業がブラックボックス化しやすい理由は明確だ。第1に、作業が人手に依存していること。第2に、作業の開始・終了を明確に定義しにくいこと。第3に、荷主・物流事業者・運送事業者といった複数の主体が関与していることだ。
例えば、トラックがバースに着いてから実際に荷役が始まるまでの時間、検品や仕分けで一時的に作業が止まる時間、荷卸し後に次の指示を待つ時間。これらはすべて荷役時間に含まれうるが、現場では「どこまでが作業で、どこからが待機なのか」が曖昧なまま処理されてきた。
その結果、標準的運賃で荷役作業料が明示され、標準貨物自動車運送約款で書面化が求められるようになっても、「実際に何時間かかったのか」を巡る議論が噛み合わないケースが後を絶たない。制度対応を実効性のあるものにするには、客観的な事実に基づく共通認識が不可欠だ。
この課題に対し、画像処理やセンサーを用いて作業の進行状況を把握しようとする動きがある。カメラやセンサーで人や荷物の動きを捉え、作業の開始・終了、滞留の発生などをデータとして記録する。人がストップウオッチで測るのではなく、現場の動きを“そのまま”データ化する発想だ。

重要なのは、これらの技術が省人化や自動化だけを目的としていない点である。むしろ、荷役作業の実態を可視化し、関係者間で共通の事実認識を持つことに主眼が置かれている。どこで時間がかかっているのかを把握できなければ、改善の打ち手も議論できない。
技術アプローチは一様ではない
画像処理・センシングと一口に言っても、その技術的アプローチは一様ではない。どの情報を、どの粒度で捉えるかによって、活用の方向性も変わってくる。
キヤノンは、産業用途で培ってきたカメラ技術や画像処理の知見を背景に、人やモノの動きを捉える技術を強みとしている。高精細な映像データを活用することで、荷役作業の進行状況や作業工程の流れを把握しやすくするアプローチだ。現場の作業を俯瞰的に捉え、どこにボトルネックが生じているのかを検討する材料を提供する点に価値がある。
一方、ソニーは、イメージセンサーやエッジAIといったデバイスレベルの技術を強みとする。現場に設置したカメラやセンサーで取得した情報を、その場で処理することで、作業状況の把握や異常の検知につなげる考え方だ。大量の映像データをクラウドに送るのではなく、現場で必要な情報を抽出するという発想は、物流現場との親和性が高い。
可視化は「管理」と「交渉」を変える
荷役作業の可視化がもたらす変化は、現場改善にとどまらない。荷役作業時間が客観的なデータとして示されれば、荷主と運送事業者の間での議論の前提が変わる。これまで感覚論に陥りがちだった「時間がかかりすぎている」「それほど時間は使っていない」といったやり取りが、事実ベースで行えるようになる。
取適法の施行により、荷待ち・荷役作業への対価不払いは法的リスクを伴う行為となる。荷役時間を正確に把握し、説明できることは、適正な価格転嫁を進める上でも重要な意味を持つ。画像処理やセンシングは、単なる現場効率化ツールではなく、取引の透明性を高める基盤としての役割を担い始めている。

画像処理という言葉から、自動化や省人化を連想する向きも多い。しかし、現段階で重要なのは、必ずしも人を置き換えることではない。まずは、現場で何が起きているのかを正確に知ること。その上で、どの工程を改善すべきかを議論できる状態をつくることだ。
荷役作業は拠点ごと、荷姿ごとに条件が異なる。すべてを一律に自動化するのではなく、人の作業を前提としながら、無駄や滞留を減らしていく。そのための「目」として、画像処理・センシング技術が活用され始めている。
荷役時間の短縮は、一朝一夕で達成できるものではない。だが、見えなかった時間が見えるようになれば、改善の議論は確実に前進する。バース予約や動態管理が「到着までの時間」を扱う技術だとすれば、画像処理・センシングは「構内で使われている時間」に光を当てる技術と言える。
荷待ち・荷役問題の解決に向け、制度、IT、インフラが連動し始めている。画像処理・センシングは、そのなかで現場の実態を可視化し、次の一手を考えるための重要なピースとなりつつある。
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