
荷主トラックドライバーの長時間労働是正を目指す動きが本格化するなか、業界で最大の焦点となっているのが「荷待ち時間」と「荷役作業」だ。国土交通省の調査によれば、トラック輸送における拘束時間の相当部分を荷待ち・荷役が占める。ドライバーの労働環境改善と物流効率化を同時に実現するには、この問題の抜本的な解決が不可欠となっている。
政府は改善基準告示の改正、標準的運賃の見直し、荷主勧告制度の強化など、多角的な施策を打ち出してきた。だが現場では、制度の理念と実態との乖離が顕在化しつつある。荷待ち・荷役問題は、法制度だけで解決できる単純な課題ではない。制度を現場で実装するための具体的な手段と環境整備が、いま強く問われている。
浸透が遅れる「2時間ルール」
2024年4月に施行された改正改善基準告示は、トラックドライバーの拘束時間を大幅に短縮した。違反事業者には行政処分や罰則が科される。
今回の改正で特に重要なのは、荷待ち時間を拘束時間に含めることが明確化された点だ。従来、荷待ち時間の扱いは曖昧で、休憩や待機として事実上見過ごされてきたケースも多かった。改正後は、休息期間以外の待機時間はすべて拘束時間としてカウントされる。荷主側にとっても、荷待ち時間の削減は避けて通れない経営課題となった。

▲荷待ち時間の定義(出所:国土交通省)
さらに23年6月に策定された「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」では、荷主都合による荷待ち時間と荷役作業時間を合わせて原則2時間以内に収める「2時間ルール」が示された。この考え方は、「流通業務総合効率化法」(物効法)の改正により、一定規模以上の荷主・物流事業者に対する法的義務となった。
しかし、2時間ルールの運用実態は理想から程遠い。荷待ち削減の切り札として期待されている「バース予約システム」や「トラック動態管理システム」も、必ずしも万能ではない。導入済みの物流拠点では「予約枠が瞬時に埋まり、結局予約が取れない」「予約操作をドライバーに求めた結果、かえって現場の負担が増えた」といった声が相次いでいる。
デジタルツールは導入そのものよりも、誰が主導し、どのような業務設計を前提に運用するかによって効果が大きく左右される。システムが形骸化すれば、2時間ルールは単なる理想論に終わりかねない。
対価を伴う業務として「荷役」を再定義
国交省は24年にトラック運送の標準的運賃を改定した。最大のポイントは、荷役作業の料金を運賃と明確に区分して提示したことだ。これまで荷役作業の対価は、運賃に含まれる形で曖昧に扱われてきた。
改定後の標準的運賃では、積み込み、荷卸し、横持ち、棚入れといった作業内容ごとに、具体的な料金水準が示されている。運送事業者が正当な対価を交渉・請求するための法的・制度的な裏付けが整ったといえる。
もっとも、標準的運賃には法的拘束力はない。実際の運賃・料金は個別交渉で決まるため、中小事業者が大手荷主に対して価格転嫁を実現するのは容易ではない。

▲荷役時間の定義(出所:国土交通省)
こうした状況を踏まえ、標準貨物自動車運送約款も改正された。運送契約締結時に、荷役作業の内容と対価を書面で明示することが義務化され、「運送に付帯するサービス」として無償提供されてきた荷役作業を、対価を伴う業務として再定義した。
ただし、書面化やルール整備だけでは、現場で実際にどれだけの時間と労力がかかっているのかを正確に把握することは難しい。荷役作業は工程が細分化され、開始・終了時刻が曖昧になりがちで、作業時間を巡る認識のズレがトラブルを生むことも少なくない。こうした課題に対し、画像処理やAI(人工知能)、センサー技術を用いて荷役作業そのものを可視化しようとする動きが広がりつつある。
国交省調査が示す深刻な実態
国交省が実施した調査は、荷待ち・荷役問題の深刻さを数字で裏付けている。多くの運行で荷待ち時間が発生し、食品や建設資材といった商材の輸送では長時間に及ぶケースも珍しくない。
荷役作業時間も拘束時間全体の相当部分を占める。注目すべきは、荷役作業の多くをドライバー自身が担っている点だ。本来の運転業務以外の負担が、依然としてドライバーに集中している。
さらに現場では、荷待ち時間が発生しても適切な待機場所が確保されていないという問題が重なっている。物流拠点周辺での路上待機や違法駐車は、ドライバーの負担を増やすだけでなく、地域住民との摩擦や事故リスクを高めている。改善基準告示では休息期間の確保が厳格化されたが、現実には「待機」と「休息」の線引きが曖昧なケースも多い。
取適法で加速する構造転換
荷待ち・荷役問題を巡る環境は、取引ルールの面でも大きく変わりつつある。26年1月に施行された「中小受託取引適正化法」(取適法)は、発注事業者による不当な取引条件の押し付けを防ぎ、適正な価格転嫁を実現することを目的とした法律だ。
物流業界では、荷待ち時間や荷役作業の対価を支払わず、実質的に無償で労働力を提供させる行為が、取適法違反に該当する可能性が高い。標準的運賃で示された荷役料金の不払い、待機時間料の拒否は、法的リスクを伴う行為となる。
さらに公正取引委員会も、物流業界における下請法・独占禁止法違反の監視を大幅に強化している。24年11月、公取委は荷主と運送事業者の取引において、優越的地位の濫用や不当な取引条件の押し付けがないか、厳格に監視する方針を明確にした。
その象徴的事例が、25年12月に発覚したセンコーのケースだ。公取委は、センコーが下請け運送事業者に対し、契約で定めた運賃以外の付帯作業を無償で行わせていたとして、下請法違反で勧告した。具体的には、荷物の仕分けや梱包作業などを「運送に付帯するサービス」と位置づけ、対価を支払っていなかった。また、自社都合により下請け事業者に長時間の荷待ちを強いていた事実も認定された。
この事案が業界に与えた衝撃は計り知れない。大手物流企業であっても公取委の厳格な監視対象となることが明白になった。そして、ことし1月には取適法という新たな法的枠組みが施行された。荷待ち・荷役作業への対価支払いを怠る行為は、下請法・独禁法違反に加え、取適法違反としても摘発されるリスクが格段に高まっている。
荷主企業にとって、荷待ち・荷役問題への対応は、もはやCSRや自主的な改善努力のレベルではない。法令順守と法的リスク管理の問題として、経営課題の最優先事項に位置づける必要がある。取適法が求める「適正な価格転嫁」の実現は、荷待ち時間料や荷役作業料を適切に支払うことと表裏一体の関係にある。
荷待ち・荷役問題の根底には、日本の物流システムに根付いた商慣行がある。多頻度小口配送、厳格な時間指定、ドライバー任せの荷役作業──こうした前提が限界を迎えている。
取適法の施行により、法的な枠組みは整いつつある。次に問われるのは、それを現場でどう実装するかだ。バース予約や動態管理の運用、荷役作業の可視化、ドライバーが適切に待機・休息できるインフラの整備。これらが連動して初めて、2時間ルールは現実のものとなる。
24年問題を契機に、トラック運送業界は構造転換の局面に入った。荷待ち・荷役問題の解決は、その成否を左右する最重要テーマである。
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