記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は鴻池運輸、病害虫対策高度化へ農研植物病院に出資(1月26日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)◇
産業・一般鴻池運輸は1月26日、農研機構発ベンチャーである農研植物病院への資本出資を発表した。物流大手が、なぜ病害虫検査や防除という農業の「最上流」領域に踏み込んだのか。同社事業開発本部の林憲太郎本部長と小森靖士部長への取材から、単なる輸送にとどまらない、サプライチェーン全体を最適化する「次世代農業物流」の戦略的意図が見えてきた。
「後出し」では防げない輸出の壁
現在、日本産の高品質な農産物はアジア圏を中心に高い需要がある。しかし、輸出の現場には「国ごとに異なる厳格な規制」という巨大な壁が立ちはだかっている。残留農薬の基準や検疫ルールは非常に複雑で、専門知識が不可欠だ。
林本部長は、以前の輸出検証での苦い経験を振り返る。「いざ輸出しようとしたら、使っている農薬の関係でその国には出せないことが判明した。作物ができてから相談されても、後出しではどうにもならない」。物流会社が栽培段階の情報を把握せず、単に「できた物を運ぶ」だけでは、現地到着後の全廃棄や積み戻しという致命的なリスクを防げないのだ。
一方で、この高い障壁こそがチャンスでもある。林氏は「すでにレッドオーシャンになっているところに、農業の素人の我々が入っていく余地はない」と断言する。規制が厳しく、他社が敬遠するニッチな市場を攻略することこそが、後発の鴻池運輸が勝機を見出す戦略だ。
物流の枠を超えた「栽培コンサル」という武器
専門知識の不足という課題を解決するために鴻池運輸が選んだパートナーが、国内最大の研究機関である農研機構の知見を継承する「農研植物病院」だ。
特に注目すべきは、今回の提携が同病院単体にとどまらず、背後にある農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)の膨大な知見活用を視野に入れている点だ。例えばアジア圏で人気のサツマイモ輸出を阻む「基腐(もとぐされ)病」に対し、同機構は防除技術から耐病性品種の作出まで多岐にわたる研究を行っている。同社はこうした作物自体の研究をはじめ、DX(デジタルトランスフォーメーション)や自動化などの知見を精査し、社会実装の機会を探索している。
今回の出資により、鴻池運輸は単なる輸送業者から、産地を支えるコンサルタントへと役割を拡張させる。農研植物病院が「栽培の指導も含めたコンサル的な役割を担う」ことで、栽培開始前から輸出先国のルールに適合した防除計画を指導し、事故を未然に防ぐ。
さらに、検疫官不足による滞留というボトルネックにも切り込む。2022年の法改正により民間機関による検査代行が可能になったことを受け、同病院が検査員を配置。鴻池運輸の物流拠点と連動させることで「リードタイムをぐっと縮めて、品種によっては早く相手国に届けて商機を増やす」体制を構築する。
製造業のノウハウで産地を「改善」する
鴻池運輸にとっても、この提携は大きなメリットをもたらす。同社が製造現場で培ってきた生産改善や人員最適化のノウハウを、人手不足に悩む農業現場へ適用できるからだ。
林本部長は、急激に減少する農業人口への危機感を露わにする。「人手が足りないからこそ、積極的な自動化が必要だ」。同社はドローンや遠隔監視カメラなどの技術をパッケージとして提供し、省人化した生産体制そのものを支援する構えだ。「メーカーさんの生産工程をサポートする仕事は農業にも通ずる」と語るように、産地が持続可能な形で生産を続けられる環境を整えることは、物流側が「安定した荷物を自ら創出する」ことにも繋がる。
輸出者は、鴻池運輸に依頼することで「規制適合の保証」と「リードタイムの短縮」、そして「生産体制の強化」という三つの大きなメリットを享受できる。小森部長は高品質な日本産品について「国内だけでなく世界的に見れば間違いなく需要がある」と述べ、成長を続けていく必要性を指摘する。
「国内のマーケットが縮小していくなかで、我々自身も変わらなければならない」。小森部長が語るこの危機感は、農業分野に限ったものではない。鴻池運輸全体として、国内市場の成熟と人口減少を見据え、自社の持続的な成長のために海外市場への活路を模索している。
農業という産業を生き延びさせるために
同社は今後2-3年をかけて、熊本のみかんやイチゴ、盆栽などを候補に、台湾・タイ向けのパイロット輸出検証を進める計画だ。小森部長は、国の掲げる2030年の輸出目標5兆円を見据え「当社の強みを生かし、生産者の方とも連携しながら事業を増やしていく」と意気込みを語る。
国内の買い手が減っても、国外に売り先を見つければ、多くの産業は維持されることになる。そして、さまざまな産業の事業継続を可能にするのは、ほかならぬ物流の「運ぶ」という機能なのだ。
機能と言えば、農地にも経済活動を超えた多様な機能がある。昨今は熊害がメディアを騒がせることが増えたが、これも中山間地域で営農を続ける人々がいるからこそ、今現在の被害レベルで済んでいるという側面がある。また、水田には激甚な豪雨による水害を緩和する保水能力や、生き物のすみかを提供し生物多様性の保全に貢献するという重要な役割も備わっている。
担い手が減り続けている農業という産業、そして農地が持つこれらの機能をこれからも存続させていけるかは、極めて難しい局面にある。しかし、物流と産地が手を取り合い、世界へと販路を見いだすことで、新たな未来を切り拓くことができるのかもしれない。(土屋悟)
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