ロジスティクス日本フィジカルインターネットアカデミー(Physical Internet Academy of Japan、PIAJ)は8日、第1回総会・キックオフミーティングを開催した。国内でフィジカルインターネット(PI)の社会実装に向けた取り組みが進むなか、研究者や企業、実務家をつなぎ、PIに関する学術研究や理論構築を本格化する新たな研究基盤として活動を開始した。
PIは、物流をインターネットの通信のように捉え、企業や業界の壁を越えて物流資源をつなぐことで、オープンで標準化された物流ネットワークを構築しようとする考え方。欧米では産官学による研究コンソーシアムを通じ、最適化アルゴリズムや標準化容器、ビジネスモデルなどの研究と社会実装が進む。一方、日本では実務面でPIへの関心が高まる一方、体系的な学術研究や研究者間のネットワーク形成にはなお課題がある。
PIAJは、早稲田大学教授の大森峻一氏と流通科学大学名誉教授の森隆行氏が共同代表を務め、大阪商業大学教授の田中康仁氏が事務局長、東京大学准教授の川崎智也氏が監事を務める。PI研究の第一人者であるパリ国立高等鉱業学校のエリック・バロー教授を特別顧問に迎え、フィジカルインターネットセンター(JPIC)が後援する。今後は定期研究報告会やワーキンググループ、研究成果発表会のほか、白書・政策提言の作成、国内外の研究機関との共同研究などを進める。
開会あいさつで大森氏は、日本でもPIを研究する研究者は存在するものの、「点在している」と現状を指摘した。PIAJについて、研究者だけが研究する場にはせず、企業や実務家を含む参加者が一緒になって研究を育てる場にしたいとの考えを示し、海外の産官学とのネットワークを生かした国際連携にも意欲を示した。
来賓として出席した経済産業省経済産業政策局地域経済産業政策統括調整官の中野剛志氏は、「フィジカルインターネット実現会議」の設置や、2040年を目標年次とするロードマップを策定してきた経緯を説明した。

▲経産省 中野剛志氏
中野氏がアカデミアに期待したのは、物流全体を俯瞰する視点と、現場に蓄積された知見の理論化だ。物流事業者や荷主が持つ個別の経験やノウハウを研究者が吸い上げ、理論やモデルとして整理することで、産業界と学術界の双方に還元できるとした。2026年度はPIロードマップ上の「離陸期」の初年度に位置付けられており、PIAJの始動について「時宜を得たもの」と期待を寄せた。
続いて森氏が「Physical Internet―世界の潮流と日本・アジアの新たな挑戦」と題して講演した。
森氏は、日本では政府がロードマップを掲げ、業種別ワーキンググループによる具体化が進んできた一方、今後は業界単位での取り組みが進むほど、業界間をどうつなぐかが課題になると指摘。実現会議でも、ワーキンググループ間を横断したネットワーク形成が論点になっているとした。
そのうえで、PIAJとJPICの役割を「車の両輪」と位置付けた。法人を中心に社会実装を進めるJPICに対し、PIAJは研究者など個人を中心に、アカデミック、理論面からPIを補強する。「アカデミックだけで終わるつもりはない」とし、研究成果を実装につなぎ、実務から生まれた課題を再び研究テーマに戻す循環をつくる考えを示した。

総会の後半ではアカデミアと実務それぞれからの研究が報告され、東大の川崎准教授は「フィジカルインターネットの導入効果」をテーマに発表した。
川崎氏は、PIはなお社会全体への実装前の段階にあり、「導入すればどれだけコストが下がるのか、時間が増減するのか」を事前に分析する必要があると説明。シミュレーションによる事前評価をPIの社会実装につなげる必要性を強調し、PIシミュレーターの研究開発動向について紹介した。
また、実務側からは、Ryomaサプライチェーンパートナーズ(東京都練馬区)社長の武田一哉氏が「PIと物流業界構造・業界再編への挑戦―中堅・中小企業におけるバーチャル・ロールアップの可能性」をテーマに発表した。
武田氏が着目したのは、多数の中堅・中小事業者で構成される運送事業の構造だ。企業買収を重ねて規模を拡大する「ロールアップ」は、規模の経済やシステム投資、標準化を進める有力な手段となり得る。しかし日本では、買収対象として規模が小さすぎる企業が多いほか、潜在的な負債、M&A後の文化的・心理的摩擦による人材流出などが壁となり、「企業を大きくするだけではメリットが出にくい」と指摘、そこで武田氏が提起したのが「バーチャル・ロールアップ」だ。
買収、M&Aによる従来型の「フィジカル・ロールアップ」による規模拡大ではなく、データを標準化・可視化し、トラックや倉庫などの物理アセットも共有するバーチャル・ロールアップの有効性を訴えた。海外での事例を紹介しながら、企業そのものを統合するのではなく、PIの「つながる」という思想を背景に、「あたかも統合したかのように動く」ことで、規模の経済を生み出す余地があると発表した。
そのほか第1回総会ではPIAJ規約が確認され、法人会員8社、個人会員12人のメンバーで第一歩を踏み出したことが報告された。
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