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リスクハンター ユーザーインタビュー

アプリ形式の実践ツールで事故防止「次の段階」へ、大手物流S社

2018年4月16日 (月)

話題三井住友海上火災保険が倉庫内における「事故防止」の新ツールとして投入したゲーム感覚のアプリ「リスクハンター」。さっそく採用を決めた大手物流企業に、リスクハンターの導入理由、使い勝手、効果、課題を聞く機会が得られたため、今回はその内容をお届けする。登場いただくのは大手物流企業のS社の管理部門に所属するH氏と現場部門を統括するA氏のお二人。まずは事故防止の取り組みではどのようなことに課題を感じていたのかを聞いてみた。

(リスクハンターより)

――倉庫内の事故防止活動に「リスクハンター」を取り入れたと聞きました。どのような課題をお持ちだったんですか。

A氏:当社の現場はフォークリフト作業がメインとなっていますが、実際に運転するのは委託先の作業会社であるケースが多いんです。当社にも安全や品質を担当する部門はありますが、従来は現場で指導することが主となっていて、教育面の取り組みは質量ともに不足を感じていましたね。

――まったくやっていなかったという訳ではないということですが、不足を感じていたのはどういう部分で。

A氏:教育研修活動を行った場合もフォークリフトメーカーの担当者を招いて座学を中心とした講習が中心でした。現場のスタッフは「基本」に忠実な動きができていなかったり、動作がぎこちなかったりというところが見られ、これが事故につながっていたと。

特に人身事故は何とかして未然に防ぎたいという思いが強かったですね。倉庫内にはフォーク運転者以外のスタッフも多く、果たしてフォークリフトの運転者だけが研修を受ければいいのかということを考えていました。フォーク運転者にとどまらず倉庫スタッフにも現場の危険性を認識してもらうためにどうすればいいか、を検討していたわけです。

■物流企業が勝ち抜くために安全は最優先

物流企業の売上高営業利益率は、東証一部上場企業でも5%程度にとどまる。1億円の売り上げのある営業所で単純に考えると、利益は500万円。こういう事業所で事故が発生すれば、たとえ人身事故でなかったとしても、一回の事故ですべての利益が吹き飛んでしまう可能性が高い。

――現場の事故が少なければ少ないほど、会社としての競争力にもつながりますね。

A氏:経営陣からも常々「現場力の強化」に取り組むよう指示を受けていました。しかし、いざ実践しようとしても簡単なことではなく、効果的な取り組みに苦心する現場担当者が多かったといえます。

――事故の発生件数はどう推移していましたか。

A氏:課題を感じながらも、従来の取り組みによって事故件数そのものは減っていました。しかし、物流業である当社がお客様から受ける評価は「サービスのレベル」であり、まずは「安全であること」が最優先で求められます。いくらコストが抑えられていても、安全でなければ使ってもらえないのです。そういう業界に身を置く以上、現場力の底上げを図り、強化していかなければ勝ち抜いていけないと考えました。

――物流企業として、事故を減らすということが会社の存在意義でもある、と。 

A氏:そうです。こういう危機感は経営陣だけでなく、現場にもあります。当然、当社だけでなく同業他社も苦心しているところだと思う。事故防止という点から見ると、取り組みの相手は「人」だということになり、機械のように思った通りに動いてくれるものではありません。しかし、安全に対する考え方やリスクの捉え方を均質に行き渡らせるものはなかなかない。ならば、こういうリスクハンターのようなツールを試してみよう、と思い立ったのが導入のきっかけということになります。

■作業効率も安全意識も「実践による慣れ」必要

安全や事故防止に取り組まない物流企業はないだろうが、取り組んでいても人手不足という「外部環境」が、そのハードルを高くしている側面もある。 

――物流業界では人手不足が深刻化しています。一人ひとりの戦力アップが求められていますね。

A氏:どこの現場に行っても「人が集まりにくい」という話を耳にしますし、同業他社との「取り合い」が激しさを増しているようですが、入れ代わり立ち代わり新しい人材が現場に来るという環境下では、効率的で実効性のある安全教育が従来以上に重要になっているといえます。業務の難易度が高いというわけではないのですが、「慣れ」の必要な動きが少なくありません。

――事故防止に必要な知識を幅広く浸透させるのが難しい。

A氏:マニュアル化が難しいんですね。また現場からはマニュアルを読んではいても、体がその通りに動かない、という話も聞きます。座学で知識を身に着けてからそれを実践し、「できるようになる」まで何か月もかかるものがあります。物流現場では単純作業も多いのですが、それも慣れによって作業スピードが早くなるわけです。そういう「慣れ」を習得していく過程で、安全や誤出荷の防止という認識も身に付けていかなければならない、と考えています。

■傾向分析で事故防止の次の段階へ

座学による研修が実施効率という面で優れているのは間違いないが、それだけでは目的の事故防止や安全意識の高揚につながりにくい。知識の習得と実践による「体得」ができて、初めて研修の効果を得ることができるわけだが、そういう意味でゲーム感覚で危険の察知を「実践」できるのがリスクハンターだろう。

A氏:事故を減らすことがメリットになるという点で利害が共通しているため、損害保険会社が実施するセミナーに足を運ぶことが多いのですが、あるセミナーで「ここに危険がある」ことを示す写真や画像を見せられ、普段から現場にいても気づきにくいことがこんなにあるのか、と驚いた経験があります。実際の現場写真だっただけに、説得力がありました。

――実際の倉庫映像の中を動き回ることで危険な箇所を見つけていくリスクハンターは、そういうニーズに適したツールといえそうですね。

H氏:そうですね。当社では社員と作業委託会社、その作業者を対象に「こういうツールがあるので、希望者は申し出てください」と告知し、営業所などの現場ごとに申請してもらって活用しています。まだ全員が利用しているわけではないのですが、導入開始からちょうど1か月過ぎました。現場でアプリを使用した結果は、すべて管理部門に送信されます。まだ結論めいたことは言えず、現在はその成績や活用状況を集計しているところです。

――使用感について。

A氏:初めてアプリを立ち上げた時は、次に何をすべきかということにやや戸惑いました。私は考えすぎるところがあるので、映像上の細かな部分に反応しすぎてしまい、不正解判定をもらうケースがありましたね。あと、入門編という位置付けだからということだと思いますが、難易度が低めの設定だなという感想を持ちました。 

――送信される記録(成績)をどのように活用していくか、については考えていますか。

H氏:これまでのところ、現場ごとの活用レベルや成績の偏りは見られませんが、年齢別で集計した場合にベテランの成績が低く、若手や中堅のほうがいいという意外な結果が出ています。現時点でその理由は明確になっていませんが、おそらく若い人ほどスマートフォンゲームに慣れている、という側面はあるかもしれません。ベテランの場合、スマートフォンの操作に慣れていない人も少なくなく、画面上で「ここはどうなっているんだろう」と不用意にタッチしてしまい、不正解と判定されるケースがありそうです。もちろん、年齢や性別で傾向を判断するには時期尚早です。Hさんが100点でした、Bさんは50点でした――では利用のし甲斐がありません。傾向を分析して事故防止の次の段階につなげるきっかけにしたいですね。

――判断する期間についてはどう考えていますか。

H氏:現在でも、送られてきた成績は現場の長にフィードバックし、解説書と併せて本人に渡してもらっていますが、使用開始から2か月間で一定の結論を出すことになっています。期間が無制限にあると「いつか手が空いた時にやろう」となって取り組みが盛り上がらなくなる可能性もあるので、2か月という期間の中でどう活用できたかを考えるつもりです。

今回は、リスクハンターを実際に事故防止活動の一環として採用している大手物流企業のS社の話を聞くことができた。まだ結論は出ていないようだが、(1)座学だけでは効果が得られにくいこと(2)実践することで、知識を実際に見に付けていくのが重要であること(3)作業者ごとの取り組みの推移を集計・分析し、事故防止活動のレベルを高めていくこと――という目的意識は明確だ。

インタビューを通じて、倉庫内の事故防止活動で「実践」を必要としている企業にリスクハンターが適したツールであるという印象が得られた。

一方で開発元の三井住友海上火災保険の「意図」はどこにあるのか、なぜリスクハンターを開発するに至ったのか、また今後どう展開していくのか――など、開発側の話を聞いてみたい気持ちが強くなってきた。次回は、リスクハンターを開発した三井住友海上火災保険の開発担当者にアプローチし、開発に纏わる苦労話やリスクハンターに込めた思いなどについて聞く。

■参考リンク「リスクハンター」(三井住友海上火災保険株式会社)
http://www.ms-ins.com/marine_navi/riskhunter/