ロジスティクス神戸港を本拠に港湾運送を柱とした物流事業を展開してきた後藤回漕店は近年、インド、ベトナム、タイといったアジア諸国での事業拡大に注力している。海外事業では、各国と日本を結ぶ国際輸送のみならず、現地で完結するローカル物流の需要にも対応する。物流実務を現地代理店に委ねる従来型の事業モデルから、合弁会社などを通じて現地に根差した“日本流”サービスの提供にシフトすることで、海外事業の売り上げ伸長を目指す。2027年に創業150年を迎える老舗物流会社で陣頭指揮を執る代表取締役社長の後藤平八郎氏に、今後の事業戦略などを聞いた。(聞き手:編集委員・刈屋大輔)

▲後藤回漕店の後藤平八郎社長
大型設備・機械の輸出入業務に強み
──1877年に「蒸気船問屋」として創業以来、神戸港で輸出入される貨物に関連する物流サービスを提供してきました。
後藤社長:神戸港の海運貨物取扱事業者(乙仲事業者)として、輸出入貨物の通関手続きや書類作成の代行、港湾荷役、倉庫、輸送の手配(ドレージ輸送など)、輸出梱包といった業務を手がけてきた。日系大手の重工業メーカーや建機メーカーとは長い取引があり、その関係もあって、当社は発電用プラントや建設重機といった大型の設備・機械の取り扱いを得意としている。海上コンテナでやり取りされる貨物では、家電製品や家具などの輸出入に携わっている。
──現在、年間売上高は200億円で、その内訳は国内事業9割、海外事業1割となっています。
後藤社長:重工業メーカーや建機メーカーの海外進出に歩調を合わせるかたちで、当社も早い時期から韓国、中国、香港、台湾、シンガポール、欧州などに現地法人や駐在事務所を構えている。並行して各国の代理店とも協業関係を構築してきた。ただし、これまで海外事業は日系を中心とした特定のお客様との取引が中心だったため、事業の成長スピードがなかなか加速していかないという課題があった。
──しかしここ数年は、海外事業でのスタンスを変えつつあります。海外に進出する日系企業が現地での物流委託先の選定基準を見直していることも影響していますか?
後藤社長:進出先での輸入や、進出先から日本や他国への輸出に付随する物流業務の委託先として、かつては“任せて安心の日系物流会社”が指名されるケースがほとんどだった。しかし現在では、できるだけ現地の物流会社を利用する方向に各社の戦略が変わりつつある。コスト競争力を高めるのが目的だ。とはいえ、現地物流会社には日々の業務オペレーションに品質面で不安を感じているようだ。
そこで当社では、もう少し現地の物流市場に踏み込んでみよう。輸出入の領域だけでなく、現地内で完結する物流ニーズにもきちんと対応していこうという戦略を打ち出した。「現地国内でも日本のクオリティーでサプライチェーン管理やロジスティクスを展開したいのでサポートしてほしい」といった既存顧客の声に応えていくとともに、進出先の現地ローカル企業ともお付き合いしていきたい。現地で、文字通り、地に足をつけて事業を進めていくため、ローカルの有力物流会社との合弁会社設立や、地場の物流会社への出資などに踏み切った。
VMI倉庫と完成車鉄道輸送をインドで展開
──インドでは23年に同国物流大手「OM Logistics」のグループ傘下で国際物流部門の位置づけにある「OM Trans」に出資しました。
後藤社長:OMグループは、インド全土に750か所超の拠点を持ち、トラックや鉄道を活用した内陸輸送や倉庫、国際輸送サービスなどを展開する総合物流会社。当社は、出資先であるOM Transを通じて、OMグループの物流インフラや顧客ネットワークを生かして、国際物流はもちろん、倉庫や国内輸送といったサービスを提供している。
ことし8月にはインド北部で首都ニューデリーの南に位置するハリヤナ州ファリダバード近郊に2000坪規模の倉庫を開設予定だ。OM Transとしては初の自社倉庫となる同施設では、自動車部品や機械部品などを管理し、同エリアに生産拠点を構える自動車メーカーや農業機械メーカーなどのJIT(ジャストインタイム)納品や VMI(ベンダーによる在庫管理)のニーズに対応していく。現地の旺盛な需要を受けて、2026年末の開業を目指し、近郊エリアに第2号倉庫を建設中だ。さらに時期は未定だが、西部のグジャラート州でも新たに倉庫を立ち上げる計画もある。

▲インド・ハリヤナ州ファリダバード近郊に建設中の倉庫(25年8月開業予定)
──倉庫機能の提供とともに、インドでは鉄道輸送の商品化にも力を入れています。
後藤社長:OMグループが運営権を取得したハリヤナ州バワルにあるICD(インランド・コンテナ・デポ)を起点に、インド全土をカバーすることを視野に入れた鉄道貨物輸送サービスを開発し、セールスを強化している。すでに始まっているプロジェクトの1つは完成車の輸送だ。インド各地に進出している日系・外資系自動車メーカーの生産拠点から出荷される完成車を積出港(輸出港)や販売拠点(ディーラー)まで鉄道を使って運んでいる。
実はインドでも日本と同様にトラックやドライバーの不足、とりわけキャリアカー(車両積載車)不足が深刻となっている。OM Transが始めた新サービスはトラックを鉄道に切り替える完成車輸送のモーダルシフトとして機能する。
──鉄道を利用すれば、大量一括での輸送が可能になります。
後藤社長:インドの鉄道輸送と日本の鉄道輸送との違いは、そのスケールの大きさにある。完成車輸送用として運行しているインドの鉄道は1編成で貨車25-27両を連結する。1貨車あたり4-5台の完成車を積載するため、1編成でシングルデッカーの場合で一度に100-135台、ダブルデッカーだと300台程度の完成車を運べる。1編成の全長は実に600メートルにまで達し、その光景は圧巻。大量一括という意味では、これだけの規模になると輸送コストの削減効果は大きく、CO2など環境負荷軽減のインパクトも絶大だ。

▲インドでは鉄道を使った完成車輸送を展開する
液体貨物の荷役ノウハウが武器に
──ベトナムでは24年に現地大手フォワーダー「Worldwide Link Vietnam」(WWL)と合弁会社を設立しました。
後藤社長:NVOCC(Non Vessel Operating Common Carrier=非船舶運航業者)のWWLと設立したベトナムの合弁会社では、機械部品や設備機械のほか、液体貨物のフレキシブルバック輸送に力を入れている。当社にはSAF(Sustainable Aviation Fuel=持続可能な航空燃料)の原料となる廃食油をはじめ、米油やゴマ油などの液体物をフレキシブルバックで運ぶ荷扱いノウハウがある。それを生かして日本や北米向けの輸送需要を掘り起こしている。ベトナム発の液体物商材としては、飼料や食品・医薬品の原料として使用される魚油などがある。
▲ベトナムでは液体貨物のフレキシブルバック輸送に注力する
──タイでは、ラオスやミャンマーといった周辺国への越境輸送を展開しています。
後藤社長:例えば、日系メーカーから依頼を受けて、タイを起点に周辺国の大型プラント向けにメンテナンス用部品を輸送している。越境物流に強みを持つ現地の物流会社と業務提携したことで実現したサービスだ。タイから世界各国に向けた輸出関連の物流需要も開拓している。日本向けでは食品の原材料系の商材を中心に取扱量を伸ばしている。
──海外事業での目標を教えてください。
後藤社長:中期的には売り上げ全体に占める海外事業の割合を2-3割まで高めていきたいと考えている。そして最終的には全体の5割まで引き上げるのが目標。当面はアジア地域を中心に市場を開拓していく方針だ。
後藤平八郎(ごとう・へいはちろう)
1983年生まれ。2007年慶應義塾大学経済学部卒業。同年4月丸紅入社。2009年に後藤回漕店入社後、15年国際部長、17年取締役、18年常務取締役を経て、22年6月に代表取締役社長に就任。一般社団法人国際フレイトフォワーダーズ協会理事、横浜港運事業協同組合理事、京浜輸出入貨物取扱業協同組合理事などを兼任。