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検証、倉庫内危険発見アプリは事故防止の最適解か

2018年4月9日 (月)

話題中央労働災害防止協会(中労協)のまとめによると、2011年度に444件だった倉庫業の災害発生件数は、年度によって増減を繰り返しながらも増加基調をたどり、16年度は548件と、5年間で24.3%も増加した。ただでさえ人手不足による採用難が深刻化する中、事故が経営に与えるダメージは一段と大きくなっているが、倉庫内事故に歯止めがかからない状況だ。物流企業が人材を維持する上で、事故防止対策は欠くべからざる経営課題になっているといえよう。(書き手:編集部・赤澤裕介)

このような環境下で、多くの物流企業はフォークリフトメーカーなどの協力を得ながら、倉庫作業スタッフを対象とした現場研修を行っているが、「実施しているか、していないか」が問題ではなく、現場スタッフが倉庫内で何に気をつければいいのか、その情報(知識)を生かして行動できているかどうか――にこそ、注力すべき課題がある。

こうした「目的」に対し、ユニークなアプローチで登場したのが三井住友海上火災保険のアプリ「リスクハンター」だ。

講義方式のいわゆる座学だけで十分だと考えている企業は少数派であり、最も効果を発揮するのが自ら危険なポイントを探し出す「行動」とその修正を繰り返す取り組みであると考えるなら、「ゲーム感覚のスマートフォンアプリ形式で倉庫内の『危険ポイント』を探索していくという手軽に取り組めるツールでありながら、管理者側で個々の取り組みを集計し、その分析結果をフィードバックする」というリスクハンターは「最適解」となる可能性持っているのではないか。

結論からいうと、倉庫内従事者向けのゲーム感覚アプリという初の取り組みだけに「粗」はあるものの、危険箇所を探し出す意識・能力の醸成という目的に照らして考えれば、最適なツールになり得るというのが率直な感想だ。なぜそう思ったのか、筆者が自らプレイした記録を紹介したい。

■まずはアプリダウンロードとID取得

リスクハンターをプレイするために必要な作業は、開発元の三井住友海上火災保険の担当窓口に連絡し「ID」を取得すること、アプリをダウンロードすること、の2つ。IDを取得する段階で若干の手続きは必要になるが、ダウンロードした後はアプリをタッチして立ち上げるだけ、という手軽さだ。 

立ち上げ後、まずはID入力画面が出てくる。企業IDとユーザーIDの2つを入力するよう求められるが、事前にIDを取得していれば特に迷うところはない。

「OK」をタッチすると、アプリタイトルとともに、このアプリ内で「何をすればいいのか」がすぐにわかる説明書きが表示される。仮想の倉庫内を動き回り、倉庫内に潜む「注意ポイント」を8個探し出せばクリアとなるようだ。「注意ポイントに近づくと、ヒントとして虫眼鏡が出てくる」と も記されている。まずはやってみよう。

どこでもいいので、画面をタッチして先へ進むと、画面中央に「とうもろこしを持ったリス」、画面右下に倉庫内の全体図と自分のいる位置を表示するマップが映し出されている。右上には「SCORE 50」という表示もあった。まだ何もしていない段階で50点付与されていることに少々の疑問を持ったが、愛らしいリスで倉庫内を動いてみたい衝動が勝り、気にせず進むことにした。

■いきなり「NG!」で動転

スマートフォンを目線の位置に構えると、実際に倉庫内に自分が立っているような気になり、360度の周囲を見渡すことができる。どうすれば先へ進めるのだろう。

進行したい方向をタッチすればいいのだろうかと思い、少し先の床面をタッチしてみたところ、何と「NG!」と表示されてしまった。いきなりのNG表示 に気が動転し、立て続けに床面を連打する「ハプニング」に陥り、一歩も動かないまま持ち点が40点も減点される羽目になった。

どうすれば進めるのかを考えてグルグル回転していると、リスの頭上に「!」が表示され、画面内に虫眼鏡マークが登場。「これは」と思い、満を持して虫眼鏡マークをタッチしてみた。 

すると博士風のキャラクターが現れ、ご丁寧にも「保管している貨物が雑然と置かれており誤配のリスクがあります」との解説が表示された。さらに、スコアも100点を獲得している。なるほど、どうやって進行するかという課題は残されているが、怪しいと思しきポイントに近づくと、虫眼鏡マークが表示されるということらしい。 

あれこれ考えながら画面を回転させていると、矢印のような「^」のマークを発見した。これをタッチすることで先へ移動できることがわかった。

ここまでわかれば、後は残る7個の注意ポイントを発見するだけだ。

■数人でプレイすれば競争心の芽生えも

スマートフォンの画面を凝視しながらも、何とか8個の注意ポイントすべてを無事発見し、ポップコーンシャワーに祝福されると「結果」が表示される。立ち上がりの失点のことは忘れ、清々しい気持ちで成績をチェック。スコアは800点、ミスが5回、所要時間は25分38秒だった。いいのか悪いのか、一人でプレイしたため判断できないが、何人かでやってみると、おそらく密かな競争心も芽生えるのではないだろうか。 

プレイ後、まず思ったのは意識せずに感情を移入してしまっていたということだ。自然に仮想の倉庫内に自分が立っているような気持ちになり、気がつけば倉庫内の危険箇所がどこにあるかを探していた。

倉庫内で「どういう状態が危険なのか」という経験や座学で得た知識を生かせば、難易度は高くないだろう。危険なポイントを探し出し、自分の知識を確かめるに、現時点でこれほど適したツールはないという印象を持つことができた。

あくまで事故防止の実践ツールであり、決してゲームとして取り組むことはおすすめしないが、座学中心の事故防止研修を実施している物流企業なら、導入しない理由は見当たらないというのが率直な感想だ。

開発元の三井住友海上火災保険によると、リスクハンターを事故防止研修用のツールとして導入・活用する物流企業が増えているという。次回は導入企業を取材し、採用した経緯、使い勝手、効果などを聞いてみたい。

■参考リンク「リスクハンター」(三井住友海上火災保険株式会社)
http://www.ms-ins.com/marine_navi/riskhunter/