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物流停止回避へ気象会社のリスク分析活用

2021年2月12日 (金)

環境・CSRこの冬、大雪による大規模立ち往生が注目を浴びた。高速道路でも積極的に予防的通行止めを実施する方針や、準備不足の大型車両に対する監査強化の方針が示されたほか、運送会社による冬用タイヤの管理体制にも手が加えられた。

▲2020年12月に関越道で発生した大規模立ち往生の様子(出所:国交省)

しかし、こうした対応に不満を漏らす事業者も少なくない。LogisticsTodayの取材先では、複数の運送会社が立ち往生に発展する危険性を認識していたにもかかわらず、荷主に輸送を強要されたために立ち往生に巻き込まれていた。運送会社の運行管理者からは「予防的通行止めには賛成だが、直前では対処のしようがない」「しっかり準備するのは運送会社の責任。しかし、輸送を強要する荷主にも責任を負ってもらわないと同じことが繰り返される」と話す。このほか、昨年2月に国交省が定めた異常気象時の対応目安について言及する会社もあったが、「あくまで目安。実効性があるとは思えない」と、冷ややかな意見が聞かれた。

こうした自然災害による輸送トラブルは冬場の大雪に限ったことではなく、台風や大雨、大規模停電などでも引き起こされる。近年は「数十年に一度」クラスの自然災害が多発しているのだ。

■気象予測とリスク分析で輸送トラブルを回避

▲ウェザーニューズ陸上気象事業部輸送気象チームマーケティングリーダーの川畑貴義氏

一方、より詳細な気象予測を事前に入手することで、サプライチェーン全体で輸送トラブルを回避する動きも広がっている。企業向けにアレンジした気象予測やリスク分析情報を提供するウェザーニューズ社の陸上気象事業部輸送気象チームマーケティングリーダー・川畑貴義氏によると、同社のサービスを利用する企業からは「荷主や元請けに対し、しっかりとした根拠を持って輸送中止や計画変更の提案ができるようになった」という声が届いており、災害リスクに対するサプライチェーン全体の受け止め方も変わってきたという。

川畑氏が所属する輸送気象チームでは、1週間先までの災害リスクや輸送ルート上の通行障害リスク情報を提供するだけでなく、代替輸送ルートや代替輸送手段の推奨まで行う。同社の気象情報は、公的機関の大局的な観測データと、1万3000か所にものぼる独自の観測インフラに加え、会員から届く1日18万通の天気・体感報告によって構成される。局地的な予報に対応していることと、その予報精度の高さが売りだ。また、精度の高い局地予報と実績の積み重ねによって得られた地域別・路線別・拠点別のリスク分析は高く評価されており、可能な限り計画通り運行したい運送会社がギリギリのラインを見極める材料となっている。

また、最近では物流拠点の事業継続計画(BCP)に同社のサービスを利用する企業も増えた。拠点ごとに異なる被災リスクを事前に把握し、非常用発電機や防水板を準備する目安にしたり、従業員の出勤可否や拠点閉鎖を判断する材料にしたりするという。

▲路線別気象リスク分析のイメージ(出所:ウェザーニューズ)

■2014年の首都圏大雪で「輸送気象」始動

同社は、1970年に福島県・小名浜港で発生した爆弾低気圧による貨物船沈没事故をきっかけに設立。海洋気象の専門会社として、気象情報だけでなく、もっとも安全で経済的な航路を海運会社に推薦するサービスを開始した。この”専門気象情報+α(アルファ)”のサービスは、データを活用した経営が一般化するに連れてあらゆる産業に広がり、44の産業・市場で重宝されるに至った。

44の市場のうち、物流に直結するものだけでも「航海気象」「海上気象」「物流気象」「航空気象」「道路気象」「鉄道気象」「輸送気象」「施設気象」「流通気象」など10以上のカテゴリーが生み出され、各専門チームが企業の運行管理者や施設管理者、販売計画担当者に対して気象・海象予報やリスク予測、需要予測などの”専門気象情報+α”を提供している。

(イメージ、出所:国交省)

このうち輸送気象は、2014年に首都圏を襲った大雪をきっかけに始動した。川畑氏は「あの大雪の後、あるトラック輸送事業者から気象情報の活用を検討したいと問い合わせがあり、これをきっかけにして陸上輸送向けのサービスが動き出した。当初は幹線輸送の会社が中心だったが、近年の災害激甚化によって地域配送や倉庫事業者にも利用されるようになった」と振り返る。

この冬、決して十分とはいえないものの、行政や高速道路会社による自然災害に対する取り組みが進められた。道路を利用する運送会社もそうだが、なによりサプライチェーン全体で激甚化する自然災害に対する備えを進めることが求められている。

▲ウェザーニューズの観測チーム