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委託するのか自社でやるのか(前編)/解説

2021年2月15日 (月)

財務・人事企業の物流業務は外部委託が主流だ。物流を内製化するなど考えたことすらない——言い回しや理由付けの順番に違いこそあれ、どの企業も似たような実態や本音を抱えている。

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https://www.logi-today.com/420174

配送を自社でやろうと思わないように、倉庫業務も自社でやる気はない。倉庫と作業人員確保に費やす労力はないし、売ること以外にエネルギーを散らしたくない。人手不足や長時間労働が問題になる物流や製造現場の難所に、自ら踏み込む気はないし、既存スタッフの負担やそのための新規採用も重すぎて検討する気になれない。
そんな会社が多い。特にEC専業では圧倒的多数を占める。

「自炊は面倒だ。メニューを考え、そのレシピの確認、具材の買い出し、調味料の常備、事後の片づけ、材料が残れば処分に困る。その割には大した料理が作れない。キッチンやダイニングルームの清掃や設備の管理維持も気が重い」という感覚に似ているし、「外食は楽でよい。お金さえ出せば美味いものも食べられるし、準備や後片付けや毎日のメニューに煩わされることもない。何といっても自炊より割安で、自宅の台所が汚れたりもしない」という理屈に近い。

(イメージ画像)

しかし問題の根は何も解決していない。

なぜなら内製や委託の別にかかわらず、その企業の物流業務にかかわる労働力の絶対量は存在し、世の中の人手不足や労務順法の監視強化、労務コストの上昇は続くからだ。

外部委託を採用している企業の経営自体が「本当に楽になっているのか」にも疑問は多い。
EC専業の事業者は、物流を内製化しやすくコスト圧縮が簡易なのだが、実態は真逆の傾向にある。気付いていないのか、余剰コストを受忍しながら委託に甘んじているのか、の比率は不明だ。
比較の試算ぐらいはやってみてもよいのではと思うが、そんなハナシはあまり聞かない。

——自社業務に必要な実労働の総量とその費用は実在している。
——そんな基本的なことなど、言われるまでもなく承知している。
——しかし、誰がそれをどのように負担するかの具体・詳細を考えたくない。
——物流を外部に出せば、面倒で厳しさを増す難題からとりあえず逃避できる。

のような経営層の本音が聞こえてきそうだ。

(イメージ画像)

考えるべき優先順位の上位に置けない経営心理も察するに余りある。自分たちが社外に移した物流業務に必要な倉庫や車両や設備や維持諸経費さらには人件費・労務費・福利厚生費、募集・採用コスト、は委託先がすべて負担している。

正しくは一時的に「立替払い」をしてもらうことになっただけで、すぐに自社コストとして請求が回ってくる。そんな毎月の支払い、「委託のほうが自社でやるより安い」と信じて疑わない経営者は多いが、実際の比較を正しく試算した上での判断なのかは大きな疑問だ。

「自炊は手間がかかって、高くつく割にはたいして美味くない」
「外食は簡単で、安いうえにそこそこ美味い」
「自宅で料理すれば、この値段でこのメニューは到底無理だ」

という具体的な比較検証を経ない根拠不明の思い込みと似ている。

「現場作業は低賃金で労働力が買える」、という時代はずいぶん前に終わっている。「倉庫業務は委託したほうが安くて品質が良い」「倉庫業は多能工化と複数荷主の業務への従事によって、内製では不可能な人件費の効率運用」というのは妄信に過ぎる。

内製でも多能工化による人材活用は可能だし、目標ではなく必達事項のはずだ。
しかし議論のテーブルに載せる企業は少ない。検証方法がわからないという理由に先んじて、まだ危機感のピークに遠いからなのではと考えてもみるが、いったい何が荷主企業側の偽らざる本音なのかは不明なままだ。
(後編に続く、企画編集委員・永田利紀)