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委託するのか自社でやるのか(後編)/解説

2021年2月16日 (火)

財務・人事倉庫会社に業務を委託すれば、身軽で気楽にはなるだろう。

しかし、労務費や人員維持経費の「かなり割増」された金額が請求書の中に紛れ込むことは必定。上昇する実費に「手数料」と「利益」が乗せられているからにほかならない。

委託するのか自社でやるのか(前編)/解説
https://www.logi-today.com/420184
富士山MS、新たな配送・倉庫パートナー探す方針
https://www.logi-today.com/420174

昨今では、労働環境改善や労務法制の順守が倉庫業にも重くのしかかっている。
「同一庫内に複数荷主を抱え込んで、それぞれの業務を何人かで掛け持ちさせているので人件費の無駄が出ない」という倉庫業の安さの裏付け説明を、そろそろ眉に唾を付けて聴かなければならない。実際には手待ちの多発や出勤後の勤務時間調整などをかなり雑に行っているケースが多いからだ。

(イメージ画像)

近年、なぜ物流現場が荒れてきたのか?
それは作業人員数の不足よりもはるかに深刻な「管理者人材の不足」に因るものだ。
「物流会社は所長商売」といわれるゆえんが現状を知れば理解できる。優秀な現場管理者の不足に歯止めがかからない今、物流会社の業務品質の維持は、高額なコスト拠出による設備依存に向かわざるを得ない状況に陥っている。

管理者の不足や未熟さが生み出す悪循環は物流コストの上昇に直結する。
たとえば、過度の出勤調整のせいで人が辞める現象が続けば、以前のようにかつかつの人員配置や、「今日は仕事少ないから、〇時に上がって」のような見切りは難しくなる。つまり歩留まりが悪化するということだ。

人件費の高騰は、最低賃金の上昇や現業忌避に対処するための優遇条件設定に加え、労働環境整備と業務密度の緩和による費用効率の低下に因るところが大きい。
出口として「荷役」にかかわるコストが軒並み上昇する。請求元である物流会社は、当然ながら保管料と配送料のような相場情報が取りやすい項目には薄い利しか乗せない。その2項目が高いと「全部割高なのでは?」などの疑念を顧客に抱かせるからだ。

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中小零細企業にとりわけありがちな「自社でやると面倒で手間だから」という動機と選択の代償として、2割、3割、時には4割以上を上乗せされた「外食費」を払い続けていることが多い。大手企業といえども、比率の差こそあれ類似する中身になっているはずだ。

ある中小企業の配送料を除く物流実費が月額500万円なら、実際には委託先に600万-700万以上支払っている。中堅企業クラスなら、一桁あがって5000万円程度を想定したところで、表面的な歩率が下がるだけだ。ましてやそれを「スケールメリットによって割安」と表現するのは奇妙でしかない。

ちなみに書き添えるが、上記内容を特別割高な請求とはまったく思わない。まともな経営状態の営業倉庫会社なら普通の粗利率だろう。
ただし支払う側が1年間の差額を暗算してみれば、毎度銀行に深々と下げている「社長の頭の値段」と同じくらい、ということもあるのでは?
のような視点も無下にはできないし、それを何年続けているのかも同時にお考えいただきたい。

物流機能を社内業務から外して「売り一色」の機能集中。
その「機能集中に必要不可欠と信じている差額」を半分以上回収できる売り上げの積み増しが見込めるなら、外注は正解といえる。
「半分以上」の根拠は、内製化すれば初期投資回収期間が必要になるし、巡行状態でも外部委託先の作業原価と横並びまで圧縮する必要はない——物流を生業としているわけではないので、品質とコストのバランスが取れた一定の事業寄与が評価できれば十分だからだ。

(イメージ画像)

そしてもうひとつ再確認しなければならないのは、「差額」がマイナス計上される項目は売上でも営業利益でも経常利益でもない点だ。

まぎれもない「純利益」なのだと、今一度あらためてご認識されるべきと申し上げる。毎月100万円の純利益を得るための必要売上額はいくらなのかを計算してみれば、現状の評価ができるはず。「たいしたことはない」と言える中小企業があるのだろうか。

言い換えれば、現状の売上のままで大きな利益が出せる選択肢が残されている。不肖ナガタ的表現では「物流の含み益」となる。ただし不動産や有価証券と違って、具体的な行動を起こさなければ、毎月消えてなくなってしまう点がもったいないことこの上ない。

委託先を選ぶことが「最安値を探す旅」にすり替わっている企業は少なくない。
無論だが、かような実態は好ましくないと考えている。
その解決には「自前物流とは」「自社の物流規格」などの視点が必要だ。物流委託と自社物流のいずれを選択するかの判断基準は自社でしか設けられない、と言い換えてもよいだろう。
委託でも内製に近い状態を設計・維持管理できるはず――それは改めて別稿で記すことにしたい。(企画編集委員・永田利紀)