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地域健常化なくして持続可能な物流ならず

2021年3月2日 (火)

環境・CSR企業のBCP(事業継続計画)に「疫病」という文字が新たに追加され、詳細な運用内容が記述されるようになった。新型コロナウイルスの流行がもたらしたものは、働きかたそのものの改変だけにとどまらず、企業の組織や機能の再構築にまで及んでいる。今回の厄災を契機に変われない企業、つまり組織や経営判断手順の根底からの再編に着手できない組織の往く手には暗雲垂れ込める予感がしてならない。

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事業所という箱に居ついていた業務は、切り離しても支障ないことの実証を経て、緊急措置や時限運用ではなくなろうとしつつある。そうせざるを得ない事情がコロナ禍だった。そして、緊急措置の数々は想定の内外にかかわらず、厄災を経て平常の日々に戻っても、継続運用されるものが多い。

そうなると今まで都市中心部に集中していた労働場所や労働人口が、従業員の住まう住宅地などの周辺部に分散分布する。結果として、天災時と同様に、地域機能の継続が企業の事業継続や再稼働に極めて重要な点として注目されるだろう。さらに、注目されるだけでなく、有効な運用方法と労務適用が練られて進化するはずだ。

■事業継続は地域の機能継続あってこそ

ネットワークとそれを利用する数々のビジネスツールによって、距離や場所を問わない方法論の実用化が拡大し続けている。筆者は「事業継続は地域の機能継続あってこそ」と別の記事(https://www.logi-today.com/369319)でも説明したが、今回のコロナ禍における企業動向を観察していると、その本質は同じだとわかる。

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都心部への通勤や会議、催し物などを回避して、出社率を下げたとしても、テレワークやサテライトオフィスの環境で防疫や感染防止が行き届いていなければ、いかなる体制変更も奏功しない。自宅や近隣施設での分散労働を成立させる条件は、その地域が隔絶や隔離指定されることなく、商業や交通が稼働していることだ。

特に物流現場の労働力の源となる倉庫立地の近隣地域が防疫と密回避による流行抑制措置に徹していなければ、たちまち罹患者が増加し、現場労働力の不足に至ることはあきらかだ。

再び書き記したいのは、「疫病の流行を含む災害対策は自社の事業継続のためだけに施すのではない」ということだ。すべての企業が足並みを揃え、防疫と収束後の復旧対策を「点や線」でなく事業や社員の生活がかかわる地域まで含めた「面」で講じない限り、個々の準備や施策は効果を得られず、結果として事業に寄与しない。

もし感染爆発が頻発し、各地各施設で罹患者急増の事態に見舞われれば、個々の物流倉庫の稼働云々やその倉庫が担っている一部の商流維持などは優先順位の論外になる。一企業や一業種が頑なに稼働を追求したとしても、係る先や顧客企業に感染者が多数出ていたり、人の往来や商業施設や公共施設の運営に規制や制限が施されていたりすれば、消費活動をはじめとする経済は常態ではなくなる。それゆえに、まずは自宅、次いで近隣、そして地域全体というふうに、個の抑制や予防の集合体を維持することこそが、最も有効で人や場所を選ばぬ簡易な対処であるはずだ。

■最大の損失は帰属意識の変質

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もちろんだが、防疫に有効な設備や器具などの活用は積極的に取り組まなければならない。ウイルス防除や密回避の助けとなる仕組みや利器を、企業の事業継続費用として従業員とその家族に支給すれば、結果的にはコスト以上の効果が見返りとして期待できる。

最大の損失は、疫災による事業停滞ではなく、従業員やその家族の罹患に端を発する「企業への帰属意識の変質や疑問」だ。天災ともいえる疫病がもたらした「日常のもろさ」を思い知った企業人の多くは、会社と個人の距離や位置関係の再考をするかもしれない。そんな内面の変質や不安定化を回避するためにも、企業の経営層は従業員の居住地域や拠点地域の状況把握と、相応の個別対処策を講じたうえでテレワーク導入を進める必要がある。

事業を支える人を最優先にできない企業に未来はなくなるという古来ゆかしい言葉を反芻(はんすう)するべき時が今なのではないだろうか。 ここまで書いて痛感したが、こんなことは新型コロナウイルスの流行以前に、皆で議論しておかねばならないことではなかったのかと思う。コロナ禍の対処にとどまらず、われわれの働きかたや生き方の再考についても、経営が率先する継続事案となればいいと願う。(企画編集委員・永田利紀)