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著名建築家とのタッグで鉄鋼団地の景色を変える

アライプロバンス浦安がGデザイン賞を狙う理由

2021年7月30日 (金)

話題無味乾燥でくすんだ街並みを、大型トラックが走り抜けていく。湾岸エリアの鉄鋼団地と聞くと、普通はそんな風景を思い浮かべるだろう。しかし、昨年7月に金属加工業から総合不動産業に転じたアライプロバンス(東京都墨田区)は、そんな千葉県浦安市の鉄鋼団地に建設中の、初の賃貸物流施設「アライプロバンス浦安」を取り巻く景観で、日本デザイン振興会が主催する「グッドデザイン賞」の獲得を目指す。

▲(左から)アライプロバンスの新井専務と建築家の菅原氏。菅原氏の建築事務所に併設するカフェにて

外構部のデザインを、著名な建築家でクリエイティブディレクターの菅原大輔氏に依頼。敷地内には3種類の庭園などを整備して、同施設で働く人々がリラックスできる空間と景観を演出するという。

「無機質、3Kといった物流業界のイメージを変える、明るくスタイリッシュで、わくわくするような施設にしたい」と語るアライプロバンスの新井太郎専務と、「アライプロバンスの強い思いに新しい精神性を感じ、無機質な鉄鋼団地に憩いの場のある物流施設を作りたいと思った」と語る菅原氏に、同施設のデザインコンセプトや注目すべきポイントを聞いた。(編集部)

鉄工所の跡地で「何か面白いことを」

アライプロバンス浦安は、1903年に創業した同社の前身の「新井鉄工所」が浦安鉄鋼団地で操業していた工場の跡地に、ことし10月末に完成する。地上4階建て・延床面積3万4581.17平方メートルのマルチテナント型物流施設で、浦安市内では2008年以来の大型開発物件となり、「第2の創業」を果たしたアライプロバンスにとっては、初の大型プロジェクトになる。

▲アライプロバンス浦安の完成イメージ

浦安鉄鋼団地は日本最大の鉄鋼団地で、華やかな東京ディズニーリゾートの近くにある。しかし鉄鋼団地そのものの景観は、やはり無味かつ殺風景で、木々の緑などを見ることも少ない。新井氏が、そのような景観を一変させるべく「新たなアイデアで、大手にはできない、何か面白いことをやってみたい」と考えていた時に、同施設の施工を担当していた西松建設から紹介されたのが菅原氏だった。新井氏は菅原氏と出会ったことで、当初は計画していなかった外構部のデザインを決意し、目標としてグッドデザイン賞の獲得を掲げる。

▲菅原大輔氏

菅原氏は2004年に一級建築士の資格を取得し、これまでに国内外で30以上の賞を受賞。手掛ける領域は建築にとどまらず、東京都港区などの景観アドバイザーを務めるほか、世界的なファッションブランドのルイ・ヴィトンのポップアップストア(宣伝目的で短期間に出店・退店する店舗)や、岩手県陸前高田市の仮設住宅団地など、幅広いフィールドで活躍を続けている。ただし物流施設に本格的に関わるのは、今回が初めてという。

アライプロバンス浦安のプロジェクトを引き受けた理由について、菅原氏は「臨海エリアのある港区の景観アドバイザーや、工業団地へのアドバイスなどを経験してきたが、初めて細かい設計にまで携わることができる貴重な機会だった。元は鉄工所だった土地の歴史や価値を、新たに問い直してみたいと思った」と語る。「カッコいいだけのデザインではダメ。そこに歴史や文化や思いが感じられないと、長く残るものにならない」と考える新井専務とは、「見ている方向が一緒だと感じた」という。

それぞれの「庭」に込める思い

▲接道面のバス待合所と「道の庭」

デザインの目玉は、何といっても3つの庭園だろう。このうち路線バスの停留所「アライプロバンス」の待合所を含む「道の庭」は、徒歩で通勤・来訪する人が必ず目にする、言わば同施設の顔となる。菅原氏によれば「ほっとするような安らぎを感じる場所」を目指すとともに、敷地内から待合所へと抜ける長屋門風のゲートを構え、「街に向けた意志」を示したという。ゲートの仕上げには、工事で発生した残土を利用する予定で、SDGs(持続可能な開発目標)に取り組む姿勢も表す。

▲施設前のトラック待機場に隣接する「四季の庭」

待合所と本館の間に設ける「四季の庭」は、「物流施設が『物があるだけの場所』ではなく『人が存在する場所』としての価値を取り戻す」ために、四季折々の花々で敷地内の風景に彩りを添える。道の庭から見て建物の裏手に位置する「海の庭」については、単なる裏庭ではない同施設のもう1つの顔と位置付け、東京ディズニーシーと同様の植生でトロピカルな雰囲気を演出する。

▲東京湾に面する「海の庭」

海の庭には、開放感あふれる海にせり出したテラスを設けて、ランチなどのひとときを楽しめるようにする。このスペースについて菅原氏は、「臨海地区とはいえ、落ち着いて海を眺められる場所は多くないので、人気スポットになると思う。このようなスペースを少しでも造ることが重要」と主張。「同じ時給の仕事が複数あれば、魅力的なスポットなどがある施設での仕事が選ばれる。人材確保の面でもメリットが大きいのでは」と期待を示す。

働く人々への配慮はますます重要に

▲新井太郎専務

物流施設が著名な建築家を起用することについて新井専務は「やるからには一流のクリエイターとタッグを組み、斬新な発想のランドスケープを創造したいと考えた。近年では働く人々の満足への投資が理解される時代に変わってきている。今後もそのトレンドに変わりはない」と確信的に語る。実際に、6月の内覧会で実施したアンケートでは、8割以上の来場者がポジティブな反応を示し、「こだわりを感じる、今のニーズを捉えた物件」といった評価も得られたという。

新井専務の意見には菅原氏も同調し、「働く人々へのホスピタリティに関する取り組みは、すでに多様化の時代に入っている。今後は働く人々の住む家から近いか遠いか、女性が多いか男性が多いかといったことまできめ細かく配慮し、ホスピタリティを取捨選択していくこともトレンドになりうる」と主張する。また、それらの取り組みが、テナントの求人の訴求力や、確保した人材の定着にも大きく影響するとの見方を示し、「そのような取り組みをしていない物流施設は、これからかなり厳しくなるのでは」と指摘する。

新井氏は初めての物流施設開発に当たり、働く人々の声や思いをすくい上げるために、他社の物流施設を徹底的に見学したほか、施工主で物流施設の開発に長けた西松建設に多くのアドバイスを求めたという。同社については菅原氏も「コストなどを巧みに調整しながら、新井専務の思いと私の設計をしっかり受け止めていただいた」と評価する。

菅原氏は3者による今回の取り組みを「奇跡的なワンチーム」と表現する。その果実としてのアライプロバンス浦安は、無味な鉄鋼団地の風景をどのように一変させるのか。10月末の完成が楽しみだ。

「アライプロバンス浦安」物件概要・問い合わせ