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ヤマト、きょうからEC返品を簡単にする新サービス

2021年8月26日 (木)

ロジスティクスネット通販(EC)向けの宅配サービスを強化しているヤマト運輸は26日、ネット通販で購入した商品を返品する際の購入者の利便性を高める取り組みとして、英国企業のドドル・パーセル・サービス(ロンドン)が運営する返品システムと自社の配送網を連携させた新たなサービスをはじめる。

新サービス「デジタル返品・発送サービス」は、通販事業者側が導入することで購入者が利用できるようになる。26日のサービス開始と同時に、アパレルメーカーのギャップジャパン(東京都渋谷区)が自社運営の通販サイトGap(ギャップ)とBanana Republic(バナナ・リパブリック)の公式オンラインストアに導入し、デジタル返品・発送サービスの利用を開始する。

サービスの導入から利用までの流れ(出所:ヤマト運輸)

アマゾンなど一部の大手通販サイトでは返品手続きの簡略化が進んでいるものの、自社製品の直販サイトや中小規模の通販サイトの多くは、購入商品の返品時に電話による返品先の確認、手書きによる伝票の作成、指定された店舗へ持ち込みといった手間がかかり、販売した事業者側も返品処理時に発生する業務負荷が大きい。

ヤマトの新サービスは、返品手続きと業務をデジタル化することで、電話による返品依頼や伝票作成にかかっていた手間などの返品手続きを簡便化し、最寄りの宅急便センターやPUDO(プドー)ステーション、一部のコンビニエンスストアなどで伝票を作成することなく返送できるようにするもの。

通販事業者は、返品処理時に発生する業務を効率化できるほか、返品受付サイトの構築を含めたパッケージでサービスを利用するために初期コストを抑え、短期間で利用を開始できる利点がある。

通販事業者がサービスを導入するには、購入者が返品手続きを行う際に情報を入力する項目、通販サイトのデザインなどを設定し、返品受付サイトを構築するとともに、同サイトのURLをECサイト内、納品書、返品を希望する顧客に送付するメールに記載し、返品受付サービスの存在を購入者に知らせる必要がある。導入費用は個別見積もり。

購入者側は、通販事業者から案内を受けた返品受付サイトのURLに接続し、注文番号とメールアドレスを入力。案内に従って購入した商品の受取日、返品理由、名前、住所といった必要な情報を登録し、発送方法を「発送可能な店舗などへの持ち込み」か「自宅集荷」から選択。荷物を梱包し、受付場所で二次元コードを提示して返品手続きを行うか、自宅集荷の場合はセールスドライバーが集荷の際に印字済みの配送伝票を貼り付ける。EC事業者は、顧客の入力情報を管理画面から確認して返品処理を行う。

ヤマトでは「今後もドドルと連携し、返品領域での物流のデジタル化を加速させ、EC事業者、利用者、物流事業者にとってより付加価値の高いECエコシステム構築に向けた取り組みを進める」としている。

ギャップジャパンの「らくらく返品受付サイト」
https://www.return-portal.co.jp/gapinc

「返品」も顧客サービスの一環として捉える意識改革の成果

ヤマト運輸が、EC商品の返品を簡易化するサービスを開始した背景には、返品をストレスなく受け付けることで、業界内の差別化を明確にするためだ。従来、注文者の返品に対してはコスト負担や輸送効率の悪化などの理由から、積極的なサービス展開を実施してこなかった。しかしながら、消費スタイルの多様化や新型コロナウイルス感染症の拡大に伴うEC市場の拡大が進むなかで、返品行為もサービス対象とする動きがアマゾンなど一部宅配業者で広がってきたことから、そこに新たなビジネス機会を見出した格好だ。

特に国内で顕著な傾向として、返品は「悪しき行為」と考える注文者も少なくないという。ヤマトなど宅配事業者も、配送サービスの強化に経営資源を投入する一方で、返品への対応については事実上、力を入れてこなかったのが実情だ。しかし、通信販売サービスがコロナ禍を契機に急拡大するにつれて、返品需要が本格的に高まってくると、いよいよ宅配事業者も無視できなくなってしまったのが本音ではないだろうか。

いずれにせよ、商品の購入は正当な商取引であることを踏まえれば、返品も立派な経済行為だ。これまでの消費スタイルや商慣習がICTの普及やコロナ禍を契機に崩壊していくなかで、返品プロセスにビジネスチャンスを見出したヤマトの経営姿勢は、時流に即した判断と評価したい。(編集部・清水直樹)

※編集部追記
記事内容に誤りがあったため、修正いたしました。(2021年8月28日)