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日本GLPの物流支援サービス「GLPコンシェルジュ」[前編]担当部長インタビュー

入居企業の悩みを「人間力」とネットワークで解決へ

2022年5月10日 (火)

話題「地域との共生」を旗印に、街づくりと一体化した物流施設開発を展開している日本GLP(東京都港区)。マーケット特性に応じた物流施設を全国に次々と展開する大胆さとともに、地域コミュニティに配慮した施設運営にこだわる繊細さ。硬軟を織り交ぜたプロジェクトの発想は、次世代の物流施設開発のあり方を提示する取り組みとして、業界の注目を集めている。

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物流不動産業界のトップランナーである日本GLPには、施設開発以外にも顧客の心をつかんで離さない秘策がある。物流業務に関わるさまざまな悩みや課題を解決に導くサービス「GLPコンシェルジュ」だ。日本GLPは、入居企業をはじめとする取引先の物流ビジネス環境をより良くするための施策として、2021年4月にサービスを導入。施設運営者と入居企業、パートナー企業らが連携することで、物流に従事する企業が抱える現場の課題を”人間力”と強力なネットワークで解決する取り組みとして話題を呼んでいる。

GLPコンシェルジュが誕生してはや1年。「新しい生活様式」の時代を見据えた物流サービスに対するさらなる高度化・最適化の要請が強まるなかで、日本GLPはこの画期的なサービスを今後どう位置付けていくのか。GLPコンシェルジュのサービス設計や運用を主導する営業開発部の小鷲博之部長に聞いた。(編集部・清水直樹)

営業担当者の経験を「形」にして誕生したGLPコンシェルジュ

物語は2年前の4月末にさかのぼる。営業管掌の役員とともに、小鷲氏はある命題に向き合っていた。「競合他社が急増する中、圧倒的な差別化を実現するためにはどうすれば良いか?」。3か月後、そのプランは社内会議で承認され、その場でトライアルに移行することが決まった。「さまざまな物流の悩みをワンストップで解決」するGLPコンシェルジュが誕生した背景には、参入が相次ぐ業界のなかでマーケットリーダーとしてノウハウを積み重ねてきた日本GLPにしか成しえない「差別化」戦略があった。

▲日本GLP営業開発部長の小鷲博之氏

――こうした戦略を講じるうえで「コンシェルジュ」サービスに着目したのはなぜですか。

小鷲 私を含めた営業担当者は、日々の営業活動の中で顧客からさまざまな相談を受けます。倉庫のスペースが足りない、もしくは余っているといった床に関する内容をはじめ、労働力の確保やラストワンマイルの強化、作業の省力化、資機材の調達など、その内容は多岐にわたります。こうしたやりとりのなかで、先方が抱える物流ビジネスの悩みや葛藤を打ち明けられることも少なくありません。営業担当者であれば、多少なりともこうした経験はあるものです。こうした物流現場の”生の声”に真摯に向き合うなかで、「日本GLPとして何か力になれることはないか?」と考え始めたのが、GLPコンシェルジュという新たなチャレンジの出発点でした。

――コンシェルジュサービスの開始にあたって整理した点や、掲げているコンセプトがあれば教えてください。

小鷲 GLPコンシェルジュを立ち上げる前からも、営業担当者が個人レベルで取引先の相談を受けていた事例は存在しました。しかし、我々はこうした取り組みを属人的なものではなく、日本GLPとして組織的・体系的に展開すべきだと考えたのです。大規模多機能型物流施設「ALFALINK(アルファリンク)」がハード面での施策であるのに対して、「GLPコンシェルジュ」は、いわばソフト面の差別化戦略と位置付けられます。「日本GLPの施設に入居すれば、その後も物流業務で生じるさまざまな課題の解決をサポートしてもらえる。新たなビジネスが生まれて、売上や利益の向上も見込めるかもしれない」。そういった”価値”を感じていただく好機と捉えました。当社社長の帖佐義之も、しばしば「日本GLPは物流業界の応援団になる」と語っていますが、まさにこれがGLPコンシェルジュのコンセプトでもあると言えます。

――日本GLPはコンシェルジュサービスを事業として位置付ける考えはありますか。

小鷲 21年度までは営業活動をバックアップする施策と位置付けて、顧客の反響を探ってきました。まだ誕生して間もない成長過程にある取り組みですが、手応えは感じています。サービスレベルをさらに充実させコンシェルジュサービスのバリューを磨き上げるとともに、利用者の利便性も向上させることで、事業化することも可能と考えています。22年度はこうした事業化についても検証を始める予定で、新たなビジネスの創出につなげるチャンスにしていきます。

形にならない悩みを聞き取る「人間力」がGLPコンシェルジュの真骨頂だ

GLPコンシェルジュが始まって1年。サービスの開始前に描いていたイメージとは異なる発想も生まれてきているという。そこには、先進的物流施設の開発を精力的に進めるマーケットリーダーには似つかわしくないようにも思える「泥臭さ」が浮かぶ。こうしたギャップこそが、日本GLPの演出する「奥深いサービス」なのだろうか。

――GLPコンシェルジュの本格運用がスタートして1年あまり、日本GLPにおける「顧客の声を聞く」マインドは高まりましたか。

小鷲 大きな手応えを感じている、それが率直な印象です。これまで営業担当者の個人レベルで取り組んできた相談対応が、コンシェルジュという具体的な形で展開されるようになったことで、悩みや課題の相談を受けてから解決に導くプロセスをスムーズに実行できるようになったと実感しています。GLPコンシェルジュの推進メンバーに限らず、日本GLPの営業担当者1人ひとりがこうした相談を受ける大切さをより強く認識するようになりました。倉庫の空きスペースの運用や、オーバーフローしている荷物の逃がし先の探索、ワーカーの確保や資機材の調達といった幅広い相談を、迅速に社内で共有する・共有し合う仕組みが根付くなど、相乗効果も確実に生まれています。

――実際に運用したことで得られた”気付き”などがあれば教えてください。

小鷲 GLPコンシェルジュはまだまだ対応力、解決力の向上に努めている段階ですが、活動を通じて見えてきた側面があります。それは、コンシェルジュに寄せられる相談は、我々の想像以上に「漠然とした」内容のものが多いということ、つまり、具体的な「形」になる前の、言うなればモヤモヤした葛藤の状態でコンシェルジュに相談が持ちかけられるケースが多いということです。一般的なソリューション型のサービスと言えば、「具体的な悩みや課題に対して解決法を提示して解決につなげる」との図式で考えがちですが、現実にはこうした悩みや課題さえも明確化・言語化できない相談が多いのだと実感しました。むしろ、コンシェルジュの役割はこうした「漠然とした相談」をしっかりと受け止めることができる人間力、つまり「アナログ」の対応力が求められるという点を強く感じました。

――コンシェルジュの役割、それは課題解決だけでなく「話を聞いてくれる相談窓口」でもあるということですか。

小鷲 その通りです。コンシェルジュは、「1分1秒、親身になって悩みを聞いてくれる」場所であることが必要です。コンシェルジュを通して提示した解決策が、必ずしも100%の正解でない場合もあるかもしれません。しかし、入居企業らが抱える悩みをまずは「受け止める」場がなければ、そもそも課題解決などあり得ません。寄せられた相談についてヒアリングをした結果、「こんな風にやってみては」との提案ができる場合もあれば、「いろいろ可能性を探ってみて、今までのやり方が最適だと分かった」というケースもあります。デジタルのように白黒を明確化できるケースの方が少ないのです。物流というビジネスが、いかに人間性にあふれたものであるかを実感する瞬間でもあります。

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「相談すれば何らかのアイディアが」GLPコンシェルジュが目指す方程式とは?

「顧客からの信頼や感謝の気持ち、それは一朝一夕には真似されない貴重な宝物だ」。GLPコンシェルジュのサービス化にあたって小鷲氏ら推進メンバーが誓い合ったフレーズだ。スタートから2年目を迎えて、コンシェルジュサービスはどんな価値を新たに創出していくのか。それは入居企業のビジネス価値のみならず、物流施設の概念までも変えていくのだろうか――。

――GLPコンシェルジュもスタートして2年目に入りました。今後の展開を教えてください。

小鷲 GLPコンシェルジュの生まれた背景を考えるならば、入居企業の「駆け込み寺」としての役割はしっかりと守っていく必要があると考えています。ここは決してぶれないポイントです。門戸を狭めることはしたくありません。一方で、2年目を迎えた今の段階では、GLPコンシェルジュがとりわけ得意とする”方程式”を確立する必要があると考えています。つまり「このジャンルの悩みをGLPコンシェルジュに相談すれば、必ず何らかのアイディアを提案できる」という構図です。直近では、ラストワンマイル輸送や物流機器関連のメニューに厚みが出てきました。当社が単独で解決できることは限られているので、約250社からなる「コンシェルジュパートナー」の強みを生かして、解決力と自信をさらに高めていきます。

――日本GLPの本業である倉庫関連以外の相談対応も積極的に進めていく方針ですか。

小鷲 現時点では倉庫・スペース関連の相談が全体の7割以上を占めています。とはいえ、GLPコンシェルジュではこうした「拠点最適化」以外にも、「輸配送」「雇用支援」「資材・備品」「自動化」「施設運営」をそろえた6つのソリューションでサポートする体制を整えています。なかには日本GLPが取り扱うイメージの薄い分野もあるかもしれませんが、相談対応の実績を着実に積み上げていき、「物流不動産デベロッパーが、こんな相談にも対応してくれるんだ」といった認知が広がれば、新たなジャンルの相談もどんどん増えてくるのではないかと考えています。

――とは言え、GLPコンシェルジュの最大の強みは、やはり拠点最適化、いわゆる倉庫ではないですか。

小鷲 コンシェルジュサービスを1年あまり展開して実感したのは、多様な相談を受け付ける仕組みを整備したとはいえ、やはり倉庫・スペース関連の紹介がコアになっていることです。倉庫ビジネスの基本はいわゆる「床」であることを考えれば、当然の帰結なのかもしれません。GLPコンシェルジュが今後進むべき方向性について考えるときに、意識すべきなのは「多角化」と「コア領域への集中」のバランス感覚。現時点でどちらかに傾注する意図はありませんが、あくまで入居企業の幅広い相談にも対応できる体制を構築しておく必要があるとのスタンスは堅持していきます。この部分が揺らいでしまっては、「コンシェルジュ」という本来の性質を喪失することになりかねず、入居企業に寄り添い、物流事業の価値を最大化するという我々の願いも実現できなくなってしまうからです。

▲日本GLP「GLPコンシェルジュ」のメンバー。中央が小鷲氏(出所:日研トータルソーシング)

>>(後編)物流サービス支援、それがコンシェルジュの役割だ